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13 優しきハムおじさん


「…よし、やっぱりスキルレベルが一つ上がってる。きっとサーピンゴブを倒したおかげだ」


 私はスキルを頭に浮かべ、呼び出し枠が一つ増えていることを確認。

 しかし四人目を呼び出す…。これは出来る事なら避けたかった。これ以上濃いメンバーが増えると何かと大変だし、しかもここには周りの目もある。後々のことを考えると取りたくない選択肢だった。


「でも今はそんなこと言ってられない。手帳ノート!」


 私は手に手帳を出現させ、急いでパラパラとめくっていく。

 今この状況で必要なのは回復能力がある人。考えつくのは医者、看護師、薬剤師、後は…ええと何だ、整体師?


「医者は…手帳にあるけど精神科と歯医者…。看護師と薬剤師は無い…どうしよう」


 三郎さん達の例を考えると、治療や癒し系の職業なら異世界ファンタジーフィルターがかかるかもしれない。

 癒し…癒しか。そういえば風来の不思議なダンジョンゲーで背中のツボを押すと回復したっけ。原理は分からないけど、もしかしたらいける?この世界なら歯医者よりは可能性あるかも。

 そう思い立った私はそのページを開いた。


「これだ…ピョンピョンハート整体院。確か神の手…じゃなくてハムスターの手を持つとい噂の整体師だっけ」


 賽河原さいかわら デス太郎、61歳。若い頃ヘビメタバンドをやっていて、デス太郎という名前に改名してしまった悲しき整体師。確か30代の頃はペットショップで働いていたという。

 その整体技術は高く、体だけじゃなくてハムスターのように心まで癒してくれると評判…というかネットで盛り上がっていた。


「そんな異名がつくほどの癒しの腕前…この人ならきっとこの状況だって何とかしてくれるはず。出てきて、お願い!」


 私は覚悟を決め、その人物を思い描いた。パァーッと光る魔法陣が広がり、いつも通りにその中央から一人の人間がせり上がる。


 ズモモモモモモ…


 大量のスモークと共に現れたのは、随分後退した長い白髪を後ろに垂らして整体服を着たおじさん。その顔は仏のように柔らかく、記憶通りの姿で再現されている。

 これぞまさしく賽河原 デス太郎61歳、完璧な仕上がりである。


「これはアスカさん。呼び出してくれてありがとね、おじさんがんばるね」

「デス太郎さんですね、よろしくお願いします」

「ああ敬語はいらないよ。それじゃ患者も待ってるみたいだし、早速施術しようかね」

「う、うん。お願い!」


 さすがデス太郎さん、常識人で話が分かる。まともな人枠で呼んで裏切られたファッ休さんに、その常識力を見せてやっておくれ。


「では、一番ひどい君からだね。どれ…」


 デス太郎さんはお腹に穴の空いた巨人のところへ行き、その様子を観察する。そしてそっと両手を出すと、おもむろに魔法を発動した。


「整体魔法、ハムハムヒーリング!」


 デス太郎さんの両手がパアァと光る。そして何やらオーラのようなものがデス太郎さんの手にまとわりつき、それが何かの形を成していった。


「あ、あれは…まさかハムスター!?」


 何と、そのオーラはリアルなハムスターみたいな姿に変化したのだ。そんな…これじゃまるで両手がハムスターの頭おかしいおじさんじゃない。

 そしてデス太郎さんはそんな可愛らしい両手を使って、巨人の体を揉み始めた。


「ほうら…どうかね」 モミモミ

「うぐっ……ン、ンンッ…」 ポワワ〜ン


 ハムスター手が触れた部分からピンク色のオーラが弾け、謎のハート型のエフェクトが飛び交っていく。痛みに苦しんでいた巨人も、触られた瞬間から何ていうかこう…気持ちよさそうにしている。

 …何これ。これってホントに整体なんですかね?これを整体と認めたら、その瞬間にどこかの団体から苦情が飛んできそうだ。

 うわあ…またか。またまともな人じゃなかったのか。潜在的な変態多すぎない?こんな世の中生きにくいよ。


「あ、でもすごい。ちゃんと傷が塞がっていく」


 何とも怪しげな施術だけれど、ハムスターの手が触れたところから嘘みたいに傷が癒えていく。相変わらず原理は不明だけど、これなら巨人さん達も大丈夫そうだ。


「うんうん、これで大丈夫だね。じゃあ次の君、イクよ〜」 モミモミッ

「ぐあぁっ…!ン、ンンッ……!」 ポワワ〜ン


 そしてデス太郎さんはあっという間に一人目の治療を終わらせ、全身ズタボロ巨人の治療へと移っていった。すごい…早いしちゃんと全回復している。整体師ってすごいんだなあ(遠い目)。


 二人目も爆速で治療したデス太郎さんは、続けて三人目の顔陥没巨人の治療も行った。

 ギルド職員はしばらく呆気に取られてその様子を見ていたが、治療が終わると我に帰ったかのように慌ただしく動き出した。


「さて、これで終わりですかね。いやあ、施術は肩が凝りますねえ、ハッハッハ」

「ああ…うん。何はともあれデス太郎さん、ありがとう。助かったよ」


 全ての治療を終えたデス太郎さんが自分の肩を揉みながら帰ってきた。よかった、キモいハムスターの手は解除されてる。


「あ、あの…本当にすまなかった」

「負けた上に治療まで…申し訳ねえ」

「もう二度とあんたらには逆らわねえや」


 回復するなり、ゴライアスわっふるずの面々は私に謝罪してきた。心なしか丸出しの尻もシュンとしている。

 うん、我が戦闘職三人にやられて実力差が分かったみたいだし、この人たちはもう大丈夫だろう。私たちに危害を加えることは無さそうだ。


「あとはアレだけど…ちゃんと約束守ってくれるのかなあ」


 私が見つめる先。そこには、漫画みたいに体の形に空いた穴から救出されるギャラクソー氏の姿があった。

 ギルド職員から引っ張り出されているギャラクソー氏は、見た感じボロボロだけど、命に別状はないみたいだ。でも回復はしてあげない。だって腹立つし。


「大丈夫、その心配は無用です」


 するとそこで私に声をかける人が。口ひげを生やした白髪のイケおじ。あれ、ギルド服を着てるから職員だとは思うけど…こんな人いたっけ?


「あの…どなたでしょう」

「おっと、これは失礼しました。私はこのハンターギルドのギルドマスター、マキノスと申します」

「えっ、ギルドマスター?えっと…ギルマスはギャラクソーさんじゃないんですか?」

「いえ、確かに私不在の時は代理でギャラクソーがマスターを務めておりますが、ギャラクソーは副マスター。私マキノスが正式なマスターです」

「ああ、そうだったんですね。私はアスカと言います、よろしくです」

「こちらこそ」


 にっこりと笑って握手をするマキノスさん。うん、この人はちゃんとした人だ。あのギャラクソー氏とは全然違うね。


「アスカ様、事情は聞いております。この度の騒動、全てこちらの責任です。誠に申し訳ありませんでした」


 そう言ってマキノスさんは深々と頭を下げた。それに続いて他の職員もみな頭を下げる。ギャラクソー氏を担いでいた職員も頭を下げるもんだから、ギャラクソー氏は地面に放り出されて呻いていた。


「いえ、大丈夫です。ちゃんとお金さえもらえれば」

「はい、そこはもう。まずはこれをお受け取りください」


 マキノスさんはギルド職員から小袋を受け取ると、それを私に渡してきた。

 おお、お金だ。と遠慮なく袋を開けると、中には銅貨の他に金貨と銀貨が入っていた。


「ええと、これおいくらぐらいあるんですか?」

「依頼の報酬が180ポリープ、魔石の報酬が1350ポリープ、危険魔物討伐報酬が1400ポリープ、今回の謝罪額が1000ポリープ、合計3930ポリープになります。申し訳ありませんが、さすがに2倍は難しいのでこれでご容赦ください」

「3930…分かりました、十分です」


 硬貨を数えると金貨が3枚、銀貨が9枚、銅貨が30枚入っていた。なるほど、金貨は1000ポリープで銀貨は100ポリープなのね。

 それにしても30ポリープの仕事をやってこんなにもらってしまうとは。これは使いがいがありますよ。


「はい、確かに。ありがとうです」

「それと…今回のことでアスカ様を股級ハンターへ昇格いたします」

「えっ…私今すね級なんですけど、一気に三つも上がるんですか?」

「はい、優秀なハンターにはどんどん上へ行ってもらいたいですから。本当はもっと上のランクにしたいところなのですが、この町では上級ハンターへの昇格は出来ないのです。本当に申し訳ない」

「いえ、それは大丈夫ですけど…」

「どうぞ、これが新しいギルドカードです」


 そう言って渡されたギルドカードには、私の名前と「股級」の文字が入っていた。

 えっ本当にいいの?たった二日で下級ハンターの最高位よ?うわあ…何か無自覚系無双みたいでちょっと気が引けるなあ…。


 パチパチと拍手が鳴る。そして私は史上最速で股級ハンターになった人間として、ポッコスの町に名を轟かせるのだった。


 ギャラクソー氏?手錠をかけられていたから、多分牢屋送りになった事でしょう。


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