《第38灯:自己否定》~執着と否定の狭間~
断章《第38灯:自己否定》アッシャー・フェイスが出現。
断章ボスの本質が明らかになる大バトル!
記憶と自己否定を模倣するボスに挑む佐和子たち。
【ミュリア&マーレ:緊張と毒の応酬】
別ルートに弾き飛ばされたミュリアとマーレは、
壁面に走る血管状の魔力脈をたどりながら進んでいた。
脈が微かに震え、熱い息づかいのように壁をうねらせる。
「私は後衛です。貴方が戦闘に回っていただけると助かります」
冷静な口調のミュリアに、マーレは唇の端を吊り上げる。
「あら、先に煩悩をいただいて逃げてしまうかもしれませんよ?」
軽口の裏に探るような含意。
ミュリアの眉がわずかに動いたが、即座に無表情へと戻る。
「煩悩の計測値が一定を超えれば、
あなたとてバルグと同様に獣となります。
……お気をつけて」
そう言いつつ、懐から定規のような霊府を取り出し、
壁の脈に当てた。
霊府に刻まれた赤い針が跳ね、脈の流れが視覚化される
──コアへの道筋が、赤い糸のように浮かび上がる。
「この脈がコアに繋がっています。予測通り、分裂型ですね」
マーレの目が細まる。言葉の棘が交錯しながらも、
二人の視線は同じ一点──煩悩の脈へと吸い寄せられていた。
「……観測と、執着。似て非なるものね」
「ええ。けれど、どちらも“見続ける”点では同じですわ」
マーレの肩の煩悩破片が、かすかに疼く。
【セリア&アントニオ:ボス遭遇】
「おい、あの後、帰ったら速攻バレたぜ」
セリアは頭を掻きながらアントニオに報告する。
「ははっ、俺もだ。
聖騎士団長に相応しい振る舞いをしろとお叱りを受けた」
「「でもまあーー」」
二人は同時に振り返り、
目の前の巨大な煩悩融合体に挑みかかっていく。
「2人でボスを倒しちまえば、
ハッピーエンドだ。手柄を立てれば文句もないだろ」
「完全に同意だ。お前とは感性がぴったりだ!」
身体強化の魔法が2人を覆う。
セリアは冥斧を、アントニオは剣を構え、
左右から同時に飛び込む──挟撃。
煩悩の巨躯に衝撃が走り、粘質の肉が爆ぜる。
声も掛けずとも、2人の呼吸は戦場で完全に噛み合っていた。
セリアの冥斧が裂き、アントニオの剣が抉る
──一撃で巨躯の腕が千切れ飛ぶ。
一拍遅れて、空気が震える。
「これで終わりだッ!」セリアの叫びが、爆音を裂く
──が、巨躯の裂け目から黒煙が噴き、
咆哮が反響する。
再生の兆しが、笑うように広がる。
【再合流前】
洞窟の奥から、金属音と咆哮が断続的に響いてくる。
「誰か戦ってるぞ。急ぐぞ」ディレクの声に、佐和子が頷く。
式神の足音が、急ぎ足になる
──咆哮が、嘲笑のように反響する。
【ボス部屋:王の行方と動揺】
白蜘蛛の導きで、
佐和子とミュリア達はほぼ同時にボス部屋に辿り着く。
そして、全員が同じ疑問を持った。
「アントニオ、トロン王は一緒じゃなかったのか?」
ディレクの声に非難が混じる。
「それはこちらのセリフだ」
アントニオは巨大な仮面に大剣を叩き込みながら応じたが、
剣先がぴたりと止まる。
裂けた装甲の内から現れたのは、
“己を否定した王”の顔だった。
それは救いを乞うでもなく、ただ静かに笑っていた
──瞳が、皆の影を映す鏡のように。
「この状態なら、まだ間に合う!」
マーレが一瞬の隙を突いて飛び込む。
「煩悩兵器の言うことが信用できるかよ!」
ディレクも聖剣を構え、
マーレが射線にいるにも関わらず振り上げた。
「ちょっとはマシになったと思ったのに」
佐和子が無言で背後からディレクの腰を蹴り飛ばす。
体勢を崩した彼の剣は空を切り、
代わりに佐和子が前へ一歩出る
──黒槍を構え、王の瞳を射抜くように。
マーレは露出した王を避けるように斬撃を当てる。
「《執撃残響》(しっぷうざんきょう)!」
空間に刻まれた剣閃が震え、アッシャー・フェイスに炸裂。
遅れてもう一撃が同じ個所に重なり、
王の拘束部分を深々と裂く。
その瞬間、空気が変わった。
煩悩が濃密に凝縮され、
王の姿を隠し視界に“色のない色”がにじむ
──白と黒の境界が溶け、吐き気を催す無彩色が広がる。
重力すら軋むような圧力が肌を刺し、空間が悲鳴を上げていた。
中は……空だった。
だだっ広い闇の広間に、天井も、床も、壁の境も存在しない。
地面すら、幻のように踏みしめるたび波紋を描く。
「空間ごと……閉じたのか?」
ディレクが警戒を強めた瞬間だった。
“それ”は、唐突に姿を現した。
まず、ひとつの“手”が現れる。
巨大な、しかし精密な“誰かの手”。
それがどこにも繋がっていないまま、
空間の端からヌルリと浮かび上がる。
続いて、“顔”。セリアの顔。
そして、ディレクの顔。
佐和子の顔。マーレの顔……。
四人の顔が、ひとつの塊から次々と“複製”されて膨れ上がっていく。
笑っている顔。
怒っている顔。
泣いている顔。
裏切っている顔。
それぞれの感情だけが切り取られ、
ねじれ、混ざり合い、形を持たない“意志”がその中心に居座る。
──それが、《第38灯:自己否定》。
“本来の姿を持たず、対象の記憶から姿を模倣する存在”。
「……外見も、思考も、私たちを“否定”しているのか」
佐和子が呟いた瞬間、模倣された“彼らの顔”が同時に喋り出した。
「さわこ、たすけて」
「わたしが、正しいんだよね?」
「行かないで……行かないで……」
「ちがう、これはちがう、やりなおさせて」
断章ボスが、**“記憶に刻まれた否定の声”**を繰り返す。
それは、声帯がないのに鳴り響く、
直接思考に介入してくる“干渉”だった
──エコーのように、頭蓋内で反響する。
《持ちこたえろっ、必ず助ける!》
どこかでアントニオの声が響く。
「精神干渉、来る……!」
マーレが言い終わる前に、空間が反転した。
視界が白黒に切り替わり、自我と他我の境界が溶けていく。
──自分が自分である証明が、消えていく。
声が、顔が、皆の否定を囁き続ける。
戦術と感情が交錯する戦場で、
佐和子たちはそれぞれの“役割”を超えて進み始めます。
第二章残り3話です。
応援よろしくお願いします!




