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12 お見せしよう、私の力を 


「ええっ!?報酬はもらえない!?」


 次の日、喜び勇んでハンターギルドに向かった私に告げられたのは、そんな理不尽な一言だった。


「どうしてですか!?ちゃんとギルドカードに履歴もあったし魔石も持ってきたでしょう!」

「あ、あの…それはその…」


 さすがの私もこれには怒り心頭。理不尽な対応を前にクレームをつけていると、そこでギルドの奥からお偉いさんらしき人がやってきた。


「あーどうもどうも。私はこのハンターギルドのマスターをやっております、ギャラクソーと申します」

「…どうも」


 ハゲで口ひげを生やした肥満小学生みたいなおっさんが私に挨拶をする。口調は一応丁寧だけど明らかに感じが悪い。なんか上から見下してるって感じ。


「それでアスカ様、どういたしました?当ギルドに何か問題でも?」

「問題しか無いですよ。昨日ジョンさん達を助けてサーモンピンクゴブリンを倒したのに無効って言われたんですよ!しかも他の依頼報酬と魔石の買取も無しだとか言われて」

「ふむ、そうですな。ではその事について説明しましょう。まず一番に信ぴょう性が低い。普通に考えてハンターになって一日の新人がヘソ級魔物を倒せるわけがありませんからな」

「信ぴょう性って、そのためにギルドカードがあるんじゃないですか!履歴にちゃんと残ってたでしょ」

「いやあ、でもこの目で見たわけじゃありませんからなあ。このカードにも時々誤作動はありますし、それに…アスカ様は頭がよろしいようで。何かカードをごまかす抜け道でも見つけたのでは?」

「なっ…!!」

「いやあ、多いんですよね嘘つきが。全く、私の目はごまかせないというのに」


 このオヤジ…明らかに分かってて報酬を無効にしようとしてる。しかも私の事を嘘つき呼ばわり。記者として頑張ってきた私にとって、それは一番許せない事だ。


 これは…さすがにこれは無い。いくら温厚な事に定評のある私でも「屋上へ行こうぜ…久しぶりに……キレちまったよ…」ってなもんだよ。


「…じゃあ魔物を倒した力、見せればいいんですね」

「は?何を…」

「みんな、出てきて」


 私がそう指令を下したその瞬間、床からズゴゴゴゴ…と三つの影が現れた。普段は普通に空間から出てくるが、今回の登場方法は分かりやすく演出である。

 現れた三人。ガンコ職人も特濃ダンサーも変態和尚も、全員が憤怒の表情だ。きっとこれから血の雨が降るに違いない。


「なっ…!お、おい、ちょっと待て!衛兵!衛兵を呼べっ!!」


 突然スーパーオヤジ三人に取り囲まれたギャラクソー氏は青い顔をして叫ぶが、誰も動こうとしない。見れば受付のファンザさんはジョンさんが抑えてくれてるし、ミートさんとパイさんも入口を守ってくれている。おお、これは嬉しい援軍。


「な…こ、これが精霊召喚だと?まさか…いやしかし。…フ、フン、だが私をどうする気だ?まさか殴るのか?」

「いえ、私の力が信じられないようですので、少し力を見せようかと思いまして」

「ふ、ふん。どうやって見せるというのだね」

「そうですね…例えばこのハンターギルドを跡形もなく壊すとか、ギャラクソーさんの家を焼け野原にするとか…」

「なっ!!」

「…というのは簡単ですけど後が面倒なので、そうですね。ここで一番強い人と手合わせするというのはどうでしょう。ハッキリと強さが分かりやすいんじゃないですか?」

「一番…ふふ、なるほど。いいだろう、その勝負乗ってやろう。もしお前が負けたら詐称剤と暴行罪でとっ捕まえてやる」

「勝負じゃないし詐称暴行もしてないんだけど…まあいいや。じゃあ私がその代表に勝ったら報酬と買い取りをちゃんと正規の額でお願いしますね」

「いいだろう、何なら倍の額を出してやる」

「その言葉、お忘れ無く」


 とりあえずは分かりやすい交渉の場に引きずり出せた。非常に面倒な戦いにはなってしまったけど、この際仕方ない。バッチリ強さを示してぐうの音も出ないようにしてやらないと気が済まない。

 オヤジ三人を見れば「任せろ」と言わんばかりのこの表情。頼もしい限りだ。


 丁寧な口調もどこかへ飛んでってしまったギャラクソー氏は、急いでギルドから退室。そして小一時間後、準備が整ったと連絡が入り、私たちは指定されたギルド裏の空き地へと向かった。




「くふふ…来ましたね。今さら勝負の取り消しは出来ませんよ」


 空き地へ行くとギャラクソー氏がいて、その後ろには三人の巨人がいた。…て巨人!?

 いやいやこの人ガチすぎでしょ。どこから連れてきたのか分からないけど、どんだけ負けたくないんだ。

 しかも何だろう、その巨人は三人ともすごい格好をしている。服と防具を前面にしか付けておらず、背中とお尻がプリッと出ている、いわゆる貧ぼっちゃまスタイルなのだ。


「いや今さら口調取り繕わなくてもいいですよ、素のゲス口調で大丈夫です。それにしてもすごい人たち連れてきましたね。もしかしてその人達が私のお相手ですか?」

「ぐぬぬ…ふん、まあいい。そうだ、こいつらが貴様の相手。乳級ハンターパーティの”ゴライアスわっふるず”だ!」

「なっ…!」


 何とこの尻出し巨人三人組は、乳級ハンターらしい。この町には股級以上の人がいない的な事をファンザさんが言ってたから、おそらくどこか別のところから連れてきたんだろう。

 いやそれよりも名前、チーム名にビックリだよ。何てダサいんだ…ダサすぎて尻だけでなく涙も出ちゃうよ。


「なあ、ギルマス。本当にこいつが俺たちの相手なのか?」

「そうだぜ、いくら護衛任務のついでとはいえこりゃねえよ」

「うるさい、これは正規の仕事だ!さっさとこいつを半殺しにしろ、二度と舐めた口を利けないようにな!」

「ちっ…仕方ねえなあ」


 ほんとこの人、ゲスだなあ。この巨人達はあまり気が乗らないみたいだけど、結局やる気になったみたい。それならいいよね、こちらもやらせてもらおうか。


「それじゃ開始ね。みんな、お願い」


 その言葉と共に、改めて足元からオヤジ三人が出現。みんなやる気満々といった様子で、それぞれが巨人の前へと進み出ていき、そして巨人とオヤジが睨み合う。


「何だ、俺の相手はこのハゲ頭か」

「アスカ殿に仇なす輩…埋葬して差し上げましょうぞ」


 まずはおっきいハンマーを持ったヒゲ面の巨人とファッ休さんが相対する。

 「やれー、ぶっ殺せ!」とギャラクソー氏の下品なヤジが飛ぶ中、二人は身構えた。


「悪く思うな。おらァッ!!」


 初手から巨人が手に持った巨大なハンマーを振り下ろす。あんなもの、普通の人が食らったら間違いなくぺしゃんこだ。でもそこはファッ休さん、全く動じる様子はない。


「フンアッ!!」 ガキィィン!

「な、なにぃっ!?」


 ファッ休さんは瞬時にふんどし一丁となり、その巨大ハンマーを体で受け止めた。

 いやほんと予想通りの展開で引くよね。そのスタイルはファッ休さんのこだわりっぽいのでもう突っ込まないけど、さすがの防御力。あの金属の塊を食らっても傷一つついていない。


「くそっ!おらおらおらァッ!!」

「ンアッ!!」 ドゴン!

「アへァッ!!」 ゴキン!

「イグゥッ!」 ズガーン!


 すごい乱打だけど、ファッ休さんは全く避ける気配もない。微妙に当たる箇所を調節しながら全て受け止めている。

 余裕だ。しかも恐ろしいことにファッ休さんはまだ技を何一つ使っていない。その異常に高い防御力でもって打撃を愉しんでいるだけなんだから。


「ハア、ハア…な、何なんだこいつは」

「ンン…なかなか愉しめたぞ。しかしいつまでも快楽に浸ってはいられぬ。そろそろ終わりにしようぞ」


 ファッ休さんはそう言うと右手を前に出し、魔法を発動した。


「寺魔法、木魚バチ」


 するとファッ休さんの右手に光る物体が現れた。あ、あれはバチ。木魚を叩くときのバチだ。先っぽが丸っこくて何か可愛い、ポクポクと叩くあのバチだ!


「噴ッ!」


 その光るバチを手にファッ休さんは跳躍。そして3メートルはある巨人の顔前まで跳ぶと、力一杯そのバチを振り下ろした。


「破ァ!」 ポックーーーン

「ごふっ!!」


 そのバチは巨人の顔面を捉え、ポクーンと快音が鳴り響く。要するにファッ休さんは普通にバチでぶっ叩いたのだ。

 その一発で巨人はズウゥンと倒れ伏す。よく見ると顔面がパンチを喰らったのび○君みたいに陥没している。あれ大丈夫?ちゃんと救護班いますよね?


「なっ…ななななな…!」


 その様子に愕然とするギャラクソー氏。でもまだまだ戦いは終わらないよ。


「ンッン〜、次はワタクシの番ですねェ」

「くそっ、あんなもんまぐれだ!俺がぶっ潰してやる!」


 そして吾郎さんが二人目の巨人と向き合う。そういえば吾郎さんの技ってめちゃくちゃ周りを巻き込んでいたっけ。ここ街中なのに大丈夫かなあ。

 私がそんな心配をする中、大斧を持った巨人は仲間がやられてお怒りのご様子。自分から吾郎さんに攻撃を仕掛けてきた。


「死ねやッ!」 ブォンッ!

「ンン〜」


 当たったら頭が吹っ飛びそうな大斧の一振りを、吾郎さんは軽やかなステップでかわしていく。なんて優雅で濃ゆい動きなんだろう。まさにエレガンツ。


「吾郎さん!なるべく周りに被害を出さないようにして!!」

「ンッン〜、了解ですアスカサン」


 町に被害が及ばないよう伝えると吾郎さんは了承し、流れるような動きで巨人に組みつく。体格差があるから大人と子供みたいになっているけど、そんなの関係ねえとばかりに吾郎さんの魔法が発動した。


「社交魔法、ブンブンルンバ!」

「う、うおわあああーっ!」


 吾郎さんと巨人は体格差をものともせずに踊り出し、グルグルと回転。その回転はどんどんと速度を増し、ブーンブーンと音を奏で始めた。

 いやまたこのパターンかい、と私は周りへの被害を危惧していたけど、今回は違った。

 何と吾郎さんと巨人は回りながら垂直に浮かび上がり、竹トンボのようにそのままブーン…と大空へ飛んでいってしまったのだ。…うん、確かに周りには全く被害がなかったけど…何で??


 どういう理屈で飛んでいったのかさっぱり分からないけど、空へ消えていく二人を見送りながら私は呟く。「…これで2勝目」


「そ、そそ、そんなバカな事があるか!おい、一人だけでもいい!殺せええ!!」


 そんなヒステリーじみた声を張り上げるギャラクソー氏。悔しいねえ悔しいねえ、顔真っ赤ですよ。


「ちっ…こりゃ慎重にいった方が良さそうだな」

「なんでえ、ビビってんのかい」

「うるせえ!ちょっといい男だからって調子に乗るんじゃねえ!」


 そして最後の相手は三郎さん。今までの結果を見て警戒したのか、三人目の巨人は距離を取った。

 柱みたいなおっきい鉄棒を構えながら三郎さんの様子を伺っているけど、残念。三郎さんは中遠距離最強なんだよねえ。


「ふん…じゃあ行くぜ。寿司魔法、中トロキャノン!」


 そんな巨人に向けて、三郎さんは寿司を握る。いつも通りの流麗な動作から放たれたのは、なんと中トロ。すごい、いつもよりも気合い入ってるじゃない。何だかお腹空いてきたよ。


「ぬわあぁーーっ!!」


 巨人は太い鉄棒を盾にしてガードしたけれど、そんなもの全くの無意味。中トロはあっさりと鉄の棒を貫通し、身に付けていた金属プレートもバキーンと貫通して腹部に大穴を開けた。


 ズウゥンと倒れる巨人。お腹の穴からはドクドクと血が流れている。えっ…これ大丈夫?早く助けないと死んじゃわない?


「あの、早く手当を!あの人死んじゃいますよ!」


 でも私がそう言っても誰も動かない。呆気に取られた顔をしている。いや分かるけどさ、早くしないと本当に死んじゃうよ!


「この…クソ女がああぁっ!!」


 と、そこで突然ギャラクソー氏がブチ切れた。手に持ったナイフっぽい刃物を私に向かって投げたのだ。


「ンゥンッ…!」 ガキン


 でも当然私には当たらない。ファッ休さんの呪い…もといファッ休ガードが守ってくれているから。


「な、なんだと……ぐえぇっ!!」 ズシィン!グシャ


 そしてギャラクソー氏は、上空から落ちてきた巨大なものに押し潰されて姿が見えなくなった。

 巨大なもの…踊りながら空へ飛んでいった、今やボロカスさんとなった二人目の巨人だ。


「ンン〜、ただ重いだけ。何ともつまらないだんすでしたねェ」


 スタッと吾郎さんが地面に降り立ち、ファッ休さん本体も加わって私のオヤジサークルが完成する。

 でも今はそれどころじゃない。じぶんでやっといて何だけど、あの巨人さん達が死んでしまう。


「回復!回復できる人はいませんか!?ギルドの人、回復薬とか無いの!?」


 私の号令でようやく周りがハッと動く。ギルドに駆け込み色々と薬っぽいものを持ってきたけど、包帯とか軟膏ばかり。ポーションとか無いんかい!


「あの、ポーションとかはないんですか?」

「そ、そんなの市場にもなかなか出回らない超高級品ですよ。常備してあるわけないじゃないですか」

「そ、そんな…そうだ!ねえ、三郎さんたちは回復魔法とか使えないの?何でもいいから!」

「いやあ…あっしは寿司を握る専門でやすから」

「ンッン〜、無いですねェ」

「そもそも拙僧がいる限りアスカ殿には傷一つつかせぬゆえ、回復手段などありませぬな」


 くっ…お坊さんだからファッ休さんなら可能性あるかと思っていたのに。参ったな…これは最終手段を使うしか無いのか。


「仕方ない…四人目を創り出すよ」


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