― 新たなる煩悩、乱入す
爆風の残骸。
崩れた塀の上で、誰かが拍手をしていた。
「お見事お見事♪ さすが如月サラさん。
恥ずかしい姿を晒すのも戦闘も、どちらも一級品だわ♡」
涼しげな声。
見上げれば、月明かりを背に、銀髪の少女が脚を組んで座っていた。
背中には深紅のコートを羽織り、その下は――ほとんど下着と変わらない戦闘用のレオタード。
「……鬼堂カレン……!」
サラが低く唸る。
シンも思わず目を丸くする。
目のやり場に困るくらい、布地が少ない。
「え、誰……?」
「エロマキナ最強の一人……私の最大のライバルよ……!」
カレンは優雅に塀を飛び降りると、サラの前に立った。
指先で自分のコートをはだけ、むき出しの脚線美を誇示する。
「暴走体を倒すだけじゃ、物足りないでしょ?
せっかく煩悩が高まってるんだもの。――私と、遊んでくれるわよね?」
「っ……! 今の私に勝てると思わないで……!」
カレンの唇が、残酷に微笑む。
「貴女の羞恥は……私の煩悩を超えられないわ。」
瞬間、カレンの背中のコートが風に舞った。
露わになった肌を伝って、赤黒い煩悩のオーラが迸る。
路地裏のコンクリが歪むほどの圧。
「――《煩悩武装・鬼姫顕現》!」
カレンの脚が軌跡を描く。
次の瞬間、サラは回避もできずに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「ぐっ……は、あ……!」
破れたバトルスーツがさらに裂け、肩から胸の谷間が剥き出しになる。
「やめろ! サラに……!」
叫ぶシンの前で、カレンはゆっくりと振り返った。
「ふふっ……桐生シンくん。
私に煩悩を与えてくれる?
君の視線、君の理性……全部、私の武器にしてあげる♡」
妖艶に微笑むカレンの瞳に、サラを守ろうと立ちはだかったシンが映っていた。
煩悩と羞恥のバトルは――
まだ、終わらない。
「立てないの……? 残念ね、如月サラ。」
鬼堂カレンは赤黒い煩悩オーラをまとい、ゆっくりとサラへ歩み寄る。
ヒールのかかとがアスファルトを打つたび、静電気のような圧が夜気を裂く。
壁に叩きつけられたサラは膝をつき、肩で息をしていた。
バトルスーツはあちこちが裂け、胸元と腰回りはほとんど布の名残すらない。
(シンに……全部、見られてる……!
でも負けたくない……負けられない……!)
震える手で光刃を生成しようとするが、力が入らない。
煩悩の出力が弱まっていた。
カレンは嗤う。
指先で自分の唇をなぞり、色香を振りまきながら宣言した。
「見せてあげる。――私の秘奥義を。」
カレンの背後に、血のように紅い光翼が拡がる。
それは炎の女神のように荘厳で、どこか淫らで。
「《煩悩奥義――バニッシュメント・エクスポーズ!》」
空気が裂けた。
赤黒い衝撃波が、波のようにサラへ殺到する。
「やめろッ!!」
シンが駆け寄ろうとするが、一歩遅い。
衝撃波がサラを包み込んだ。
破れかけのバトルスーツが、光の粒子に分解されていく――
「や、だ……やめ――!!」
一瞬の閃光。
そして次の瞬間、サラは――ほとんど何も纏っていなかった。
残ったのは、最低限の光の帯が恥じらいを隠すだけ。
その光さえも、煩悩出力が弱まれば消えてしまう。
「ぁ……ぁ……ッ……!」
顔を真っ赤にして両腕で必死に胸を隠すサラ。
しかしカレンは容赦なく歩み寄り、その顎をすっと持ち上げた。
「どう? 武装が剥がれたら……貴女の力はもう無い。
でも恥ずかしさは増していく……私の糧に、もっとなってちょうだい♡」
「く……そ……っ!」
シンの胸が張り裂けそうだった。
守りたい。でも力がない。
だが――
(俺が……俺が何とかしなきゃ……!
でも……どうすれば……!?)
カレンがサラの耳元で囁く。
「大好きよ、サラ。貴女の煩悩も羞恥も、全部……奪ってあげる。」
カレンの爪先がサラの鎖骨をなぞる。
サラの羞恥がさらに高まったとき――
その熱を受けて、シンの胸の奥が光った。
サラの体をなぞるカレンの指先。
はだけた肌。
必死に胸を隠すサラの目尻から、悔しさと恥ずかしさの涙が伝う。
「く……そっ……やめろ……!
やめろォォォォォォ!!」
シンの怒声が夜空を裂いた。
次の瞬間、彼の視界が真っ赤に染まる。
脳髄を突き抜ける、途方もない熱。
頭に浮かぶのは、目の前の少女の肌、涙、無様なまでの強さと恥じらい。
そして――
(……守りたい……!
俺の……煩悩が……!
――力になるなら!!)
彼の心臓がドクン、と鳴った瞬間、足元から金色のオーラが噴き上がる。
背中に浮かぶのは、獣のような荒々しい煩悩の紋章。
服の裾が焼け飛び、素肌を伝って荒ぶる煩悩の鎧が形を成す。
「……うそ……煩悩武装……!?
一般人の君が……!!」
カレンの目が細められる。
シンの手には、巨大な鉄槌のような煩悩武器が生成されていた。
視線の先、恥ずかしさに震えるサラと目が合う。
「サラ……絶対守る……!
俺の煩悩、全部くれてやる!!」
「シ……ン……!」
サラの頬が朱に染まった。
羞恥と安堵と、別の熱で胸が高鳴る。
「ふふ……面白いじゃない。
来なさい、煩悩の新入りさん♡」
カレンが赤い魔剣を振りかざす。
一瞬、空気が張り詰めた。
「――行くぞオオオオッ!!」
シンの鉄槌が地面を砕き、爆音とともにカレンへ振り下ろされる!
カレンは身を翻し、赤い魔剣を盾に弾き返す。
火花が散り、衝撃で周囲の民家の窓が粉々に割れた。
「サラッ! 今だ!!」
「……うんッ!!」
裸同然のサラが羞恥を振り切り、光の刃を両手に生成する。
体を隠していた光の帯が、恥じらいと共に強い光へと変わる。
羞恥が最大の煩悩出力に変わったのだ。
「《羞恥解放・ベール・オブ・ラスト――フルバースト!!》」
閃光。
二人の煩悩武装が、カレンの魔剣に迫る――!!