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雷と礼の交差点――執着の器、マーレ・ヴァルディア

激突する二人の戦士、マーレとセリア。

冷たい感情の仮面と、真っ直ぐな怒りがぶつかり合う時、

物語はさらに深い渦へ。新たな敵影も迫る緊張の一幕です。

「あら、上手な手品ですこと」

「いい加減、喋んな…!」

マーレはその瞬間、《白薙の構え》に移行。


一切の感情を捨て、淡々と防御と反撃に徹する姿は、

まるで“美しい墓標”のよう。

激突。火花。裂傷。


二人の身体がぶつかるたび、空気が軋み、魔力が叫ぶ。

そして―― セリアが叫ぶ。

「お前…本当に感情ないのかよ…!」


マーレは一歩だけ踏み出す。

その顔には、薄氷のような表情が浮かんでいた。


「あったものを、静かに沈めただけ――」

瓦礫が弾け、雷鳴のような魔力が空間を揺らす。


セリアの《轟鳴一閃》が振り抜かれ、

白銀の軌跡が空を裂いた。

その一撃は、マーレの礼装を破り、

冷淡だった彼女の表情に微かな“揺らぎ”を生じさせる。


「……あなた様、

 随分と真っ直ぐでいらっしゃいますのね」

セリアは斧を引き戻しながら、吐き捨てる。


「さっきから…“様”づけすんな。戦ってんだよ、今」

だが次の瞬間―― マーレの装飾帯が蛇のように動き、


《静穏縛鎖》がセリアの斧の柄を拘束する。

金属音が閃き、二人の距離がゼロになる。

瞳と瞳が交錯する。

その近さに、セリアは思わず息を呑む。

「……その目。怒ってるよな?」

マーレは短く、呼吸を整えた。

「怒りとは、

 自覚せぬまま湧き上がるものでございます」

「それ、感情だぞ」 一瞬、時間が止まったような静寂。


だがそれは、“引き際の間”でもあった。

マーレは拘束を解き、セリアの斧をそっと返す。


セリアは構え直そうとするが、その目の奥には、戦う理由への疑念が灯り始めていた。

マーレは一歩下がり、軽く礼をする。


「お強いですね」

瓦礫の中で動けなくなっていたセリアは、

肩を震わせながら笑う。

「勝ち逃げすんなよ。ムカつくからさ」

マーレは頷き、振り返って去る。

その背に――セリアの声が届く。


「なあ、次は手加減すんなよ」

その言葉に、

マーレの背中が僅かに止まったように見えた。


セリアの突進が、マーレの結界をねじ伏せる。

瞬間、マーレの口元が微かに動いた。

「本当に、ご気分を害されたようで…残念です」

あまりに柔らかい言い方が逆に胸をざわつかせる。


「マーレ……ただの人間じゃない、気持ち悪い

 ……なんで、目を合わせただけで、吐きそうになるの」

佐和子は過去に異界の魔物

“ガルガンチュア”とも対峙した経験を持つが、

それとは違う“不快さ”を感知。彼女の魔力感知は

“感情干渉”にも鋭敏で、

マーレの存在から“冷たい執着の濁流”を感じ取る。


「さっちゃん、あの反応は珍しい」

ミュリアの声に反応して魔導記録球を起動。

佐和子の表情と魔力の揺れを即座に記録し、

マーレとの“接触記録”として保存。


セリアの尻尾が逆立ち、再び斧を構えた。

回廊の先で―― 空気の“温度”が変わる。


廃区の奥から、

無数の“足音がしない足音”が近づいてくる。

低く、低く、響く声が回廊に染み渡った。


「異端者たちよ。罪とは、秩序を乱した意志の代償」

闇の奥から現れたのは、顔のない仮面の群れ。

その先頭に、白銀のマーレ・ヴァルディア。


さらに後方に立つ“無顔の教導官”が、

仮面の下でわずかに口を動かす。


「贖罪は可能だ。

 汝らがヴェルム・セグロ大公国に恭順し、

 煩悩の主たる力を献じるならば」


佐和子の喉が、ひとりでに締め付けられた。

声そのものが精神を圧迫してくる。

だが次の瞬間、彼女は震える声で返す。


「あんたたち、公国じゃなくて

……自分の欲望を満たしたいだけでしょ?」

仮面の群れは、答えなかった。


その沈黙こそが、肯定の証のように響いた。

マーレの瞳が微かに揺れる。紅環が一瞬だけ拡張し、

彼女の周囲に“偽光”と呼ばれる幻覚波動が走る。


それは、断章型煩悩『執着』に特有の干渉現象だ

それは反応なのか、記憶なのか――

佐和子の周囲に光輪が浮き、幻覚干渉が弾かれる。

「私達は今日ここに来たばかり。人違いじゃないの?」

「……」


「ヴェルム・セグロ大公の名を出したわね!

 お知り合いかしら?」

ミュリアも声を張り上げる。


これだけの騒ぎで何故、誰も駆けつけて来ないのか。

セリアは周囲警戒態勢を継続。


黒印煩使団は何も言わない。

ただ、静かに、冷たく退く。

“見極めた”か、“予測不能”だったのか。

その真意は誰にも分からない。


焦れてきたセリアが一歩、そして一気に間合いを詰める。

魔力を拳に纏わせ、煩悩刻印を狙って打ち込む。

「こっちの言葉は拳で伝える!」


マーレが自動防御を展開するも、

『執着』ギフト”情念の揺らぎ”によって

契約構造に微細な崩れ。

煩使団は即座に撤退判断をする。


「戦術目的逸脱、撤退開始」とだけ残し、

空間転移で姿が消える。

幻覚の歪みだけが残り、


空間には何か“剥がれ落ちた意思”

が漂うような沈黙が訪れる。

「セリアの今の突撃はナイス」

佐和子は親指を上げた。


灰煙が収まった回廊に、しばし沈黙が降りた。

煩使団が撤退したあとも、

セリアは肩で荒い呼吸を繰り返し、

斧を地に突き立てたまま、空虚な通路を睨んでいた。


切られた首筋からは、じわじわと血がにじんでいる。

「……くそっ、何だったんだ、あの女……」

怒りとも、悔しさともつかぬ声が漏れる。


マーレの気配はすでに遠く、

残されたのは“圧迫感”の余韻だけだった。


佐和子は膝に手をつき、

肩で息をしながら小声で吐き捨てる。

「あの冷たい“流れ”…普通の魔力じゃなかった。

 感情そのものが歪んでる。……きっと、煩悩断章の力」


「はい。この気配は間違いありません」

ミュリアも頷き、

魔導記録球を指で撫でながら内心で確信する。

(記憶結晶も反応した

……“灯”だけでなく、煩悩残滓にも干渉するのね)


セリアは首筋を押さえ、深く舌打ちした。

「後だ、後! 分析は後! まずは腹が減った!」


――彼女たちが足を運んだのは、

宿屋の隣にある大傭兵酒場バルカス


石造りの大広間には酒樽が山積みされ、テーブルの上には豪快に盛られた肉塊や蒸し野菜。


笑い声と賭けの怒号、椅子の軋む音が交じり合い、

荒っぽいが妙に落ち着く喧噪が渦巻いていた。


セリアは早速、山盛りの肉にかぶりつく。

「うっめえ! やっぱ戦った後はこれだな!」

肉汁が滴るのも構わず、豪快に頬張る姿は獣そのもの。


その隣で、佐和子はスープを啜りながら、

ちらりと周囲へ視線を走らせる。

「……ねえ、見られてる」

「は?」


大柄の傭兵二人組が近づいてきて、

酒臭い笑みを浮かべる。

「嬢ちゃんたち、こんな荒れ場で飯とは度胸あるな。

よけりゃ俺たちと飲もうぜ?」


セリアは肉を噛みちぎったまま、にやりと笑った。

「悪いな、私らは“喰う専門”でね」

ごつい腕が肩に伸びてきた瞬間、フォークが音もなく突き立ち、その手首を止める。


佐和子がにこりと微笑みながら、軽く力を込めていた。

「触ったら……骨、砕けるよ」


酒場は一瞬だけ凍りつき――すぐに爆笑と野次が飛ぶ。

「ははっ! 気の強ぇ猫獣人だ!  

 愛玩動物やってりゃいいのによ!」


男たちは肩をすくめ、別の卓へと引いていく。

セリアも口の端を吊り上げ、大笑いした。

「あいつらの顔、最高だったな!」


今回はマーレとセリアの衝突を中心に描きました。

戦いの余韻と共に、彼女たちの心に芽生えた揺らぎが、

次回9/15投稿予定です。

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