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煩悩108の異世界で、踏襲少女は紅茶とともに世界を救う  作者: ふりっぷ
第一章・サン=ヴォーラ王国編
11/35

《灯哭の霊廟》──記録は慟哭に変わる

ミュリアがギルドから借りてきた

ダンジョン詳細を読み上げる。


ダンジョン名:

追火の霊廟ついかのれいびょう5階層

古代の戦災で滅びた街の墓域に築かれた霊廟。


無念の炎を灯したまま現世に縛られた

亡霊たちが彷徨っている。

内部は常に微かな青白い灯が瞬き、視界は揺らぎ、


火を使うと霊を呼び寄せる、

消すと冷気と暗黒に襲われる


「死霊系ダンジョンか…人気無いわけですね」

「陰気臭いにゃー」

「D級ダンジョンからボス討伐時に出る

 素材は一つのみということでした」


「ここでのミュリアの課題はシア・ルインを使わず、

背中の触手と霊府のみで戦うこと」


「やってみます!」


ダンジョンボス:灯哭の兵長〈トウコクのへいちょう〉

かつて戦場で主君を守り命を落とした騎士の霊。

半分焼けただれた甲冑の中から、

青い焔が揺らめいている。


「ますます辛気くさいにゃ……」

セリアがげんなりとため息をつく。

「あなたが新調した鎧もなかなかですけどね!」


ミュリアはむしろセリアの新調した

鎧が気になるようだった。


「で、素材は何?」佐和子が続きを促す。

「倒した際にドロップする灰や金属片です。

まれに宝石が出るとの記載も……」


ミュリアが素材一覧を淡々と読み上げていく。


◆主なボス素材(ギルド確認済):

灯哭の残灰とうこくのざんかい

:焼け焦げた霊力の灰。

鍛冶・薬師に需要あり(価値:金貨10枚)

幽鎧の破片ゆうがいのはへん

:呪鎧の欠片。

魔具の核素材として使用(価値:金貨15枚)

慟哭の声紋石どうこくのせいもんせき

:霊魂の断末魔を封じた魔石。

聖具の触媒に利用される(価値:金貨50枚)


「おおーっ! F級と段違いにゃ!」

セリアが目を輝かせる。


「慟哭の声紋石が出るまで周回しよう。

ちょっと鎧の出費は痛かった…」


佐和子は無言で歩き出す。

「あ、佐和子様! この草、売れるみたいですよ!」


ミュリアが足元の苔を拾い上げる。

「いらない」

「でも、この草で生活費を稼いでいる

 冒険者もいるらしいです。


例えば……ギルドに入り浸ってるD級のザインさんとか」

佐和子はこれが何故かツボに入ったようでご機嫌となった。


「……草を売って生計を立てるザイン。かわいい」

「じゃあ持ち帰りますか?」

「いい。ザインに残しておく」


ガシャガシャと礼拝堂跡の崩れた回廊から

スケルトンが湧き出てくる。


「おっ、初のD級モンスターだな」

セリアが嬉々として飛び込んでいく。


スケルトンの振り上げた剣を正面から

バトルアックスでたたき割っていく。


「たまに鎧の破片をドロップします。

次の階層にも出没するので無理しないよう」


ミュリアが声をかける。

「任せろっ」


背後からのスケルトンの弓矢を

手甲弾きながらセリアが元気よく答える。


昆虫ダンジョンの時にはついぞ見なかった輝く表情だ。


「集まって来たな!金斧爆雷きんぷくごうらい

セリアはバトルアックスが発光したタイミングで

勢い良く地面に叩きつけると


地鳴りのような轟音が響き渡り、

周囲のスケルトンをまとめて吹き飛ばした。


離れた位置にいたミュリアのスカートが衝撃でめくれ上がる。


「ちょっと!わざとやってないでしょーね」

ミュリアは慌ててスカートを抑える。


「そんなわけねーだろっ。

あの礼拝堂の奥から次の階層に行けそうだぜ」


セリアはバトルアックスを担ぎ直すと

がれきの上を歩いていく。


「ドロップはなし、次に期待」

「私達も行きましょう」


二階層に入ると回廊の壁から不気味な声が鳴り響いてくる。


「あまり刺激しない方がよさそうですね」

二人は猫の姿に戻ると、音を立てずに歩いていく。


回廊の先にはスケルトンが待ち構えていた。

先程と違い目に光が灯り、動きも早い。


「今度は私がっ」

ミュリアはスケルトンの群れに飛び込んでいくと、


背中の触手を大きく広げ、

スケルトンを串刺しにしていく。


だが、二体程触手を躱したスケルトンが

古びた剣を振るってきた。


ミュリアは慌てて触手を折りたたみ、

瓦礫の上を転がって躱したが、脇に浅い傷を負う。


「そんなにすぐ触手だけで戦えるわけねーだろっ」

ミュリアは二本の触手で追撃してくる

スケルトンを押しとどめ、

残りの触手で薙ぎ払った。


「どうですか?佐和子様」

ミュリアが肩で息をしながら尋ねた。

「おまけで60点」


思いの外辛口の評価でミュリアはしゅんとなる。

「スケルトンを倒したら壁の声がやんだぜ」

「放っておくと、壁の声でスケルトンが再生するのでしょう」


「今回もドロップなしか…」

佐和子はすたすたと三階層に向かっていく。


回廊を抜けた先は大きな広場に出た。

広場の中央には大きな火鉢が置かれ、

大小様々な霊がふわふわと舞っている。


「死霊が中心でしょうか…

シア・ルインを使えば一掃できすですが…」


ミュリアは許可を求めるように佐和子に問いかえる。

「また猫言葉に戻っても困る、私がやる」

佐和子は黒槍を地面にトンと突いた。


「異世界術式・断縁ノ繋縛」

地面から大量の鎖が飛び出すと縦横無尽に動き回り、

魂魄を絡め取られた死霊たちが苦悶の呻き声を上げ、

次々と地に沈んでいく。


「あっ」

佐和子は中央の火鉢の傍で何かを拾い上げた。


「(霊火の破片)です。初ドロップですね」

ミュリアはにっこりと微笑んだ。


「うん」佐和子は嬉しそうにバックに仕舞う。

ミュリアに駆け寄ってきて問いただす。


「金貨になる?」

「はい、金貨一枚は固いです」


広場から続く次の階層は地上までの吹き抜けとなっており、

沢山の霊体が飛び回っていた。


「この子たちは悪意が無いみたい」

「では、ここで休憩しましょう。

 次がボス部屋になりますから」


「さっきの傷、消毒しておけよ。

 錆びた剣で切られたんだろう?」


「では、失礼して」

ミュリアは一枚の札を取り出すと、一言呪文を唱え、

傷口に貼り付けた。


「おっ、浄化とは違うのか?」

「この札を使うと少ない魔力でも同じ効果が出るのです。


熟練者になると生き物のように

札を扱うことも出来るようです」


「ミュリアにぴったりだな!」セリアは笑った。


「ここにいる霊体……しゃべってくるの、わかる?」

セリアが柱に寄り添いながら言う。


「うん。さっきから誰かが“許せ”って……」

霊廟の亡霊たちがこの柱に集まり、静かに訴えていた。


"主君を守れなかった"

"命を捨てたのに、名を呼ばれなかった"

"ただ、記憶に残りたかった"


火は静かに瞬いていた。


ブックマークや評価が、この物語を最後まで紡ぐための大きな力になります。


ぜひ応援いただけると嬉しいです。

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