表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/38

魔導列車で異世界首都へ。女神の目を持つ少女と猫耳姉妹の旅

魔導列車で首都ガルドラムへ。女神の目を持つ佐和子と猫耳姉妹は、

戦場の延長のような大都市で冒険者ギルドへと足を踏み入れる。

待つのは偏見と火花の衝突――。


サンヴォーラ王国を出た佐和子と二人は

ティレク連邦に向う魔導列車に乗り込んでいた。


「サンヴォーラ王国より随分進んでるな」

セリアがきょろきょろと車内を見渡しながら言う。


「どこかのダンジョンで魔石を大量に集めて、

 燃料としてるのね」

佐和子は席に着くなり、窓を全開に広げた。


「さっちゃん、ご機嫌ですね」

ミュリアも対面に腰掛ける。


「うん、高いお金払ったし、楽しむよ」

「それで、首都ガルドラムに着いたら、

ゼロム大公に面会はされるのですか?」


「なんで?用ないし」

「サンヴォーラ王国からの表敬訪問を取るのが、

 普通の貴族なのです」


「えーっ、嫌だよぅ。面倒くさい」

佐和子は窓の景色に目線を移した。


「私は魔具店に行って

 ユリハの強化ができるか確かめたいです」

「私は猫獣人がいるかギルドに行きたい!」

セリアが割り込む。


「サンヴォーラには、

 私たちみたいな獣人いなかったからね」

姉妹は目を見合わせ、くすりと笑った。


「ギルドでダンジョン探索の依頼出てるかも見たいし、

 そうしよっか」

佐和子がと返事したところで、

ミュリアの胸元にある記憶結晶が反応した。


「……なんて感度の良さ」

微かな光が脈打つたび、

過去の出来事が鮮明に浮かび上がる。


「これ、国宝級の記憶結晶じゃ……」

意識を読まれる錯覚に襲われ、

ミュリアは胸元を押さえた。


 連邦の中心にして「砦そのもの」

と呼ばれる大都市。

石造りの外壁は三重に重なり、

門ごとに検問と傭兵斡旋所が設置されている。


列車が首都ガルドラムに入ると、

中央に石造りの城塞。

その外周を放射状の街路が取り巻き、

外縁には各州の代表館が並ぶ。


「まさに首都って感じ」

佐和子はホームにぽんと飛び降りた。

「圧倒されました」

二人はきょろきょろと辺りを見回している。


駅を出るとすぐに鉄環亭てっかんてい

と銘打った大きな宿屋が目に入った。

「最初に拠点を確保しておくのもいいかもな」

荷物を置きたかった三人は迷わず宿屋に入っていく。


「三人で一晩泊まりたいのですが」

「一泊二食なしで銀貨十八枚だ」


片目の潰れた大男の店主が答える。

「高すぎだろ!サンヴォーラの五倍じゃねぇか!」

セリアが机を叩くと、店主は鼻で笑った。


「規則だ。嫌なら他を当たれ」

「いいよ、払う」


佐和子はためらわず銀貨を差し出した。

「お金はあるし、泊まれるだけで十分だから」


「……変わった嬢ちゃんだな。普通は値切るもんだが」

大男はしばし目を細めると、銀貨を受け取った。


「食事は隣の酒場で。部屋は大部屋を用意しておく」

「冒険者ギルドに行きたいのですが?」

ミュリアがバルチノに尋ねる。

「一本道だ。『牙折りの楼閣』

 デカいドラゴンの牙が飾っていあるからすぐわかる」

「ありがとうございます」


「よかったのですか?

セリアの言うようにぼったくりかも知れません」

「私はこの国のことを何も知らない。

 知らないことに怒れない」


佐和子は淡々と歩いていく。

ミュリアは少し背筋が寒くなった。

佐和子は女神の目でこの国を判断しようと

している。


その結果がどうなるのか

――何事も起こらなければいいけど。

再び胸元の記憶結晶がにぶく輝き始める。

――これはダメっ、違うの。

ミュリアは胸元をぎゅっと握りしめる。


「どうしたの?」

「さっちゃんは大人です」

ミュリアはとりあえず褒めるておくことにした。


通りに出ると、赤茶けた煉瓦造りの建物がびっしりと並び、

窓枠や看板には鉄と銅の装飾が光を反射していた。

「わぁ……眩しい」

佐和子は思わず手をかざしながら、

馬車に押されるように人の波へ紛れ込んだ。


絶えず行き交う荷馬車のきしむ音、馬の嘶き、

行商人たちの呼び声が重なり、

耳が忙しいほどの喧騒を生む。

「人が多すぎ!」

佐和子が車輪を避けようとしてつまずくと、

セリアが肩を貸した。


道の両脇には各州の「記念柱」がそびえ、

獣や武具の彫刻が誇らしげに刻まれている。


セリアは耳をぴくりと動かし、鼻をひくつかせる。

「牛の彫刻ばっかりだ。

なんだか“俺が一番だ”って言ってるみたいな…」


露店には剣や鎧、魔核、ダンジョン素材までが

無造作に積まれていた。

乾ききらない血の匂いが鼻を刺し、

ミュリアは思わず足を止める。


「……まだ温かい素材まで売ってます」

傭兵たちは気にも留めず、

鎧に血をこびりつかせたまま豪快に笑い合う。

その横を、見習いの少年たちが

素材袋を掲げて駆け抜けていった。


「街全体が戦場の延長みたいだ」

セリアは肩をすくめながらも、

紅い瞳はわくわくと輝いていた。


白い石造りの大門をくぐると、

ティレク連邦最大の冒険者ギルド

《牙折りの楼閣》が見えてきた。


広場には、武装した獣人たちが

群れをなして行き交っている。

筋骨隆々とした狼獣人、

背丈の倍近い熊獣人、鋭い爪を磨ぐ鷲獣人――


その光景にセリアがきょろきょろと目を輝かせた。

しかし、何かに気づき眉をひそめる。


「思ったより獣人が多いですね」

「うん、山羊の獣人と牛の獣人が特に多い」

獣人同士が群れを作っている為、ギルドはかなり窮屈だ。


「……猫耳が、いないな」

ぽつりと呟いた途端、近くで待機していた大柄な牛獣人が、

嘲笑混じりの嘶きを漏らした。


「ぶもっ……ははっ、当たり前だろうが」

低い声に、地面が震えたように錯覚する。


セリアが怪訝そうに振り返ると、

牛獣人は鼻を鳴らして言い放った。

「猫みてぇな単独行動脳が、冒険者なんてできるかよ。

少しは考えろや、チビ猫。」


刹那、セリアの紅い瞳に火が灯った。

「ぶっ殺す」セリアが一気に牙を見せ沸騰する。

牙を見せた瞬間、空気が一気に熱を帯びる。


牛獣人は口角を吊り上げ、さらに挑発を重ねた。

「群れを作れねぇ猫耳なんざ、

ティレクじゃ冒険者ギルドでも軍隊でも最初から選抜対象外だぜ。

“足手まとい”は要らねぇってのが常識だ」


その言葉に、セリアの尾がぶわっと膨らんだ。

「――弱いって言ったか、テメェ?」

「言ってねぇよ。“いらねぇ”って言ったんだ」

周囲の獣人たちも薄笑いを浮かべる。


セリアは、笑いの輪の中心に立たされたような気がして、

牙を剥いた。

「じゃあハッキリ言ってやる、モーモー野郎。

 アタシは、誰の背中も見てねぇ」


その宣言に、周囲の獣人たちが一瞬ざわつく。

狼獣人たちが互いに視線を交わし、熊獣人が低く唸る。

場の空気が軋み、広場の喧噪がすっと遠のいたように感じた。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

今回から第2章「ティレク連邦編」が始まります。


首都ガルドラムの喧噪、冒険者ギルドでの邂逅、

そしてセリアに突きつけられる偏見――。

舞台が変わり、これまで以上に政治や獣人社会の事情も絡んでいきます。


次回以降、セリアがどう行動するのか、

そして佐和子の「女神の目」が何を映すのか、


次回更新は9/12を予定しております!

いいね、評価いただけると嬉しいです。

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ