スープ ~もうひとりの冴子の物語~
今日は金曜。
今週の女のドラマシリーズは「もうひとりの冴子さん」の物語です。
「“仕事”では無く男を抱く……」
そう! こういう能動的な表現の方がいい。
私は昔からちっとも変わらず利己的なのだから。
で……
仕事では無く男を抱いてみたら
私の心もカラダもまるで違っていた。
「“あかり”の父親になる人かもしれない。少なくともこの人の素養を“あかり”は継承するのだから……」
そう考えると相手の男がたまらなく愛おしくて……
肌を合わせている間、私は狂おしく男を求め、叫び、涙を流した。
それはきっと……私の“母”としての(あえてメスとは言いたくない)本能に深く根差したものなのだろう。
こうやって男を焚きつけて燃え上がらすのだから……
男は何度も私を求め、私も応じる。
そうやって文字通り男を飲み込み尽くして身を放し……激情の波が徐々に引いて行くにつれ……私は隣が見れなくなる。
肉欲から解き放たれ、ただ私への愛と幸福感に満たされた男の顔を見るのが辛いから……
だったら端から!! そういう感性を持ちうる男と同衾しなければ良いのだろうが……そう言った男ドモとでは“あかり”を産むにはそぐわない。
かつて私は……“愛”が分からない『人間モドキ』だった。
その『人間モドキ』があかりと英さんのお陰で愛を知ってしまうと……
恐ろしいゾンビになってしまった!
男が私に振り向けてくれる愛を利用し……男の“エッセンス”を絞り出し自らの胎内へ取り込む。
心の内にあかりと英さんの愛を抱えている私は……どんなに深く“まぐわっている”瞬間にも……それを忘れ事が無いと言うのに!!
そんな私は……隣で寝息を立てている男の事などそっちのけで夢想する。
もし、英さんと寝たのなら……私とあかりと英さんは抱きしめ合い、一つとなるのだろうと……
ああ!!
私は!!
本当に人でなしだ!!
私にこんなにも愛を傾けてくれた人の心を踏みにじっている!!
私はそっとベッドを抜け、真夜中の街へ飛び出した。
きっと“あかり”も……同じ様な苦しみを味わい続けながら……津島家の“節目”たる責務を果たそうとしていたのだろう……
可哀想なあかり……でも、安心して!
あなたの苦しみは私がすべて肩代わりしてあげるから
今度こそ!
本当に自由になって
生まれて来るんだよ!
◇◇◇◇◇◇
どこをどう歩いたのか……
気が付くと深夜営業のファミレスに居た。
手当たり次第に注文した料理の皿には手を付けられない“吸血鬼”は……血の代わりに頼んだグラスワインにキスをした。
今夜もまた不実を重ねた私は……その分、英さんから遠ざかった。
その罪の重さと悲しみに身を切られるのが……私がしでかしたあらゆる事に対しての贖罪!
そう言い聞かせているのに……
テーブルの上には夕立の如く涙が降る。
「ねえ!ここ空いてる?」
目を上げるとミニ丈ピッタリフィットのワンピを着たキラキラした女性が立っていた。
「他、どこもいっぱいでさ!」
ガランとした店内は私と彼女しか客は居ない筈なのに……
思わず吹き出した私は、少しばかり涙が残っている声で言葉を返す。
「空いてるけど……どうして?」
彼女は咥えタバコにヴィヴィアンのハートシェイブライターで火を点けて答えた。
「私と同じ匂いがしたから」
「匂い?」
「ホテルによくあるボディソープの匂い」
「えっ?!」
「大丈夫!“同業者”じゃなきゃ分からないから! “客”から嫌な事された?」
「ううん! そうじゃないの! ただ!!……」
その先が言えず……また涙が溢れ出して来た私の頬を“N°5 ロー”の香りがするハンカチで抑えて彼女は言った。
「赤ワインなんて良くないよ! ちょっと待ってな!」
戻って来た彼女が私の目の前に置いたのは“何の具も入っていない”スープだった。
「さすが深夜のファミレス! スープ鍋の中はキャベツ一片、ベーコンひとかけも残って無かったよ」
「でも、香りはする」
「じゃあ飲んでみなよ」
煮詰まって少々熱いくらいのスープに口を付けると……キャベツとベーコンの旨味が口の中に拡がった。
「美味しい!」
「だろっ?! だから人生……捨てたもんじゃないって!」
そう言いながらウィンクした彼女は……
私の手放したグラスの中の赤ワインをクイッ!と飲んだ。
おしまい
今回の“ゲスト”は“華ちゃんの最愛の恋人”のあのコでした(^_-)-☆
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