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煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第二章・ティレク連邦編

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《第38灯:自己否定》~執着と否定の狭間~

断章《第38灯:自己否定》アッシャー・フェイスが出現。

断章ボスの本質が明らかになる大バトル!

記憶と自己否定を模倣するボスに挑む佐和子たち。

【ミュリア&マーレ:緊張と毒の応酬】


別ルートに弾き飛ばされたミュリアとマーレは、

壁面に走る血管状の魔力脈をたどりながら進んでいた。


脈が微かに震え、熱い息づかいのように壁をうねらせる。


「私は後衛です。貴方が戦闘に回っていただけると助かります」

冷静な口調のミュリアに、マーレは唇の端を吊り上げる。


「あら、先に煩悩をいただいて逃げてしまうかもしれませんよ?」

軽口の裏に探るような含意。


ミュリアの眉がわずかに動いたが、即座に無表情へと戻る。

「煩悩の計測値が一定を超えれば、

 あなたとてバルグと同様に獣となります。

……お気をつけて」


そう言いつつ、懐から定規のような霊府を取り出し、

壁の脈に当てた。


霊府に刻まれた赤い針が跳ね、脈の流れが視覚化される

──コアへの道筋が、赤い糸のように浮かび上がる。


「この脈がコアに繋がっています。予測通り、分裂型ですね」


マーレの目が細まる。言葉の棘が交錯しながらも、

二人の視線は同じ一点──煩悩の脈へと吸い寄せられていた。

「……観測と、執着。似て非なるものね」


「ええ。けれど、どちらも“見続ける”点では同じですわ」

マーレの肩の煩悩破片が、かすかに疼く。


【セリア&アントニオ:ボス遭遇】


「おい、あの後、帰ったら速攻バレたぜ」

セリアは頭を掻きながらアントニオに報告する。


「ははっ、俺もだ。

聖騎士団長に相応しい振る舞いをしろとお叱りを受けた」


「「でもまあーー」」

二人は同時に振り返り、

目の前の巨大な煩悩融合体に挑みかかっていく。


「2人でボスを倒しちまえば、

ハッピーエンドだ。手柄を立てれば文句もないだろ」


「完全に同意だ。お前とは感性がぴったりだ!」

身体強化の魔法が2人を覆う。


セリアは冥斧を、アントニオは剣を構え、

左右から同時に飛び込む──挟撃。


煩悩の巨躯に衝撃が走り、粘質の肉が爆ぜる。

声も掛けずとも、2人の呼吸は戦場で完全に噛み合っていた。


セリアの冥斧が裂き、アントニオの剣が抉る

──一撃で巨躯の腕が千切れ飛ぶ。

一拍遅れて、空気が震える。


「これで終わりだッ!」セリアの叫びが、爆音を裂く

──が、巨躯の裂け目から黒煙が噴き、


咆哮が反響する。

再生の兆しが、笑うように広がる。


【再合流前】


洞窟の奥から、金属音と咆哮が断続的に響いてくる。

「誰か戦ってるぞ。急ぐぞ」ディレクの声に、佐和子が頷く。


式神の足音が、急ぎ足になる

──咆哮が、嘲笑のように反響する。


【ボス部屋:王の行方と動揺】


白蜘蛛の導きで、

佐和子とミュリア達はほぼ同時にボス部屋に辿り着く。

そして、全員が同じ疑問を持った。


「アントニオ、トロン王は一緒じゃなかったのか?」

ディレクの声に非難が混じる。


「それはこちらのセリフだ」

アントニオは巨大な仮面に大剣を叩き込みながら応じたが、

剣先がぴたりと止まる。


裂けた装甲の内から現れたのは、

“己を否定した王”の顔だった。


それは救いを乞うでもなく、ただ静かに笑っていた

──瞳が、皆の影を映す鏡のように。


「この状態なら、まだ間に合う!」

マーレが一瞬の隙を突いて飛び込む。


「煩悩兵器の言うことが信用できるかよ!」

ディレクも聖剣を構え、

マーレが射線にいるにも関わらず振り上げた。


「ちょっとはマシになったと思ったのに」

佐和子が無言で背後からディレクの腰を蹴り飛ばす。


体勢を崩した彼の剣は空を切り、

代わりに佐和子が前へ一歩出る

──黒槍を構え、王の瞳を射抜くように。


マーレは露出した王を避けるように斬撃を当てる。

「《執撃残響》(しっぷうざんきょう)!」

空間に刻まれた剣閃が震え、アッシャー・フェイスに炸裂。


遅れてもう一撃が同じ個所に重なり、

王の拘束部分を深々と裂く。


その瞬間、空気が変わった。


煩悩が濃密に凝縮され、

王の姿を隠し視界に“色のない色”がにじむ


──白と黒の境界が溶け、吐き気を催す無彩色が広がる。

重力すら軋むような圧力が肌を刺し、空間が悲鳴を上げていた。


中は……空だった。


だだっ広い闇の広間に、天井も、床も、壁の境も存在しない。

地面すら、幻のように踏みしめるたび波紋を描く。


「空間ごと……閉じたのか?」

ディレクが警戒を強めた瞬間だった。

“それ”は、唐突に姿を現した。


まず、ひとつの“手”が現れる。

巨大な、しかし精密な“誰かの手”。

それがどこにも繋がっていないまま、

空間の端からヌルリと浮かび上がる。


続いて、“顔”。セリアの顔。

そして、ディレクの顔。

佐和子の顔。マーレの顔……。


四人の顔が、ひとつの塊から次々と“複製”されて膨れ上がっていく。


笑っている顔。

怒っている顔。

泣いている顔。

裏切っている顔。


それぞれの感情だけが切り取られ、

ねじれ、混ざり合い、形を持たない“意志”がその中心に居座る。


──それが、《第38灯:自己否定》。

“本来の姿を持たず、対象の記憶から姿を模倣する存在”。


「……外見も、思考も、私たちを“否定”しているのか」

佐和子が呟いた瞬間、模倣された“彼らの顔”が同時に喋り出した。


「さわこ、たすけて」


「わたしが、正しいんだよね?」


「行かないで……行かないで……」


「ちがう、これはちがう、やりなおさせて」


断章ボスが、**“記憶に刻まれた否定の声”**を繰り返す。


それは、声帯がないのに鳴り響く、

直接思考に介入してくる“干渉”だった

──エコーのように、頭蓋内で反響する。


《持ちこたえろっ、必ず助ける!》

どこかでアントニオの声が響く。


「精神干渉、来る……!」

マーレが言い終わる前に、空間が反転した。

視界が白黒に切り替わり、自我と他我の境界が溶けていく。


──自分が自分である証明が、消えていく。

声が、顔が、皆の否定を囁き続ける。


戦術と感情が交錯する戦場で、

佐和子たちはそれぞれの“役割”を超えて進み始めます。

第二章残り3話です。

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