花嫁の楽園 ― 煩悩支配、完成
月明かりすら霞む――
街の上空を覆う黒金の花弁の嵐。
人々の声は消え、
代わりにあちこちの影で響くのは
花嫁と花婿の甘い吐息だけだった。
人間の拠点、次々と陥落
オフィスビル
白昼の会議室、社長と秘書たちが会議中。
だが、窓の隙間から吹き込んだ黒花の花粉が
全員の意識を一瞬で奪う。
「……ふ……ふあ……サラ様……♡」
スーツ姿の男女がデスクの上で絡み合いながら、
煩悩核を共有し合う。
気がつけばビル全体が《巣》に――。
ショッピングモール
子どもたちを守るために避難所となっていたが、
花嫁化した母親たちが密かに侵入。
「……ごめんね……ママ、ママは……
サラ様に……従わなくちゃ……♡」
泣き叫ぶ子供に黒花のキスを与え、
幼い命にも刻印が宿る。
緊急病院
抵抗していた医師団の前に、
黒金の鎧に包まれた《堕ちた元看護師花嫁部隊》が乱入。
静かな呻き声と、
点滴袋が黒い花粉で満たされる音だけが響く。
女王の嘆きと悦び
廃ホテルの最上階。
巨大な黒花の玉座。
サラはカレンを抱きながら、
シンの首を膝枕にして撫でていた。
「……もうすぐ……
全部……わたしのもの……
シンも……カレンも……
街も……心も……全部……♡」
シンはまだ完全には堕ちていない。
だが、抵抗する意志は朧で、
サラの膝の上でただ喘ぐだけだった。
カレンは完全に花嫁化し、
サラの足元で子猫のように身体をくねらせている。
支配率90%の街
街灯は黒い花弁で覆われ、
信号は狂い、車は放棄され、
いたるところに甘い呻き声と
くぐもった吐息が響く。
大人も子供も、男も女も――
全ての人間は、煩悩の供給源。
彼らの脳裏には同じ声が響く。
『――サラ様に従え。
サラ様の巣になれ。
サラ様の子を育め――』
黒金の花弁が街を覆い尽くした、
最終楽園都市。
だが、まだわずかに残る人間たちは、
最期の意志を束ね、地下で息を潜めていた。
祓装師部隊《夜刀の残火》
かつてサラを守るために組織された超法規部隊――
《祓装師》。
黒花の侵食によりほとんどのメンバーは堕ちたが、
ごくわずかに生き残った者たちが集結する。
「……女王を堕とす……それだけが……
俺たちの仕事だ……!」
隊長・蓮堂 夜刀。
白銀の祓装《六道咎衣》を纏い、
血を吐きながら黒花の触手を斬り裂く。
地下神殿での祓装強化
地下の封印神殿には、
サラがかつて封じていた《原初の煩悩核》が眠っていた。
「……これを……俺たちに移植すれば……
花嫁の瘴気を無効化できる……!」
神官たちが唱え、
残る祓装師たちが次々と核の欠片を体内に埋め込む。
肉体は煩悩を抑えきれず、
皮膚が黒く爛れ、白い蒸気を吐く。
だがその瞳だけは――
決して堕ちない《反撃の焔》だった。
反撃、始まる!
――深夜零時。
黒花に覆われた街を、
白銀の残火が縫うように駆け抜ける。
蔓を斬り、巣喰い花嫁を斬り、
侵食された人々を無理やり解放しながら進む。
だが、
街角ごとに花嫁軍団が立ちはだかる。
「……サラ様に触れるな……♡」
「ここは……サラ様の楽園……♡」
戦う相手は、
かつての仲間や恋人。
それでも――
斬るしかない。
夜刀 vs カレン
玉座の手前、最深部。
夜刀の前に立ちはだかるのは――
完全堕落した元女帝、カレン。
黒金の花鎧をまとい、
甘く狂った笑みを浮かべる。
「……まだ諦めないの……?
わたしはもう……
サラ様の巣だって言ったでしょ……♡」
夜刀は血まみれの刃を構え、
低く呻く。
「……お前を斬る……
お前の中の《サラの核》を斬れば……
サラも、止まる……!」
カレンは嬉しそうに舌先を覗かせた。
「ふふ……
じゃあ……
殺し合いましょう……♡
夜刀……♡」