15 おもちゃの武器屋さん
ポッコスの町の武具屋「オムラス武具店」は大通りの端っこ、町の入り口のすぐ側にある。
店の外に甲冑が置いてあるから、初めて町に来た時すぐ武具屋だって分かったし、いつか中を覗いてみたいなと思っていた。
今まではお金が無かったし、女が武器を見るのは嫌がられそうだったから中々入れなかったけど、今は無問題。お金はたんまりあるし、股級ハンターっていう肩書きも付いたから堂々と入れる。
「…というわけで吾郎さん、先に入ってもらえる?」
「ンッン〜、お任せくださいねェ」
でもチキンな私は吾郎さんに先頭お願いした。だっていきなりイチャモンつけられたら嫌だし。自衛自衛、これ大事。
ギイィ…と無骨なドアが開き、吾郎さんに続いて私も店内へ入る。
おおすごい。店内にはいろんな種類の武器やら防具やらが置いてある。やっぱりゲームみたいで少しワクワクするね。
へえ、見るからに剣って感じの普通の剣が100ポリープかあ。あ、こっちの樽にいっぱい入ってる剣は一本30ポリープだって。汚れてるし中古品かな。
「らっしゃい。何かお探しで?」
そんなキョロキョロと物珍しそうに品物を見ている私に、色黒ヒゲもじゃの店員さんが話しかけてきた。あ、いや私にじゃないや。吾郎さんにか。
「ンン〜、護身用の武器を探しているのですがねェ」
「護身用?戦闘用じゃないのかい?」
「ンッン〜、探しているのは私の武器ではなく、こちらのアスカサンの武器なんですよォ。何か使いやすい物はないですかねェ」
「何?こっちの…?」
そう聞くとヒゲもじゃ店員は、明らかに不服そうな顔をして私の方を見た。私は「ども」と会釈したけど、チッと露骨に舌打ちされた.感じ悪ぅ、
「女に使える武器ねえ…刃物はダメだな。その辺の棒でも振り回しときゃいいんじゃねえか」
そう言って、ヒゲもじゃ店員は棍棒とかのコーナーをアゴで指し、カウンターの方へと戻ってしまった。
「何あれ、ホント感じ悪い」
「ンッン〜、アスカサン。制裁を下しましょうかねェ」
「あ、大丈夫。それ私が犯罪者になっちゃうやつだから」
「ンン〜、何かあったらすぐに言ってくださいねェ」
別に何かされたわけじゃないので、私は渋々棍棒コーナーへと向かった。実際、剣とか使ったことないから怖いし、実は案外棍棒なんかの方が使いやすかったりするのかもしれない。
「棍棒って言っても色々あるんだなあ」
棍棒コーナーは、控えめに言ってかなり品揃えが良かった。
色々な形の棍棒、長柄の棍、メイスなんかがあり、素材も各種木製、金属製と多種多様。
もしかするとこの店のおすすめ商品は棍棒なのでは、と思ってしまうほどの充実ぶりである。
とりあえず私は手近にあった、先が膨らんだ形の木の棍棒(15ポリープ)を手に取ってみた。
「うわ軽っ。これ中スカスカじゃないの」
木の棍棒は発泡スチロールくらいの軽さで、思いっきり振ったらポッキリ折れるんじゃないかと思うくらいの粗悪品だった。
私はその棍棒を壊す前にそっと棚へ戻し、今度は金属製の長棍(100ポリープ)を手に取った。
「うわっ、これも軽いじゃん。アルミで出来てんの?」
その金属棒もやっぱり軽く、何なら握ったところがベコンと鳴りそうなほど脆かった。
何だこれはと思い、試しにこっそり剣を持ってみたら、それもアルミ製のごとくスカスカのおもちゃ武器。
「何なのここ…もしかして武器ログ星一つの店に来ちゃった?」
チラッとヒゲもじゃ店員を見る。めっちゃガン見してるけど、棍棒以外のものを触っても怒る様子はない。一応お客様だからか、物色するのは黙認してくれているようだ。
ならば遠慮はいらぬとばかりに、色々な武器に手を出してみたものの、どの武器も軒並みスッカスカ。
モンスターをハンターするゲームに出てきそうなおっきいハンマーや大剣でさえ、ペットボトルくらいの重さしか無いときた。
いや…何これ?おもちゃ屋だった?本物っぽさがある分、逆にすごいクオリティだよ。
「おおっ!?これいいじゃない」
と、そんな時、ようやく見た目通りの重さの武器があった。
何か金属のプレートの上に飾られた、物干し竿みたいな木の長棍。唯一これだけが普通の武器として使えそうな感じだ。
棍棒コーナーの少し広いスペースで棒を振ってみる。うん、ちょうどいい重さ。取り回しもいい。
バトン部だった小中学校を思い出し、クルクルと片手で棒を回し、最後にストンとポーズを決める。いいね、この棒買おうかしら。
そう思い、私は値段を見た。
「えっ!?嘘でしょ、これが1000ポリープ!?」
値札を見てまあビックリ。ただの木の棒が何でこんな高額なの?
値札には「アルティメット・ベビートレントの棍」と書いてあるけど…何て大仰な。ベビー?赤ちゃん?どっちでもいいけど、こんな棒に1000ポリープも出す人なんていないでしょ。いたら顔を見てみたいもんだね。
「いやまあ買えはするんだけど…さすがに高杉ワロタって感じよねえ」
私は飾ってあったところへ棒を戻し、深くため息をついた。
「ダメだ…吾郎さん、この店は終わってる。もう出よう、何も買わなくていいや」
「ンッン〜、いいのですかァ?」
「うん、ちゃんとした店を探そう。他のハンターの人たちが武器を持ってるんだから、本物の武器屋がどこかにあるはずなんだよね」
「ンン〜、ではそちらを探してみましょうかねェ」
「全く…武具屋じゃなくてちゃんとおもちゃ屋って書いておいてよね」
私はこの店での買い物を諦め、一応ヒゲもじゃ店員に会釈をしてから店を出た。店員は返事も返してくれなかった。全く…こんな店、二度と来ないぞ。
…
ギイィ…バタン。
店のドアが閉まり、その音でヒゲもじゃ店員ことオムラスはハッと我に帰った。
「う、嘘だろ…アルティメット・ヘビー《・・・》トレント…だぞ」
オムラスは震えていたし、何ならズボンもびっちょり濡れていた。
どうせ女だ。携帯サイズの短棍でも買うんだろうと最初は思っていた。
しかしあの女が棍棒を軽々と持ち、金属の棒や鉄の剣も余裕で持ち上げたのを見て「ああ、怪力のスキル持ちだったか」と、塩対応した事を後悔し始めていた。
だが大型のキラーハンマーを片手で持ち上げたあたりでそれは驚きに変わり、そしてあのアルティメット・ヘビートレントの棍を持ち上げたところで、オムラスはジョベベと失禁した。
アルティメット・ヘビートレント。それは鉄の20倍は重いと言われる、この世界で最重量の木材。
非常に高価で希少。だから置いておけば店に箔がつくと思い、客寄せのために飾っておいた。搬入時に若い衆5人がかりで運び込んだのを覚えている。
それをあの女は…片手で軽々と持ち上げやがった。
そんな人間いるはずがないし、百歩譲ってスキルだったとしても、そんなスキルは聞いたことがない。
しかもあの演舞。あんな流れるような見事な演舞は未だかつて見たことがない。
「い、一体あいつは何者なんだ……」
股間が冷えていくのを感じながら、オムラスはそのまま呆然としていた。
そして次に入ってきた客にお漏らしが見つかり、その後「オムラス武具店」は「オモラシ武具店」として名を馳せるのであった。