怠惰の執政官ソファルー眠りに抗う者たち
青白い靄に包まれた庭園で、仲間たちは“怠惰の幻惑”に囚われる。
その先に待つは、玉座と一体化した怠惰の支配者――。
符を空へと放り投げる。
指が弾かれるように触手を鳴らした瞬間、
符が赤く輝き、紫電がほとばしった。
閃光が走り、目の前を覆うおもちゃを
一気に焼き切っていく。
「やめてよっ……!」
ぬいぐるみの合唱が虚空に響いた。
しかし光はすぐに不安定に揺らぎ、制御を失いかける。
「ッ、やはり安定しない!」
暴れる雷火を抑え込むように、彼女は次の符を叩きつけ、
過負荷を強制的に遮断する。
黒煙が上がり、ぬいぐるみが焼け残る。
「……ふぅ。実戦で通じたのは一瞬だけ。
でも、確かに“斬り札”にはなり得ます」
焦げた符を見下ろしながら、
ミュリアは小さく息を吐いた。
仲間は一瞬の隙を逃さず、
分裂したおもちゃを切り裂いていく。
セリアの一閃が、歪んだ舞台を貫き、
ドリームパペットは糸束へとドロップした。
■ ボス「怠惰の執政官・ソファル」
•外見:金糸のガウンをまとった半裸の巨体。
巨大な寝椅子に座ったまま戦い、
立ち上がることはない。
ギミック
1.惰性支配(フィールド効果)
ランダムで睡眠状態に陥る。
2.夢縛りの宣託
指定した人物を眠らせ、
夢幻空間で「幸せな怠惰の幻影」を見せる。
3.大欠伸(エリア攻撃)
全体に睡眠耐性チェック。
夢縛りの宣託を受けていると目覚めぬ眠りに落ちる。
4.玉座依存
HP半分を切ると、玉座と一体化し
「オート・ゴーレム」形態に変化。
最奥――眠りの玉座。
金糸のガウンを纏った巨体が、
軋む寝椅子に凭れかかっていた。
怠惰の執政官ソファル。
半裸の大男は、
欠伸混じりに冒険者たちを見下ろしている。
「霊道卿、申し訳ございませんが、
パーティの力を見せて下さい」
トロンが左右の指輪を合わせると、
その場にいる全員のステータス表示がなされた。
【BOSS】
•怠惰の執政官ソファル
HP:45,000 / 45,000(第一形態)
【合同パーティ】
•セリア(斧戦士)
HP:6,800 / 9,200 MP:610 / 1600 状態:出血(小)
•佐和子(魔法使い)
HP:3,900 / 3,900 MP:???/ ??? 状態:健常
•ミュリア(式神使い)
HP:4,100 / 5,500 MP:200 / 300
状態:水精ユリハ召喚中
•勇者ライザック(勇者)
HP:8,200 / 8,900 MP:500 / 500 状態:健常
•聖騎士アントニオ
HP:10,600 / 14,000 MP:750 / 800
状態:盾耐久 減少中(60%)
•トロン王子(王子)
HP:3,400 / 4,000 MP:980 / 1,200 状態:鼓舞バフ+
「エルフの長老にでも言われたの?
つまんない真似するわね」
佐和子が黒槍を掲げると、
自身のステータス画面が割れた。
「私達のステータスも見せるのです。
おあいこになりませんか?」
「なるわけない」
佐和子はトロンの頭を黒槍で小突いた。
「防壁が効かない?」
トロンは涙目になって頭を押さえた。
「お戯れはほどほどに!」
アントニオが二人を狙っていた
ソファルの触手を大楯で弾く。
捌ききれない触手の一部が
聖騎士の腕を裏側から裂いた。
フィールド効果。惰性支配発動。
「こんなんで眠れるかよ!
冥府プルート、魔力を吸い上げろ!」
セリアは真っ先に飛び掛かっていく。
だが、ソファルは王座から一歩も躱さず、
魔斧の一撃を浴びる。
「躱しもしないで、攻撃は普通に通るのね」
佐和子は伸びてきた触手を黒槍でみじん切りにする。
触手消滅 本体に更に追加ダメージ
「ユリハ、一緒に触手を切り裂くわよ」
ミュリアからの『水精の鎌』がソファルに直撃。
「……血気盛んな冒険者達だ。だが、働く必要などない。
眠れ。すべてを忘れ、夢の中で生きよ」
ソファルが口元を押さえる。
「大欠伸」
その声が広間に響いた瞬間、
空気が重く揺らぎ、仲間の動きが鈍る。
ライザックが剣を構えたまま膝を折り、
苦悶の声を洩らした。
「……くっ、体が……重い……」
「勇者のくせに、情けないわね!」
セリアが怒声を放ち、魔斧を振るう。
紫電の奔流が触手を断ち切り、
巨体に叩き込まれる。
ソファルの表情がわずかに歪んだ。
だが、怠惰の支配者は立ち上がらない。
ただ寝椅子に凭れたまま、だらりと片手を振る。
「夢縛りの宣託―夢こそ現実。幸せなまどろみを、
誰が拒めようか」
ミュリアがその言葉に囚われ、瞳から光が失われる。
次の瞬間、彼女の意識は別の場所へ飛ばされていた。
――エラフ公国にあるという青空を貫く
巨大な空中図書館。
無数の書架が広がり、
世界の全ての知が収められている。
そこでただ一生、本を読み耽る幸福。
「……いいな……幸せ……」
膝から崩れ落ちるミュリアを、佐和子が揺さぶった。
「ミュリア! 紅茶を忘れてる!」
「……はいっ、ただいま!」
その一言に、夢が砕け散る。
ミュリアの頬が赤く染まり、現実に戻った。
「そこまでだ!」
アントニオが大盾を掲げ、襲い来る触手を受け止める。
甲冑の隙間から血が滲んでも、彼は一歩も退かない。
「ここは俺が抑える! 皆、叩き込め!」
トロンが片手を掲げて叫んだ。
「立て! 怠惰に屈するな!」
その声に指輪が反応し、鼓舞の効果を発動。
倦怠に沈みかけた仲間たちの胸を震わせる。
勇者ライザックの目に光が戻り、
再び剣を握り直した。
「私を舐めるなよ、ぶよぶよ野郎が!」
セリアが雄叫びを上げ、魔斧を頭上から振り下ろす。
烈風が玉座を軋ませ、
ソファルの巨体が大きくのけぞった。
「……まだ……寝ていたい……」
呻く声と共に、玉座そのものが変貌を始める。
漆黒の寝椅子がうねり、
巨人の肉体と絡み合う。
金糸のガウンが剥がれ落ち、
石と魔力の鎧を纏った
「寝椅子のゴーレム」へと姿を変えた。
大広間が震え、壁にひびが走る。
「第二形態までいったぞ!本番はここからだ!!」
ライザックが剣を突きつけ、吠える。
夢に抗う戦いは、それぞれの心を試すものでした。
怠惰の執政官ソファル、第一形態撃破。
次回、9/22日更新。真の玉座が目を覚まします――。
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