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14 お買い物に行こう


「お金も入ったし、買い物に行こう」


 大量の報酬をもらった次の日、私はそう思い立った。

 今までは欲しいものがいっぱいあるのに、お金が無かったので買い物に行けなかった。でもやっとまとまったお金が手に入ったし、これで何の憂いもなく買い物が出来る。


「そいつぁー名案でやすね。そんでお嬢、何を買うんですかい?」


 妖精形態の二頭身三郎さんが腕組みをしながらそう聞く。他の三人も普通に部屋にいて、私の話に耳を傾けている。

 ちなみに宿は変わってないけど部屋は変えてもらった。昨日までの6畳の部屋だとオヤジを召喚した時狭苦しいので、10畳くらいの大きめの部屋にランクアップさせてもらったのだ。お金に余裕はあるんでね、快適に行きましょう。


「色々見て回りたいけど…そうね、石鹸歯ブラシ、あとタオルとかの衛生用品でしょ。それと服、このスーツしかないから普段着が欲しいし、あとは肌着とか下着とか…それと魔道具も見てみたいな」

「ンン〜、魔道具、ですか?」

「そう魔道具。要するに魔法的な便利グッズなんだけど、あるみたいなのよねーこの世界」

「へえ、そんなもんが。例えばどういうやつが欲しいんですかい?」

「パイさんにちらっと聞いたんだけどね、汚れを除去する道具とか、水を出す道具とか、火を起こす道具とかあるみたい。それがあったら服の洗濯とかいらなそうだし、ハンターやってくならサバイバル用品は必要になるからね」

「なるほど、じゃあ今日行くのは雑貨屋と服屋、それと魔道具屋ってところなのかねえ」

「うん、デス太郎さんが言う通りの予定なんだけど…あと武器屋も行ってみたいかも」

「武器屋…ですかい?」

「ンッン〜、ワタクシ達がいれば武器など不要なのでは?」

「まあそうなんだけど…もしもの時の為にね。こんな世界だし、護身用に一応何か持っておきたいじゃない」

「そうだねえ、何か良いものがあれば買ってもいいんじゃないかね」

「拙僧がいる限り守りは万全。護身用の武器など必要ないかと思いますが…」

「まあまあ、これは気持ちの問題だからさ」


そんな感じで、ファッ休さんだけちょっと納得いっていない感じだったけど、朝食を食べた私は早速町に出ることにした。




「確かそこの角に服屋さんがあったはず」

「ンッン〜、アスカサン、馬車が来てますのでご注意を」

「あ、ほんとだ。ありがとう」


 今私は吾郎さんと二人きりで町を歩いている。

 さすがに男四人で私を囲むのは目立つのでやめて欲しい、と希望したらジャンケン大会が始まり、その結果吾郎さんが勝ち上がった。

 そして私に付き添う権利を得た吾郎さんは、こうして見るからにウキウキしながら付いてきているのである。


「ンン〜、アスカサン、どうぞ」

「あ、どうも」 カランカラーン


 さすがは社交ダンスの師。今まであんまり気にしてなかったけれど、吾郎さんはエスコートが上手い。

 気配りも出来るし、なんていうか一つ一つの動きが洗練されている。これで胸毛ボンの特濃フェイスじゃなかったら、もしかしたらアリだったかもしれない。


「いらっしゃっせー」


 店内に入ると奥から若い店員が出てきた。金髪がプリンになってるし爪も長い。ギャルかな。


「えーと普段着が欲しいんですけど、いくつか見せてもらえますか?」

「え、その副超かっこいいのに普通の服にするんですかあ?もったいなーい」

「このスーツ?かっこいいかなあ…でもこれ一着しかないし、汚れると困るから」

「えーまあワンピースとかも似合いそうですけどー、やっぱりその服の方がお姉さんに合ってますよー。服を買うより汚れ対策の魔道具買った方がいいんじゃないですかあ?」

「あ、それやっぱりあるんだ。その魔道具ってここに置いてる?」

「ここには業務用のやつしかないですねー。向かいの魔道具屋にありますよー」


 この店員さんはギャルっぽいけど、何とも親切な人である。普通は自分の店の品物売る場面だろうに、こっちにお得な情報を教えてそれをお勧めしてくれるんだから。


「うん、じゃあ魔道具はそっちで買うかな。あと下着とかってあります?何着か欲しいんですけど」

「ありますよー、試着もできますー」

「あ、よかった。サイズ選べるんだ」


 実は私は割と胸が大きい。童顔でいつもパンツスーツスタイルだから、あんまり目立たないけれども。


「そちらの旦那様も奥様の試着を見た方がよろしいのではー?」

「ンン〜、ワタクシですかァ?」


 下着を手に取って選んでいると、店員さんのそんな声が聞こえた。私は雑音としか捉えていなかったけど、徐々にその意味が脳に染み込んでガバッと顔を上げた。


「ちょっ…違う違う!その人は夫とかじゃないから!!」

「えーそうなんですかあ?でもこんなに優しく見守ってくれてますよー」

「だから違うの!この人はえーと、ボディガードみたいなもんだから!」

「ンッン〜、そうですねェ。夫よりも心で通じ合っている、そんな関係ですかねェ」

「わお!そーゆう人に言えない関係でしたかー」

「吾郎さん、ちょっと黙っててくれない!?」

「ンン〜」



 そんなバタバタした場面はあったけど、無事に下着類は購入できた。最後に「けっこうカッコいい人だと思うけどなー」という店員さんの言葉が耳に残ったけど、全力でスルーさせてもらった。


「ありがとでしたー。またどーぞー」 カランコロン


 「よし、服はオッケーね。それじゃ続いて魔道具屋に行ってみよう」

「ンッン〜」


 服屋を出た私たちは、飲み会のハシゴのごとく向かい側の魔道具屋のドアを開いた。

 ギイィ…。何かちょっと古本屋みたいな独特の匂いがする。でも嫌いじゃないなあ。

 そんな事を考えながら近くの棚を物色する。…うーん、値札もないし何の道具かもよく分からない。こりゃ店員さん案件ですね。


「すいませーん、ちょっと色々聞きたいんですけどー」

「…はいよー、今行きますよー」 ガチャ


 カウンターに誰もいなかったので、やや大きめの声を張る。すると奥のドアから白い割烹着を着たおばあさんがゆっくりと出てきた。

 何だろう…何か既視感が。あっ、そうだ駄菓子屋のおばあちゃんだ。このゆったりとした感じ、こめかみに貼り付けた謎の湿布、このノスタルジー感は駄菓子屋のおばあちゃん!

 …あれ、ここ異世界ですよね?魔道具屋ですよね?うーん、違和感で頭ぶっ叩かれてる感じがしますね。


「それで、何が聞きたいんだい?」

「あ、えーと…生活に便利な魔道具を探してるんですけど…。例えば服を綺麗にする魔道具とかありますか?」

「はいはい、ありますよ。ちょっと待ってね」


 おばあちゃんはそう答えると、ゆっくりとした動きで棚から魔道具を一つ取り、私に持ってきてくれた。


「これは服の汚れを吸い取る、クリリン君という魔道具だよ。ここに魔石をはめて、こうやってこするんだよ」

「へえ、すごい。これ便利ね」


 缶ジュースみたいな円柱の道具。おばあちゃんはその使い方を詳しく教えてくれた。

 なるほど…これを汚れに当てると、吸い取った汚れが固まって道具のお尻からポロポロ出てくる。うん、これはとても便利じゃない。買いだね。


「これいいですね、お値段は?」

「これは200ポリープだね」

「買います!あと水が出る魔道具なんですけど…」

「はいはい」


 そうして私はクリリン君の他に、水が飛び出る魔道具のジョボボン君、火花が出る道具のカチンコ君を購入した。全部で650ポリープもしたけど、いい買い物だったと思う。


「ありがとねー」 ギイィ


 欲しかったものが買えて満足。あとは日用雑貨を揃えれば完璧だね。

 そう思いながら魔道具屋を出た私たちの耳に、女の人の悲鳴が届いた。


「キャアァーッ!」


 一体何ごと?と声の方を見れば、道の脇で尻餅をつく女性が。大きな馬車…じゃないや、何あれ…巨大ひよこ車?道幅いっぱいに走り去ろうとしているところを見るに、どうやらあのひよこ車に轢かれかけたみたい。

 そして狭い道の先には子供がいる。やばいよ、これはまずい予感がするよ。


「吾郎さん、あの子を助けて!」

「ンッン〜、了解です」


 ビュン!音を置き去りにして吾郎さんが駆け出す。そして瞬時にひよこ車の前に出ると、多分、巨大ひよこをぶん投げた。

 私は見えなかったけど、ズゴン!!と音がした次の瞬間には、3メートルくらいの巨大なひよこが地面に刺さっていた。まるで前衛アートみたいにそそり立ったひよこに車体がぶつかり、結果的にひよこ車はそこで止まったのだった。


「いてて…くそっ何だ、襲撃か?…なっ、何だこりゃあ!」


 横たわってカラカラ…と車輪だけが回る車体からガラの悪そうな商人が出てきたけど、巨大ひよこの惨状を見て目をひんむいている。そりゃあの質量の生き物が地面に刺さってたら驚くわな。


「ンン〜、失礼。少々危険な運転でしたので、強引ながらワタクシが止めさせて頂きました」

「なっ、止めた…?これをあんたがやったってのか?一人で?」

「ンッン〜」


 戸惑う商人をよそに、吾郎さんは倒れた女性の手を引いて立たせてあげている。ううむ、さすが吾郎さん。スーパー社交マンだねえ。


「吾郎さん、ありがとう。ちょっとあなた、この狭い道をこんな大きな馬車?で通らないでください。女の人に怪我をさせてましたし、あの子もひいてしまう所だったんですよ」


 私がひかれそうだった子を指さすと、ビクッとなったその子はトテテと逃げていってしまった。ありゃ、大声出してビックリさせちゃったか、ごめんね。


「な、何だよ!俺はもも級ハンターのズゴムさんにここを通ってもいいって言われてるんだぞ」

「誰それ…知りませんけど。じゃあ私が言います、今後この大きな車でここを通らないでください」

「はあ?何であんたにそんなこと言われなきゃならねえんだ」

「あれ?強いハンターの言うことを聞く感じじゃないんですか?」

「いやそれがこの町の暗黙のルールみたいなもんだが…だからそれで何であんたの言うことを聞かにゃならねえんだよ」

「いや、だって私股級ハンターですし。言うこと聞いて下さいね」

「は?誰が?」

「いや、だから私ですって。ほらこれギルドカード」

「なっ!う、嘘だろ…まさかあんたが最近話題のオヤジマスター…?」

「…へえ、その二つ名言った人教えて下さい。教育が必要みたいですから」

「ヒッ…!」


 何とも不名誉な二つ名が飛び出してきたけど、商人の人はガタガタ震えている。

 誠に遺憾ながら、私の事は噂レベルでこの町にもう広まっているらしい。それならこういう時くらい利用させてもらおう。血を見るよりはマシだし。


「す、すみませんでしたぁー!!」


 私(の肩書き)に恐れをなした商人の人はもうこの道を通らないと約束し、ピューッと光の速さで逃げていった。

 ひよこのオブジェはそのままだったので、吾郎さんに引っこ抜いてもらって脇の方に寝かせておいた。ひよこは気絶してるだけだったので一応セフセフ。


「あ、ありがとうございました。あの、よければお名前を…」


 と、吾郎さんが助け起こした女の人がそんな事を言ってきた。20代前半かな?けっこう若い。


「あ、私はアスカといいます」

「あ…いえ、その…そちらのお方のお名前を…」

「ンッン〜、ワタクシですか?北野アレクサンダー吾郎と申しますねェ」

「あ、アレクサンダー様…」


 ウホッ…いやいやマジ?マジっすか?まさかここ異世界で北野アレクサンダー吾郎50数歳が花開くとは。

 …いやあ分からないものだね。一体何が人の心に刺さるのか、これは永遠のテーマだね。うーん、でもそれなら私に言い寄ってくる人がいてもおかしくないはずなんだけどなあ…。


「ンン〜、それでは失礼、レディ」

「ああ…アレクサンダー様ぁ…」


 何とも釈然としない気持ちを抱えながら、私たちはその場を後にするのだった。


 うん…よし気を取り直そう。次は武器屋。異世界ならではの武器屋に行くぞー!


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