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19 ポテ作さん


 頭の中でスキルに目を向ける。『魔再現リヴァイバルLV5(4/5)』…よし、スキルレベルは上がってる。寿司折り3つとファッ休さんが無数にポクポク倒した小中ベジのおかげだ。


「ファッ休さんちゃんと守っててね!手帳ノート


 ファッ休さんの「任せてくだされーっ!」というキモい大合唱を背に、私は出現させた赤い手帳をめくっていく。

 今回は迷わない。確かあったはずだ、この状況を打破できそうな人のメモが。


「あ、あった!これこれ!」


 保手島ぽてじま 耕作60歳。兼業農家で性格は気弱かつマジメ。しかし時々違う一面を見せることがあり、そのせいで近所から変人扱いされ、この手帳の仲間入りをしてしまった人。

 確かアメリカ好きが極まってしまい、家庭用の狭い畑で巨大トラクターを乗り回したり、ヘリで農薬を散布したりと中々ファンキーな事をしでかしたと聞いた。

 

 そりゃその行動に私だって思うところはある…けど、敵が野菜というこの状況じゃ一番強いのは多分農家の人のはず。

 そしてこの手帳の中に、農業関係の人はこの耕作さんと野菜ソムリエの人しかなかった。ソムリエよりも実際に野菜を育てている農家の方がきっと役に立つ。私はそう信じる。


「お願い、出てきて!」


 いつもの流れで念じる。するとその思いに応え、光る魔法陣から男の人がせり上がってきた。


 ズモモモモモ…


 青いオーバーオールを着た、バーコード頭のメガネのおっちゃん。どこか自信なさげで背中を丸めるその姿には、懐かしき日本の窓際社会の侘しさを感じる。

 首には麦わら帽子、長靴に軍手。兼業だから少し心配だったけど、バッチリ期待通りの農家スタイル。よし、当たりだ。この人こそ希望通りの保手島ぽてじま耕作60歳。


保手島ぽてじま耕作さんですね?私はアスカと言います、よろしくです」

「あっ、ああ、ど、どうも。私は保手島耕作と申します。よろしくお願いします。あ、あの敬語は不要ですので…それと、私のことはポテ島…いえ、ポテ作とでも呼んで下さい」

「ポテ作さん…うん、分かったよ」


 私の挨拶に、耕作さん…いや、ポテ作さんはものすごく低姿勢で返す。

 いやあ…サラリーマンですねえ。ヘコヘコ頭を下げる動きもキマッてるし、何とも堂に入っている。大丈夫?この人ちゃんと戦えるんだよね?


「それでポテ作さん。早速で申し訳ないんだけど、この野菜たち何とかしてくれない?」

「は、はい。やってみます」


 創って早々の私のお願いに、ヘコヘコしながらポテ作さんが答える。

 ポテ作さんには悪いけど時間がない。今もファッ休ガードにより、ファッ休さんの数が増え続けているのだ。


「あ、あの、少し離れててください。…じゃあ行きます、農家魔法アメリカントラクター」


 その言葉と共にポテ作さんが魔法を発動。

 すると次元の裂け目から赤い物体がムリムリッとひり出され、ズゥーーンと地響きを立てながら超巨大なトラクターが出現した。


 その巨大なトラクターに唖然とする私。そしていつの間にかごっついサングラスをかけ、葉巻を口にしたポテ作さんがワイルドに笑う。


「俺に任せときな。クズ野菜どもを土に還してやるぜ」


 シーン…場にワイルドな静寂が満ちる。

 そりゃそうだ。その突然のアメリカンな変化に私はビックリなのである。さっきまでヘコヘコしてたバーコードおじさんと同一人物とは思えない。


「じゃあ行ってくるぜ」


 その言葉と共にポテ作さんが巨大なトラクターに駆け上る。高さ10メートルはあるであろビルみたいなトラクター、そこにポテ作さんはスルスルと登り、運転席に着いた。


「おらおらァーーッ!クズ野菜共が、死にやがれぃ!」


 ブルルルルルン、ズガガガガッ!


 巨大なトラクターが畑を駆け回り、その圧倒的な質量で野菜達を潰していく。野菜達はなすすべなく軒並み砕け散り、汁を飛ばしながら肥料へと姿を変えていった。


「うわあ…これ農家として大丈夫?野菜作ってる人が見たら泣くんじゃないの?」


 私が心配するくらいに野菜絶対殺すマンと化したポテ作さんが、広大な畑を容赦なくトラクターで駆け回る。

 その様にハンター達は一様に逃げ回り、野菜達が土へと還っていく。


 そしてその様子を見てか、ぐぬぬと怒りの表情を顔に貼り付けた巨大タマネギがこちらをにらみつける。

 気付けばボスの横の地面から人間の下半身が生えていた。何あれ?犬神家?

 よくよく見れば、それはイカメンタルの三人。なるほど、ボスに叩きのめされて頭から地面に突き刺さってしまったと。尻がピクピクしてるのを見る限り、まだ息はあるようだ。


「ふう…あとはあのでけえ産廃タマネギだけか。おっしゃ、喰らえ!農家魔法クレイジー農薬アターック!!」


 あらかた野菜達をジェノサイドしたポテ作さんが、そのままボスに向かって農家魔法を放った。

 何故か体中からブシャアァと農薬を噴出し、ポテ作さんはそのままトラクターでボスに突っ込んでいく。すごいスピードで行くもんだから、噴き出した農薬は全部後ろの方に流れて行ってるけど…これ意味あんの?


 ブロロロロ…!


 ポテ作さんの巨大トラクターがボスの紫フィールドに入る。するとその瞬間、トラクターがドロン、と巨大なニンニクに変化した。


「しゃらくせえな!オラァッ!!」

 ドゴオオォン!!!


 それでもポテ作さんは構わずに突っ込む。そして音を立て、巨大タマネギと巨大ニンニクが盛大に衝突した。


「う…くっさあ」



 畑に立ち込めるニンニクとタマネギの独特な香り。私は口元を押さえ、涙をこらえながらその状況を確認した。


 見ればボスタマネギの体…というか顔は大きく割れ、中から汁が出ている。ニンニクと化したトラクターも砕けてその辺に大きな破片が転がっている。

 ついでにポテ作さんは畑に埋まって下半身だけが出ていた。それ流行ってんの?


「ニンニクになっちゃったから破壊力が大きく落ちたのかな。…でも倒せたっぽい?」

「アスカ殿、あまり近付くと…」


 そんな風に恐る恐る近付き、ファッ休さんが注意をしかけたところで異変が起こった。割れタマネギがピクリと身じろぎ、その巨体がズズズと動き出したのだ。


「ターマタマタマ!タマアアァァッ!!」


 そんな昔の怪人みたいな奇声を上げ、パーンと巨大タマネギが弾け飛ぶ。割れた部分をパージし、半分くらいに小さくなったボスタマネギが、ずるりと地面から這い出してきた。

 キモい根っこだらけだけど人間の体をしている。どうやら地面の下にはあの体があったらしい。


「タマァーーッ!!」


 さらに奇声を上げ、キモくて頭のでかいタマネギ人間が私に襲いかかってくる。第二形態ってところか。

 だけど私は動じない。だって人型相手なら最強クラスの強い味方が私にはいるのだから。


「出番だよ、吾郎さん!」

「ンッン〜、ようやく私の舞台のようですねェ」


 私の前に吾郎さんが出現する。ドスドスと向かってくるボスタマネギ、それに対して吾郎さんが優雅に構える。


「ンン〜、社交魔法、愛のタンゴ」


 ガシイィッ!ボスタマネギと組み合った吾郎さんが社交魔法を発動する。

 どこからともなく音楽が流れ、情熱的なダンスが始まった。ズンチズンチとリズムが上がり、ダンスの回転速度が上がる。

 そしてやっぱりブーーンと風切り音が発生し、誰も近づけないような状態になった。


 踊っている当人たちの姿はよく見えないけれど、スポポポポポンとタマネギの破片が次々飛んでくる。きっとあのダンスに耐えきれず、どんどんタマネギがむけていってるのだろう。


 ギュルル…

 しばらく見ていると、吾郎さんのダンスが終わりを告げた。回転速度が落ちてボスの姿が見えたけど、案の定タマネギ部分は全て無くなっていた。頭には芯すら残っていない、キモい体があるだけだ。

 そして問題なく、ズウゥンとボスの体が地に沈んだ。


「吾郎さん、お疲れ様」

「ンッン〜、今回はなかなかよかったですねェ。また踊りたいものですねェ」

「ん、それってこないだのサーピンゴブよりも歯応えがあったってこと?」

「ンッン〜、そうですねェ。以前のお相手よりも大分楽しめましたねェ」


 あれ、確かギルドの人はサーピンゴブも今回のボスタマネギも同じヘソ級とか言ってなかったっけ。

 吾郎さんの感覚からすると今回の魔物の方が明らかに強かったみたいだけど…何か情報が間違ってるのかな?


「いやあ面目ない…初めての見せ場であんな醜態をさらしてしまうとは」


 吾郎さんと話していると、頭をかきながらバーコードハゲのポテ作さんがやってきた。そういえばこの人、初戦闘で畑に埋まってたんだっけ。


「あれは仕方ないよ。トラクターも武器認定されるとは思わなかったんだから」

「いやあ…申し訳ないです。次はがんばりますから」


 そう言ってヘコヘコするポテ作さん。その頭皮からはサラリーマン時代の哀愁が滲み出している。


「大丈夫だよ。…それよりこの後始末をどうしよう」


 兎にも角にも魔物は全て討伐した。あとはこの畑に散らばる無数の野菜ゴミをどうにかしなくてはならない。

 ポテ作さんは思った通り「農家魔法EXPベジタブル」とかいう技が使えるみたいだったけど、それは倒した魔物を野菜に変えるというものだった。

 でも野菜に変えたところで料理はしないし、普通の野菜じゃないから売るわけにも行かない。なので今回は吾郎さんとファッ休さんに頼んで、香りと黒いもやに変えてもらうことにした。


「あ、ファッ休さんもうこれ解除して」

「承知承知」


 最終的に30人を超えていたファッ球ガードを解除してもらい、二人にEXP魔法を使ってもらう。

 広大な畑を埋め尽くすほどの魔物。それが全て吾郎さんとファッ休さんにより経験値へと変わっていった。


 今回は数が多いせいで、かなりの経験値が入ったらしい。スキルを確認すると、スキルレベルは6に上がっていた。成長早いなあ…このペースで行ったらすごい量の変人が生まれるぞ。


「さて、あとはあの三人を収穫して帰ろうか」


 魔石も全て回収してもらった私は、チラリとそこへ目を向けた。

 畑の一角に、尻丸出しの下半身が3つ生えている。面倒だけど仕方がない。それを全て収穫しポテ作さんのトラクター(通常サイズ)に積みこむ。

 そして私たちはポッコスの町へ向けて、ブロロロ…と帰還するのであった。

 ちなみにハンター達はみんな逃げて誰もいなくなっていた。何とも潔いことで。


 

 激しい戦闘の後には、ボコボコになった畑が残るのみ。

 だがこの時のアスカはまだ知らない。サーモンピンクゴブリン同様、このボスタマネギも誰かの手によって作られた存在だという事を。


この作品をお読み頂きありがとうございます。ブックマーク、評価等本当に嬉しく思います。今後ともぜひぜひよろしくお願いしますします。

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