表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第一章・サン=ヴォーラ王国編
21/37

霊道卿叙勲 ― T−108年の観測

異例の叙勲と観測記録が交差する時代の転換点。佐和子の旅路が、世界の基準を塗り替える。

「霊道卿 佐和子、ティレク連邦行きを前に叙される」


霊道卿叙勲の儀

王城・玉座の間。

白銀のタペストリーが翻る荘厳な空間。

両脇には重装の騎士たちと高位神官たちが

列を成している。


玉座より、エルディの威厳ある声が響いた。

「――煩悩の迷界より現れし小さき者よ。


されど、その身に宿す光翼と霊槍、

そして魂を浄化せし道力は、

このサン=ヴォーラ王国が未だ見ぬ領域に至る力なり」


玉座より降り立った王が、金の宝珠を掲げる。

「よって、汝・佐和子を以て、

 ここに霊道卿れいどうきょうに叙す。


 これは伯爵位に相当し、ティレク連邦においても

 通用する正式なる貴族称号である」


「前に出るのだ」

グラスタン伯爵が小さな声で促す。

「前に出て飾膝きしつを付き、頭を垂れるのだ。


忠誠を誓う必要はない。

ただ、頭を下げてくれればよい」


佐和子は一歩踏み出し、王の瞳を正面から見据えた。

王もまっすぐに見返す。


続いて、脇に控えていた巫女レンに目をやる。

こちらは即座に目を逸らした。


周囲がざわめきだしたところで、

佐和子は足を進め、膝を付いた。


王はほっと一息つき、続けた。

「汝の任は、王国において――


霊的災厄の兆候を観測し、女神の代理として、

この地に煩悩の均衡をもたらすことにある」


そして、勲章が手渡された。

金銀の円盤に、「霊道卿」の文字と光翼を抱く

黒槍の紋章が刻まれている。


中央には、夜空を思わせる漆黒の宝玉が埋め込まれ、

仄かに脈動していた。


「勲章と別に、サン=ヴォーラ白金貨20枚、

C級ダンジョン以降南海岸線までの領地を下賜する」


周囲のざわめきが止まらなくなる。

「伯爵位相当だと……」


「ただの冒険者が法服貴族ということか」

「領地の下賜とは……霊道卿を世襲とされるおつもりか」

空気が凍りかけるが、王は周囲に目をやった。


「ハミルトン伯爵。卿は町の危機に何をしていたか。

王国騎士団の派遣となったことを恥と知れ」


「ウルム子爵。

 卿にC級ダンジョン攻略を何度依頼したか、

  余はもはや覚えておらぬ。

 領地を広げたいならば、実績をもって示すことだ」


臣下たちのどよめきをよそに、

佐和子はきょとんとしつつも、

金の勲章を胸にしまった。


「もう連邦行っていいの?」

「引き留めてすまなかったな」

王は微笑んだ。


その姿は、霊道卿という重い称号に似つかわず、

淡々としていた。


「ああ、ミュリア殿はここに残ってくれ。

 案内したいところがある」


 佐和子と一緒に立ち去ろうとしていた

 銀耳メイドが足をとめた。


 佐和子も訝しげに振り返る。

巫女レン・ウィは王に耳打ちした。


「遥か天空から、

 強力な信仰が断続的に佐和子様に注がれています。


女神の再来というか、

女神そのものであってもおかしくないほどです」


「ミュリア殿の安全は保証する。

私の身命にかけて誓おう」


「では、霊道卿には迎賓館でお待ちいただきましょう。

お気に召されるか心配ですが…」


グラスタン伯爵が間に入り、

少女に微笑みかけると、少し考えるそぶりを見せた。


「ミュリア、あなたも一人前の冒険者。

 ひとりで判断していいんだよ」

「はい、先に迎賓館でお待ちください」


佐和子は王から視線を逸らすと、

再びグラスタン伯爵に連れられて歩きだした。


王は静かに目を伏せ、ひとりごちる。

「……何か、余の器を測るようだったな。


 まるで、神がその目を借りて覗いていたかのようだ」


「T−108年」観測報告と寿命蝋の聖堂

聖堂の奥、結界を三重に抜けた先

――そこに、分岐観測塔はそびえていた。


人の目から遠ざけられた静寂の空間。

そこには、淡く揺れる無数の光があった。


寿命蝋じゅみょうろう

界中に存在するすべてのダンジョンの

“灯”を映す霊蝋の炎。


それぞれが脆くも美しく、

ダンジョンの活性・災厄・浄化に応じて、

色を絶え間なく変えている。


「……見えるわね」

巫女レン・ウィが静かにミュリアの前に出て案内する。


「霊道卿が踏襲したダンジョン

……あの子が関わった場所の灯は、

 どれも桃色から白金色へと変じている」


ミュリアは唇を引き結び、無数の灯を見渡す。

そして、ひとつの異様な光に視線が釘付けになる。


「……あれは……?」

「ええ」


巫女は歩み寄り、最奥の水晶台座に手をかざす。


一本の蝋燭。

他とは異なる揺らぎを帯び、まるで“時間”そのものを燃やしているかのようだった。


「これは、“滅亡分岐の収束点”の象徴」

レン・ウィは低く囁く。


「この灯が消えるとき、

世界は律崩壊りつほうかいを迎えるわ」


「……あと、どれくらいで?」

ミュリアの問いに、巫女は観測塔の球面に手をかざす。


無数の未来線が枝分かれし、

やがて一本に収束していく。


その終点に、刻印が浮かんだ。

「“灯”が一切拾われず、女神も動かなかった場合――

この世界が崩壊するまでの残存時間。あと百八年」


 ミュリアは肩を強ばらせた。

「……それが、断章記録庁で世界時間の

 基準とされているのですね」


「そう。今や、すべての預言記録、因果断章、

 未来予測はこの刻を中心に編まれる。


T−108年を境に、歴史そのものが再定義されたのよ」


しばしの静寂。


「ここからは霊道卿にお伝えするか

 あなたにお任せしますが

世界には王族しか知らない6つのS級ダンジョンがあり、


その奥では六大魔王が眠りについています。

百八年が経ち、

ダンジョンが世界を飲み込むとき、


魔王達は目覚めの時を迎え、

最後に残った種族を滅ぼします」


蝋燭の炎が、わずかに揺れた。


一瞬、まるで何かが観測されたかのように、

霊的な圧が周囲を通り過ぎる。


「……何かが変わった?」ミュリアが問う。

巫女は目を閉じて応えた。


「今のは……彼女の存在が、また一つ“未来”を拾った証。


霊道卿――佐和子。あの子が笑って生きている限り、

蝋の灯も、まだ消えはしない」


◆王城・密室


城内の応接間。壁にかけられた古びた燭台には、

火が灯っていなかった。


薄暗い空間に、ミュリアはひとり跪いていた。

扉の向こうから、靴音が一つ、また一つと近づいてくる。


「立たずともよい。

……貴殿が“灯”に選ばれし者の傍にいるならば、

我は敬意を払う側だ」


姿を現したのは、サン=ヴォーラ王国の若き王

──エルディ=ヴォーラ。


威圧感というより、

内に火を宿したような静かな気配を纏っていた。


この物語が、灯を絶やさずに進んでいけるように。

ブックマークや“いいね”が、語りを紡ぐ大きな力になります。

応援いただけたら、とても嬉しいです。


自覚のない佐和子の傍らでミュリアが世界の深淵に触れていきます…。

次回、第一章完結です!

評価・感想お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ