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煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第一章・サン=ヴォーラ王国編
13/35

《終焉の灯籠》──忘却の祭殿、第八の霊火を越えて

 佐和子は咳をひとつして、苦笑しながら立ち上がる。


「ミュリア……また一基点火した。

あと一つで、結界完成しちゃうよ。


 こいつ、完全結界状態になると

──たぶん、“神域”まで跳ね上がる。

……そうなったら逃げ場もないままなぶり殺し」


「わかってます。だからこそ、下がってください」

「シア・ルインの使用を許可するわ」


「必要ありません。あの程度のボス、

 セリアと倒して見せます!」

ミュリアはにこりと微笑むと手にしたハンカチで

素早く佐和子の汗を拭った。


「……名簿、だよ。霊廟の奥に、記録があったはず。

 “兵長は一人”……あれが鍵」


「セリア、霊廟までフォローして!」

ミュリアは身を低くして走り出した。


「ちょっと待て……この亡者ども、

三階層のスケルトンなんかより、遥かに強い!」


 セリアの顔に余裕はない。


 副葬霊からまとわりつく霊気、

肉体を補強する霊骨、そして異常な反応速度。


「ミュリア、後ろッ!」

 セリアが叫ぶも一瞬遅く、

 兵長の槍が弧を描き、ミュリアの背中を貫いた。


 ぶち、と鈍い音。

 背中の触手が三本、鮮血と共に宙を舞う。


「くっ……!この程度でっ」膝をつくミュリア。

「ミュリア、正面から受けないって言ったじゃん!!」

佐和子の叫びが響く。


 その声に、兵長の眼窩の奥が、わずかに揺れた。

兵長が霊府の結界を槍で切り裂き、

再びミュリアの背に一撃を加える。


背中の触手が皮膚ごと引き剝がされる。

「こっち向けって言ってんだよ!」

セリアが斧を構え直す。


 双子の妹が斬られた。

 自分の警戒が甘かったせいで。

「──クソが……!」


 セリアが歯を食いしばる。

「……時間稼ぎだな。ミュリア、

 まだ、立てるか?霊廟へ急げ!!」


 彼女の足元に魔力が炸裂した。

「《魔鎧解放──ッ!!》」


 轟音とともに、黒い魔鎧が噴き出す蒸気と

 雷光に包まれて形成される。


 その肌には亀裂のような魔術の光が走り、

 熱で空気が歪む。


 ──筋力上昇。耐久、反応速度、限界突破。


 “戦闘特化”の解放形態。

「……兵長だかなんだか知らないけど、

私の妹を切った落とし前、つけてもらうからな!」


 セリアが地面を蹴る。

 その姿は、閃光だった。


 兵長が槍を構え、二撃、三撃、立て続けに突きを放つ。

 けれど、そのすべてを紙一重で回避しながら、

 セリアが真横に飛び、

 腰の斧を魔力で燃え上がらせる。


「──喰らえ、

《剛閃・魔斧裂旋ごうせん・まふれっせん》ッ!!」


斧が振り抜かれ、魔力の爆発とともに

真空の衝撃が兵長を包む。

 霊骨が軋み、亀裂が一気に全身へ走った――。


 兵長の霊体が悲鳴のように震え、空気が軋む。

 その重斬の一撃が、確かに

「神力すら通さなかった鎧」を貫いたのだ。


 「噓でしょ!」

 佐和子が声を上げた瞬間、

兵長がミュリアへと向けて突進した。


 ズズン……!


 風が巻き、砂が浮き、結界が震える。

 だがミュリアは背中の出血を堪え、

一歩も引かず、すべての霊府を宙に浮かべた。


「──あなたの名前を、必ず見つけるから」

 兵長の動きが、そこで一瞬、止まった。

 その槍の切っ先が、わずかに揺れる。


 灯籠が、八つ目に火を灯そうとしていた。

 霊廟の奥、結界の中心部には、

 古ぼけた銘板がひとつ。


 黒ずんだ石の中に、魔術式の光がほのかに脈打っている。

 背後から斧閃が走った。


 セリアの魔力を込めた一撃が再度兵長の霊鎧を裂き、

空間を軋ませるような断裂音が広がる。


「──やったか……?」

 ミュリアが立ち止まり、振り返ったそのときだった。


 兵長の体がぐらつく。

 装甲の一部が砕け、魂の核が露出しかける。だが――


 ゴオッ……!

 八基の灯籠のうち、沈黙しようとしていた

最後の一基に、突如として霊火が灯った。


「しまった! 灯籠が勝手に再点火してる……!」

「自爆カウントが始まっています!離れて!!」


ギミック:全霊火が灯ると“霊哭”発動

瀕死状態で兵長が全霊火を強制的に点灯させると、

中央へ移動して詠唱を開始する。


『名を――呼んでくれ……

主君よ……我が名を……ただ、ひとたび……!』


祭壇に霊火が集い、空中に兵長の過去が浮かび上がる。


かつて彼が命を賭けて護った主君は、

戦場から消え、誰も彼の名を語ることはなかった。


兵長は「記憶されない苦しみ」で魂が砕けかけている。

「……まだ、時間はある」

ミュリアが手帳を広げ、霊廟の名簿をめくる。


「この名簿……術式で隠されてる。けど

──“たった一人”しか登録されてない。あなたは……」


ミュリアの唇が、その名を読み上げた。

「──《カラム・ユースベルク》。

あなたが、“慟哭の兵長”……!」


 ミュリアは全速力で石畳を駆け戻りながら、

声を張り上げた。

「佐和子様ッ!」


遠く、副葬霊相手に戦線を維持し続ける少女が振り向く。

黒槍を振りぬいた姿勢のまま、滲む血と汗の中で笑っていた。


「聞こえてるよ、ミュリアちゃん!」

「兵長、あなたの名は、《カラム・ユースベルク》!」


 その瞬間、兵長の全身が、揺れた。

 霊気の鎧がひび割れ、槍の軌道が鈍る。

 八つ目の灯籠が、淡く揺れて、火が灯るのをやめた。


 結界が、音もなく“逆再生”を始めていた。

 佐和子は、黒槍をくるりと回しながら、

 嬉々とした声で叫んだ。


「《カラム》……その名前に相応しい……終わりをあげるよ!」


「異世界術式・浄化の滅針」

上空に無数の黒き光槍が現れ、兵長の胸を貫いた。


 灯籠が、すべて消えた。

「カラム・ユースベルク。終わりの時が来た」

浄化の光が周囲を満たした。


終焉の灯


「あなたも……主を守る為、戦い続けていたのね」

ミュリアが手当てを受けながらつぶやく。


「最高級ポーション使うぞ」

セリアが有無を言わさず瓶の封を切る。


「…治癒の札で大丈夫よ」

「嘘つくな。二撃目はヤバい角度で入ってただろ!」


「苦労して作ったのに、すいません」

 佐和子は、小さく首を振った。


 そして、黒槍を構えたまま兵長に近づく。

 もはや兵長に表情はなかったが、その両手が、ほんの少しだけ下がる。


 灯籠の火が、七つとも消えていた。

「……カラム・ユーベスク」


 佐和子が静かに呼ぶ。

 やや発音を崩しながら、それでも優しく、名前を。


「よくやった。味方は……もう退却したわ。あなたのお陰よ」

 その言葉に、兵長の槍が、力なく地に落ちた。


 空気が揺れ、霊気の残響が静かに消えていく。

 そして、微かに震えるような声が空間に響いた。


「──おお……佐和子様。よくぞ……ご無事で……」

 その声はどこか懐かしく、

 遠く、深く、古い時代の忠義を帯びていた。


「創生の女神を……御守りできて、光栄でした」


 その瞬間、兵長の全身が、

 やわらかな白光に包まれていく。

 甲冑は消え、槍も消え、肉体さえも消えていく。


 ただ一筋、淡い光だけが残り、

 まるで霧のように霊廟を満たしていった。


 ――彼の魂は、ついに解放されたのだった。


◆ドロップ確定

ミュリアの頭上に、燐光のような光が舞い降りる。

小さな音と共に、3つの素材が順に現れる。


•灯哭の残灰 ×1

•幽鎧の破片 ×3

•慟哭の声紋石 ×1(レア確定:金光の円で出現)


「金貨100枚相当……初期装備10回買い替えられる!」

ミュリアに包帯を巻いていたセリアが場違いに

大きな声をあげ、慌てて口をつぐんだ。


ブックマークや評価が、この物語を最後まで紡ぐための大きな力になります。


ぜひ応援いただけると嬉しいです。

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