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煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第二章・ティレク連邦編

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《第38灯:自己否定》煩悩断章アッシャー・フェイス

煩悩の灯火が揺れる地下空間。

分裂型ボス“自己否定”との戦いに挑む佐和子たち


ボス部屋前の大扉。

消えることのない松明が、

地の底のような空間を不規則に照らしていた。


熱が壁を這い、

岩肌の裂け目から吹き出す蒸気が赤い脈を描いて揺れる。

地脈が呻き、大地の奥から低い音が続いていた

――まるで“何か”が息をしているようだった。


「……もうすぐだな」

ディレクが剣を抜き、鉄の音が静寂を裂く。


「この先が断章ボスの中枢。

恐らく、“自己否定”の断章に関する具現化がある」

佐和子が小さく頷き、揺れる灯の中で周囲を見渡した。


「正式名称は――『第38灯煩悩断章:アッシャー・フェイス』

反応点が複数。つまり、“自分を分ける”タイプのボスです」

ミュリアが補足する。


「分ける? 頭がいくつもあるとか?」


「それとも身体ごと分裂か?」


「どちらとも限らないわ」

ミュリアは指を唇にあてて考え込む。

「記録では──“自己の形を持てぬ否定”」


「攻撃手段は戦ってみるしかないか」

アントニオが大楯を広げ、先頭に出ようとする。

その時、マーレが穏やかな声で割り込んだ。


「ふふ、“情報収集”が得意な方々の努力、

無駄にはいたしませんわ。

それを基に役割分担と参りましょう」


腰のポーチから三枚の札を取り出し、指先ではじく。

札が光を放ち、空中に簡易戦術図が展開された。


赤い線が浮かび、位置関係が明滅する。


「前衛はアントニオ、ディレクさん。

広域制圧と補助はわたくし。佐和子様は核の構造解析を。

ミュリアとトロンさんが結界サポート。セリアさんは――?」


「突撃専門しかできねぇ。

でも、さっちゃんの補助は最優先で動く。いいな?」


「ええ。ではそのように。

多重核なら、断続的なコア露出に合わせて同時攻撃が必要。

つまり、“反応の速さ”と“連携の精度”が鍵ですわ」


札が変化し、赤い点滅が時間ごとに変化した。


「要するに、殴るタイミングを逃すなってことね」

セリアがにやりと笑い、斧の柄を回す。


「さっちゃん、大丈夫か。

構造解析って神力使うんだろ?」


「うん、平気。……でも分裂型は見極めが難しい。

コアを外すと増えると思う」


「それを外さないのが、わたくしの役目ですわ」

マーレは笑みを崩さず、けれど声はどこか祈るようだった。


「報酬を得るには“的確な一撃”が必要。お忘れなきよう」


「煩悩兵器のくせに、祈ってるように聞こえるぜ」

ディレクが呆れた声を上げる。


マーレは静かに応えた。

「わたくしは兵器ではなく、“結果の奴隷”ですもの。

勝算が高まるなら、どんな手でも使いますわ」


――肩の断章破片が、かすかに疼いた。

沈んだ感情が、微かな声で囁くように。


空間の震動が強まる。煩悩の密度が跳ね上がり、

光が点滅する。ボスの覚醒が、始まろうとしていた。


「……行こう。誰も死なせないで、終わらせる」

佐和子の声が、静かな祈りのように響いた。


ミュリアが式神をユリハから白蜘蛛に変える。

「この短期間に式神を創造したの?」


マーレが驚くと、ミュリアは頷く。

「背中の触手をイメージして、白蜘蛛を生み出しました。

全員を糸で把握し、連携を支えます」


白蜘蛛の瞳が光る。ボス部屋の扉が開くと、

空間が鳴動した。


【転移罠発動:空間歪曲開始】


世界がねじれ、

金属を引き裂くような音が響く。


視界が反転し、

吐き気と耳鳴りが襲った。


――そして、物語は分岐する。


【佐和子と勇者の距離】


世界がねじれ、金属を引き裂くような音が響く。

視界が反転し、吐き気と耳鳴りが襲った。


光と影が、天地を反転させるように渦巻いた。

耳鳴りが世界を埋め、胃の奥が捻じ切れるような感覚だけが残る。

そして、一瞬の“無音”。


その直後――床が崩れるような衝撃とともに、

二人は別の場所へと投げ出された。

熱。息苦しいほどの熱気が肌を刺し、肺を焦がす。


それでも佐和子は、無言で立ち上がった。

指先に微弱な光の糸をまとわせ、周囲を照らす

――赤黒い壁が、脈打つ血管のように浮かび上がる。


「……庇わなくてよかったのに」


隣では、勇者ディレクが膝をついたまま息を整えていた。

肩のマントが焦げ、片手の剣には黒い煤がこびりついている。


「でも、ありがとう」

佐和子が小さく呟くと、


ディレクは照れ隠しのように肩をすくめた。

「お前みたいな小さい子、

放っておけないんだよ。……それが勇者の仕事さ」


佐和子は返事をせず、ただその背中を見つめた。

煤けた鎧の隙間から、光が一筋、差し込んでいた。


「……勇者って、そういうもの?」ぽつりと呟く声。


ディレクが振り向く。

「なぜ、そんなことを聞く?」


「だって……。あなたは“勇者”であることに、

こだわりすぎてる気がする」

佐和子の目が、赤い灯に反射して揺れた。


その瞳には――問いではなく、

“洞察”の色が宿っていた。

ディレクの視線を、静かに受け止める。


「……エルフの長老に言われたからだよ」

ディレクは小さく笑い、剣を地面に突き立てる。

「トロン王が“王”を名乗れぬなら、代わりに俺が“勇者”として立て。

そう言われた。権威に従わぬ者は、警戒対象になるからな」


その言葉に、佐和子の表情がわずかに曇る。

――あったこともない、エルフの長老がますます嫌いになるな。

心の底で、そんな言葉が静かにこぼれた。


彼女は、勇者の横顔を見つめながら歩き出す。

「進路は問題ない。ミュリアの式神が、案内してくれる」


足元を、小さな白蜘蛛が這っていた。

糸を残しながら、淡い光で通路を照らしている。


「……蜘蛛か。あいつ、また新しいのを作ったな」

ディレクの声に、佐和子は少しだけ微笑んだ。


「白蜘蛛は、ミュリアの視線の代わり。

あの子の“観察”が、どんな距離でも届くようにしてある」


蜘蛛の足音が、微かに響いた。

それはまるで、彼らを試すような静けさだった。


二人は、血管のように脈打つ通路を進む。

壁の赤が脈動し、微かな振動が足元を震わせる

――まるで生き物の体内を歩いているかのようだった。


「……この通路、まるで臓腑みたいだ」


「自己否定の断章。“内側の拒絶”が形になっているのかも」

佐和子の言葉に、勇者はわずかに眉をひそめる。


その直後、奥から重い金属音が響いた。

咆哮のような余韻が、壁を震わせる。


「誰か戦ってる……。急ぐぞ」

ディレクの声に、佐和子が頷く。


白蜘蛛が糸を震わせ、前方を指し示す。

その糸は、まるで祈りの線のように続いていた

――先端が、かすかに王冠の影を映すように、

嘲笑うように揺れる。

断章ボス戦、いよいよ開幕です。

次回、分岐の先で彼らが何を目撃するのか

──お楽しみに!


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