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黄金色のレクス

夕焼けを乱反射し、黄金色に輝くオスカーを見ていると、あの日を思い出す。


オスカーはレクスと呼ばれる、純粋な魔鉱石をフレームにしたゴーレムの一種だった。レクスにはレベルがあり、下からE級、D級、C級、A級、S級と分けられている。

しかし、レクスは時に規格外の性能をもつものが生まれる。そのようなものは分類別に厄災級、閃光級、英雄級と分けられる。

その内オスカーは現存している中では最古の、S級レクスだった。

とは言っても、今のオスカーはテセウス機と呼ばれ、常に最新鋭機と遜色ないほどに装甲や武装の改造を繰り返している。


僕の祖父、レクレイ・ハーベストはレクスで街の治安を維持するレクスプロテクターだった。

レクスプロテクターは通常、警備やパトロールをおこなう。

しかし、有事の際にはレクスを用いて異常を殲滅する。


あれは、暑い夏の日だった。


臨界暦3030年(ダブルサーティ)、海岸から人型の白い塊が上陸し、小規模な海岸の街を6秒ほどで消滅させた。その時点での死者、8000名。

その物体はのちに、厄災級魔生体「リビング」と呼ばれた。


現場に10体のA級レクスが送られたものの、全て殲滅された。


その後、街の中心部は消滅し、150000名の死者が出た頃、祖父の搭乗したオスカーが出撃した。


オスカーは最古のS級レクスであるにも関わらず、超えられる機動力と単発火力を持つレクスは臨界暦3045年サーティフォーティーファイブとなった今でも存在しない。

これはオスカーの心臓部に設置された特殊回路が、魔力出力を底上げしていることに起因する。


オスカーの腕部にマウントされたレーザー・キャノンがリビングに直撃し、轟音が響く。

煙が晴れると、そこには何も変わらず立っているリビングがいた。

オスカーはショートブレードを構えてバーニアから赤紫色の炎を噴射して、リビングに突進した。その速度は閃光を彷彿とさせるものだった。

衝突からしばらくして、砂埃の奥に見えたものは、リビングにあと少しで触れるところで止まったオスカーだった。

オスカーが持ち方を変えて突き刺そうとするが、見えない壁に遮られてリビングに到達しない。

そのままレーザー・キャノンを放出するも、見えない壁に弾かれる。

オスカーが猛攻しているのに対し、リビングはゆっくりと形を変え、オスカーにまとわりつき始める。

それでも尚、オスカーは猛攻を続けた。

そして、オスカーが力強くショートブレードを振るったとき、砕けるような鈍い音がした。

ショートブレードは砕け散った。しかし、無駄な抵抗ではなかった。

見えない壁に黒いヒビが入り、破片が溢れるように割れた。


その時だった。オスカーの全身に白く、眩い光がヒビのように発された。

刹那、地面や空気、リビングを爆発させるように蒸発させた。


その時、祖父は死んだ。

その時幼かった僕は、祖父の死を聞いて何もできなかった無力感に苛まれた。


後にわかったことだが、オスカーにはパイロットを膨大な魔力に変換し、熱として周囲に拡散する、「サンライズ回路」が搭載されていて、本来設定されているリミッターを解除しなくてはならない。祖父はそれを解放して死んだらしい。


オスカーを見るたびに、幼き日の祖父と過ごした毎日が思い出される。

そんな祖父は、リビングとの戦いで死んだ。


そのはずだった。

今、街の中心には祖父と戦って消滅した筈のリビングがいる。その時、僕の全身の血管中に怒りと恐怖、そして殺意が血走った。

「なんで...奴がッ...?」


その時、僕は武器を探した。

そして、あるものが視界の端に留まった。

力強い巨体、金色のボディ、腕に取り付けられたキャノン、新装された二本のロングダガー。

オスカーである。


僕は無心にオスカーのところまで突っ走った。

操作法は祖父から教わっていたため知っている。

僕はオスカーに乗り込むと、パネルの操作を開始した。


魔力コンバーター起動。中枢回路にアクセス。成功。

末端回路へのアクセステスト。成功。再度実行。成功。

武装のセーフティロック。解除可能。

発進可能。攻撃可能。


オスカーを飛ばし、リビングの付近で観察した。

あの時、祖父は見えない壁を削ることができた。つまり質量がある。ならば硬度が高くとも接触は不可能ではない。

ならばーー


オスカーにはロングダガーの他に新装された装備があった。

分解グレネードである。

分解グレネードが爆発すると、強酸を周囲に撒き散らす。

それで一度攻撃しよう。


リビングまでオスカーを走らせると、僕はロングダガーを突き刺そうとした。やはり見えない壁に阻まれる。

上空へ上昇し、分解グレネードを投げつけた。

直撃し、酸が飛び散る。

「(やった!効いている!)」

その時だった。リビングは瞬く間に膨れ上がり、巨大化した。

リビングを見上げた時、怒りと殺意は恐怖と絶望に変わった。

オスカーにリビングがまとわりつき始めた時、僕は死を覚悟した。

サンライズ回路のセーフティロックに手を伸ばしたその時だった。

自動でパネルが切り替わった。

目まぐるしく表示が切り替わる。


生体認証...通過。

サンライズ回路を停止、サンセットバーストOSに移行開始。成功。

魔力出力を98%から280%に変更。

機密武装「臨界砲」を起動、アクセス。

成功。これより、半自動運転に移行。


その表示が出ると、周囲にまとわりついていた筈のリビングが消えた。

しかし、僕は死んでいない。サンライズ回路ではない...?


僕はリビングの状態を確認するため、少し離れた。

すると目に映ったのは異様なものだった。

太陽からレーザーが射出され、オスカーを溶かしている。

そして、離れた時に気づいたのだが、オスカーの機動力が格段に上がっている。

その光景に見惚れていると、いつの間にかチリ一つ残らずリビングは消滅していた。残ったのは一部崩壊した街と、陽光を跳ね返すオスカーだけだった。


その時オスカーに乗っていた僕は知らなかったが、オスカーはヒビのように青色の光が輝いていたそうだ。


僕ネイメイ・ハーベストはこの日、この街の英雄となった。


僕はそれ以降、幻覚、幻聴に悩まされるようになった。

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