B級断章:怠惰の玉座を叩き割れ!
B級ダンジョン〈怠惰の断章〉攻略戦。
立ちはだかるのは寝椅子と融合した執政官ソファル。
全員の呼吸は荒く、足取りは重い。
それでもそれでも誰一人、
瞳の光を失ってはいなかった。
佐和子が黒槍を掲げ、仲間たちに叫ぶ。
「削り切らないと復活するよ!」
轟音と共に寝椅子が歪み、
怠惰の執政官ソファルは玉座ごと変貌を遂げた。
肉体は黒い石に覆われ、
寝椅子と融合した巨像のような姿となる。
無数の触手が四方へ伸び、
抱き締めるように絡みつくと、
絡め取られた者の体から力を吸い取り、
瞼を鉛のように重くさせていった。
「……眠れ……もっと楽に……」
巨体の口から吐き出された大欠伸は、
広間そのものを震わせる衝撃波となり襲い掛かる。
吹き飛ばされた者の意識を鈍らせ、
武器を取り落とさせるほどの催眠波だった。
「……ふざけんな。傷ひとつなかったことにしやがった!」
セリアが歯噛みする。
「見たでしょう、ステータスは正しいのです!」
トロンは必死に訴えるが、
佐和子は冷ややかに黒槍を構えた。
「数字なんかどうでもいいわ。
欠伸ごと叩き割れば終わるのだから」
次の瞬間、触手の奔流が襲いかかり、
聖騎士アントニオの盾を容赦なく打ち据えた。
鋼鉄の甲冑が裂け、鮮血が床を染める。
「ぐっ……まだ、立てる!」
膝を折りながらも、アントニオは大盾を掲げ続けた。
「アントニオ、スキルを解放しろ。
負けては意味がない!」
トロンは治癒の指輪をかざしながら叫ぶ。
「シア・ルイン」ミュリアの詠唱が響き、
紫の光線が爆ぜる。
衝撃波が広間を震わせ、ソファルの巨体を焼いた。
「次は……斧だ!」
セリアが魔斧を振りかぶり、烈風と共に叩き込む。
轟音が玉座を裂き、石片が飛び散った。
しかしソファルは寝椅子から立ち上がらない。
ただ呻きながら、怠惰の呪言を吐き続ける。
「……眠れ……永遠に……」
「聖經守護!」
アントニオの大盾を中心に
聖なる光が波紋の様に広がっていく。
守護結界の波がソファルの広間を満たす靄と
干渉しあい、激しい衝撃が発生する。
トロンは必死に意識を繋ぎとめ、指輪を構え直した。
「睡眠・倦怠解除!」
魔斧が閃き、巨体の胸板を穿つ。
大盾で防御を張るアントニオの背後から、
勇者ライザックが飛び出した。
「待たせたな! これで決める!聖天光路!」
聖剣から光の帯が伸び、巨像の胴を薙ぎ裂く。
ソファルの咆哮が広間を震わせ、
最後の大欠伸が吐き出された。
眠気の奔流と轟音が、
仲間たちの意識をまとめて呑み込もうとする。
「二度も使わせないよ」
佐和子が黒槍を掲げると紫の靄が吸い込まれていく。
「おお、霊道卿はB級断章ボスの構造解析も出来るのか」
「あんまり期待しないでよ。セリアっ!」
「……任せろ。最後は、あたしが決める!轟鳴一閃」
魔鎧が軋み、彼女の全身を赤光が包む。
咆哮と共に振り下ろされた魔斧プルートは、
怠惰の権化を真正面から叩き割った。
欠伸の眠気波と轟鳴一閃が正面から激突し、
轟音が宮殿を揺らした。
ソファルの巨体は玉座ごと崩れ落ち、
砂のように砕け散る。
重苦しい靄が晴れ渡り、
広間に柔らかな光が差し込んだ。
「……終わったね」
佐和子が槍を杖代わりにしながら息を吐く。
「よく立ってたな、セリア」
アントニオが血だらけの顔で笑みを浮かべる。
仲間たちが笑い合うなか、
佐和子は寝台にある大きな燭台で手を組み、
祈るように魔力を注いだ。
怠惰に侵された空間に、灯がともる。
『世界寿命102日延長』
揺らめく光は眠気を誘う靄を払って広間を満たし、
砕け散った巨体を静かに包み込んだ。
「……なるほど。確かに灯は彼女に宿っているらしい」
アントニオが低く呟く。
周囲の喧噪とは無縁に、
佐和子はただ静かに光を抱いていた。
■ ドロップ品
•ソファルの寝衣(魔具防具)
睡眠耐性上昇+MP自然回復大。
デメリット:行動速度低下。
•倦怠の枕石(素材)
錬金術に用いると
「休息のポーション」や「精神安定剤」になる。
•ドリームロータスの蜜(消耗品)
使用するとHPとMPを即時回復。
ただし数ターン行動が鈍くなる。
「ボスの素材は総取りだったよね」
佐和子は鼻息を荒くしてトロンを見下ろす。
「もちろんだ。素材の運搬もしてやろう」
アントニオは巨大な寝台に乗せられた
素材を丸ごとアイテムボックスに入れた。
「すごいっ」三人は声をそろえて叫ぶ。
「確かに高品質の魔道具だが
…霊道卿なら素材さえ揃えば作れるだろう?」
「…」佐和子がぼそぼそと呟く。
「えっ?」
「私が作ると仕舞った素材がどこかいっちゃうの!
もうっ、秘密にしてたのに!」
佐和子は真っ赤になって俯いた。
「さっちゃんにも苦手なものがあったんですね。
私の目標がひとつ増えました」
ミュリアがにっこりと微笑む。
「今日だけで霊道卿の
いろいろな一面を見れた気がします」
トロンは晴れやかに笑った。
「私もトロンが頭でっかちの
ステータス厨だってわかったわ」
「あの、誤解を招く言い方なので、
ダンジョンから出たら控えて下さい」
「何の誤解なのよ?」
「あまり若王をいじめないでやってくれ」
アントニオが苦笑いを浮かべる。
一同は攻略前では考えられぬほど
打ち解けた雰囲気で帰路についた。
だが、B級浸食型ダンジョンが土地を侵食する前に
攻略するという快挙を成し遂げたにも関わらず、
合同パーティーを迎えたのはギルド長
設計主任エルド・ハシェムの重いため息だった。
全員が役割を果たし、怠惰の権化を打ち倒す熱い総力戦になりました。
ぜひ、評価・いいねお願いします。
次回9/24更新です。