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煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第一章・サン=ヴォーラ王国編
3/22

F級素材集めと、小さな発見

ギルドで素材の換金を済ませると、三人は防具店に向かった。


「セリアが前衛で活躍できるのはわかったから、ミュリアは銀の甲冑は必要ない」


ちび佐和子はぴしゃりと言い放った。


「後衛のミュリアには重たいだけ。ちゃんとしたローブを買いに行く」


防具店の老店主が棚の奥から黒い法衣を取り出す。


「こいつはどうだい? 魔法の法衣だ。


受けた魔法の二割ほどを自分の魔力に還元できる」


「すごいにゃ……!」


ミュリアが目を輝かせた。


しかし——


「いらない」


ちび佐和子はきっぱり言った。


「魔法を“受けること”が前提? 


そんなの、失敗する気満々ってことじゃない。ナンセンス」


「……わかったよ」


店主が肩をすくめ、棚の下から別の布を取り出す。


「じゃあ、こっちはどうだ? 軽くて通気性もいい。絹のローブだ」


ミュリアがそれを見て、ぱっと尻尾を立てた。


「やわらかそう……!」


「ミュリアはF級冒険者でも、私はA級。お金はある」


ちび佐和子はそう言って、店主の前に金貨の袋をどさりと置いた。


袋の口が開き、金貨がカウンターの上を転がる。


「時間がもったいない。一番いいものを、ミュリアにぴったりな形で」


その目は真剣だった。


「へいへい、ちびっ娘A級さまのおな〜りだ。まいどあり!」


**


次の日、ボスのグレイウルフ戦が終わると、またもや言い争いが始まる。


「今日のボスはグレイウルフよっ!牙が貴重な素材!」


戦闘終了後、ちび佐和子は慎重に牙を抜き始めた。


「グレイウルフの牙は、薬師が抗魔解毒剤に使うから、折れちゃだめ」


セリアが渡された牙を雑にリュックに放り込もうとすると、


血でつるりと滑った牙が宙を舞って岩に刺さる。


「セリアぁぁあ! せっかく綺麗な形で渡したのにっ」


「ごめんにゃ」


「グレイウルフの毛皮、ぬくぬくで高品質。ぜんぶ私の枕に……」


ミュリアが抱えて離さない。


「ダメ! 冷却パッドの裏地に使うの!看護師天使の私には必要不可欠!」


素材の山を挟んで、二人はにらみ合った。


「よし、裁定は素材鑑定で!」


**


素材換金後、三人は街のカフェでクレープを食べていた。


「うまっ。やっぱムカデ殻、金貨二枚で売れたにゃ」


「でも、明日はもっと強いボスに挑戦してみよう」


「よーし、明日はもっと先のF級ダンジョン。グレムリンを討伐して、魔素繊維ゲットだよっ」


ちび佐和子の素材探索は続く!


「あとF級ダンジョン2回攻略でEランクへ昇格可能です」


「毎日ダンジョンを探索するなんて尋常ではありません。


少しは休暇を取られて方がよいのでは?」フェリアなりの気遣いだった。


「必要ない。あんな雑魚ダンジョン毎日通える。


今日もみんなでクレープ食べてきた」佐和子はにこにこして答えたが、


後ろで聞いていた冒険者たちはざわめき出した。


「この分だと、E級までは問題なさそうにゃ」セリアも笑顔で答える。


「魔力もそうですが、神力も随分回復してきました。


――力を失うと、私とセリアはどんどん“元の獣”に近づいてしまいます」


ミュリアがぽつりとつぶやく。


「F級ダンジョンの中には信仰を得られる何かがあるのかも知れません」


その言葉に重みを感じる間もなく、すぐ横から嘲るような笑い声が響いた。


「ぎゃはははっ!俺たちが何年も探索して、何もなかったってのに、


今さら隠し部屋だ? バカも休み休み言えよ」


場の空気がぴりつく。


ミュリアを馬鹿にするその態度に、セリアが無言で武器を構える。


「――ギルド内で武器は御法度!」


佐和子がすっとセリアの脇腹に手を伸ばし、軽くくすぐった。


「にゃっ……!」


一瞬で緊張が緩む。セリアがふにゃっと鳴いて後ずさった。


「……いや、俺も悪かったよ。信仰ってんなら、


王宮にでも行くこったな。聖宮には、巫女が“創生の女神”に祈りを捧げてるって話だし」


「めんどくさい。ダンジョンで素材集めてる方が楽しい」


佐和子が素直に本音をもらす。


「ははっ。嬢ちゃん、すっかり冒険者が板についてきたな」


**


 ギルドの掲示板の前で、ちび佐和子の目が鋭く光った。


「……これだ」


 彼女の指が示すのは、F級ダンジョンの中でもひときわ高額な依頼


──『魔素繊維の回収 金貨3枚』


「魔素繊維はね、魔力を通す性質があって防具にも魔道具にも使える貴重素材ですが、


非常に繊細で、ちょっとした衝撃でもダメになると言われております」


 説明するミュリアの横で、セリアは「ふーん」とだけ言い、視線はもう昼食メニューへ。


「図鑑によれば、魔素繊維は魔力を多く含んだ


魔物の体毛や巣材に混ざっているとのことです!」と、ミュリアは得意げに図鑑と閉じた。


 こうして、次のF級ダンジョン探索が始まった。


 目的のダンジョンは、苔むした石造りの迷宮。


皮膜を持った小さな小鬼が大量に天井に張り付いている。


「セリア。今のスイングはダメ。衝撃で繊維がボロボロになるわ」


「いや倒さねーと意味ねーだろ!」


「意味はあるの! 繊維を守ってこそ価値があるの!」


そんな押し問答を横目に、ミュリアは小声で呪文を試す。


「シア・ルイン」


魔素が収縮の後、拡散を始める。


――放出には弱すぎる? あ、今度は爆発しちゃ──ひゃあ!?


壁に軽く焦げ跡ができた。


激しい羽音がして一斉に小鬼が飛び去って行った。


「ミュリア、繊維どころか素材全部燃やす気?」


佐和子は後ろで腕を組んで、どんどん機嫌が悪くなっていく。


「次は上手くやります!」


**


 迷宮の奥、物音が走り抜ける。


「いた! あれがグレムリンだな」


灰色の小柄な体に、背中に大きな被膜。


先程の小鬼より毛並みが細かく、鮮やかだ。


「よし、捕まえ──」


「待てぇぇ! 繊維が!」


セリアの全力タックルを、ミュリアが背中の触手で止める。


勢いで二人とも床を転がった。


「もう! あいつ逃げるぞ!」


「ミュリア、さっき何か買っていたでしょ?」


「はい! グレムリンは強い光を嫌うんです!」


ミュリアが腰だけ浮かせて魔道具を放り投げると、


迷宮の天井に一瞬、真昼のような光が広がった。


悲鳴を上げたグレムリンが奥へ一目散に逃げていく。


「あっ!」


セリアも崩れた体制のまま咄嗟にバトルアックスをグレムリンに投擲した。


斧はグレムリンの頭部を二つに割ると、そのまま壁面に突き刺さる。


「頭の被膜が駄目になったじゃない!」ちび佐和子の機嫌は直らない。


「おい、よく頭を狙ったって褒めるところだろ!」


セリアもさすがにふくれっ面で壁面に刺さったバトルアックスを引き抜きに行く。


そのとき──


壁面に手を当てたセリアが、不意に顔を上げた。


「……おい、奥。壁の向こう……光ってないか?」


ブックマークや評価が、この物語を最後まで紡ぐための大きな力になります。

ぜひ応援いただけると嬉しいです。


銀髪猫耳メイド ミュリア〈AIイラスト〉

挿絵(By みてみん)

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