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11 日本人のオレオ君


「そうですか、もう王都の方に…」

「ええ、なのでオレオ様もそろそろそちらへ…」

「そうですね。じゃあ明日にでも王都へ向かってみます」


 報酬の事を考えながらルンルン気分でギルドの扉を開けると、そんな話し声が聞こえてきた。

 見れば受付のメガネの人と若い男の人が話している。…あれ、黒髪?あの人ってもしかして…


「…ッ!」


 そして話終わったその人は受付を背にし、私とオヤジ達を見てギョッと驚いた顔をした。

 背も私と同じくらいで、少し気が弱そうな感じの人。高校生か大学生くらいかな?お肌がつるつるだし若そう。


 その人はしばらく私たちに対して二度見三度見をかましていたけれど、やがて恐る恐るといった感じで私に声をかけてきた。


「あ、あの…すいません。あなたはもしかして日本人なのでは?」

「えっ!?そうですが、もしかしてあなたも?」

「は、はい!やっぱりそうだったんですね。服装とか見た目がモロ日本人だから、そうだと思ったんですよ!」


 何と黒髪黒目のこの男の人は、やっぱりというべきか、同じ日本からの転生者だった。革鎧にマントという異世界仕様の服装だったけど、顔立ちで分かったよ。

 でも、この人の言う通り確かに私の姿は未だスーツ。そりゃ目立つか。


「あ、確かに…こんな格好じゃ目立ちますよね」

「ええ、すぐ分かりました。…それにしても…急にこんなゲームみたいなのに巻き込まれるなんて、僕たちもツイてないですよね。もっと普通に転生させてくれればいいのに」

「!!」


 そしてこの人はどうやら境遇も私と同じらしい。これは私が聞き取れなかった詳しい話を聞くチャンスだ。


「あ…すいませんこんな急に。僕は大塩 雄玲央オレオって言います」

「あ、いえ…私は神代アスカです。あの、それでゲームについての話なんですけど…」

「アスカさんですね、よろしくお願いします。そうそう、ゲームですよ。ぶっちゃけ僕は勇者側なんですけど、アスカさんはどっちですか?あ、心配しないで下さい。僕にはまだ戦うとかそん意志はありませんから」

「え?いや、それってどういう…」


 この人、オレオ君は私が全てを知ってる前提で話してくる。まあそりゃ神様からの言葉が電波最悪で聞こえなかったとは思わないよね。

 これはきっちり一から話を聞かなければ。そう思った私だったけれど、そこですかさず鉄壁のディフェンスが立ちはだかった。言わずと知れたオヤジ三将である。


「おうおう兄ちゃん。てめえ、あんましお嬢に近づきすぎるんじゃねえよ」

「…不埒な輩は拙僧が地獄へ送ってしんぜよう」

「ンッン〜、何ならワタクシがお相手になって差し上げましょうか?」

「ヒッ…!な、何なんだあなたたちは」


 三郎さんは妖精形態だけど過剰なほどの殺気を放っているし、吾郎さんとファッ休さんの威圧もすごい。ちょっと、何で?必要な情報が聞けそうなのに。


「あ、あのアスカさん。この人たちは一体…」

「ごめんなさい、この人たちは私の…」

「お嬢、こんな輩に説明なんざ不要ですぜ。おら帰れ帰れ!銀シャリ喰らわすぞ!」

「ンッン〜、今すぐお引き取りしていただいた方が身のためだと思いますよォ」

「滅…殺…!」

「ヒッ…す、すいません!!で、ではアスカさん、また会いましょう!」

「あ、ちょっ…」


 よっぽどオヤジ達が怖かったんだろう。私がトリオの説明をする前にオレオ君はダッシュで逃げ出してしまった。


「ちょっと…どうしてくれるの?せっかく何か情報がもらえそうだったのに」

「お嬢…すいやせんが、あいつはダメでさあ。良くないことが起こりやすぜ」

「ンン〜、その通りですねェ。アレは話をしてはならない部類の人間でしたねェ」

「拙僧の勘も同様ですな。ガードをもっと強力にしておきましょうぞ」

「えええ…」


 私の講義も何のその。オヤジトリオは全く聞く耳を持ってくれない。

 うーん、もしかしたらあのオレオ君には何かあるのかも。実は危険人物かもっていうオチじゃないよね。


「仕方ない…みんなを信じるよ」


 大事な話を聞くチャンスだったけれど、今さらどうこう言っても仕方がない。

 私はそう言ってその場を締め括ったけれど、周りからはいろいろ聞こえてくる。


 「おい…あの姉ちゃんエースを追い払ったぞ」

「いや、あれは恐喝だったろ」

「すげえな、最近話題のエースが子供扱いかよ」


 筋肉ダルマたちのコソコソ話は今日も快調だ。いやまあ全部聞こえてるんですけどねえ。

 そんな雑音をスルーしつつ、私は後ろにいるジョンさんたちに尋ねた。


「ねえ、さっきの人って知ってる?もしかして有名人なの?」

「あ、ああ。ほら、さっきも言ってたろ。スキル二つ持ちのやつだよ。それがあいつだ」

「あ〜そういうこと!日本人だからチート持ちなのか、納得納得」

「???何だ、知り合いなのか?」

「いや、知らない人。それよりオレオ君…そのエースってどんな人なの?」

「そうだな、ここ半年で股級まで上がった将来有望なやつだ。噂では勇者の一人って話だが、それもあながち嘘じゃねえのかもしれねえな」

「それ!それよ!ねえ勇者って一体何なの?」    


 また勇者という言葉が出てきたので、私は質問した。するとその質問にはパイさんが答えてくれた。


「勇者様というのは神によって導かれた、100年間隔で現れる特別な人間のことです。そして勇者様は人間の運命を賭け魔王と戦う、という伝説がお話として伝えられています」

「勇者と魔王…テンプレだなあ。人間の運命を賭けてって事は、やっぱり魔王が攻めてくるって事?激しい戦いなのかな」

「それは分かりません。100年前の戦いでは死傷者は少なかったようですし。ちなみにその時は人間が勝ったので、その後街は栄えたそうですよ。とまあ、勇者様について私が知ってるのはこんなところです」

「へえ、ありがとう。参考になったよ」


 勇者と魔王による100年ごとの戦い。オレオ君の話とも合致するし、多分この戦いへの参加が私に課せられた使命なんだろうと思う。他には思いつかないしね。


「そういやさっきは聞きそびれちまったけど、結局嬢ちゃんは勇者なのか?」

「いや…それ私も気になってるんだけど、分かんないんだよね。勇者ってどうやって判別するの?」

「普通は神の啓示とやらで自分だけは分かってるらしいが…それを公に証明するには、王都にいる巫女さんに見てもらう必要があるって話だぜ」

「王都の巫女さん…。なるほど、じゃあお金が貯まったら私も王都に行ってみようかな。やっぱり気になるし」

「はい、それがいいと思います」

「まあ嬢ちゃんのスキル見たら、勇者って言われても納得だわな」


 とりあえずの指針は決まった。もやもやするし、資金を貯めて準備が整ったら王都に行ってみよう。

 まあ実際勇者とか言われたら反応に困るけど、何の目的もないよりはいいでしょう。

 そんな事を考えながら、私は受付カウンターの歯抜けお兄さん、確かファンザさんというらしい、へと声をかけた。

 

「どうもです」

「い、いらっしゃいませアスカ様。ええと

、今回は依頼達成の報告ですか?」

「ええと、そうですね…今回は色々あります。まずはこちらのジョンさん達の話を聞いてもらってもいいですか?」

「は、はあ…」


 そんな感じでジョンさん達三人がファンザさんに洞窟での話をした。そしてサーモンピンクゴブリンが出たという話になると、ファンザさんの顔は明らかに青ざめていった。


「ま、まままずいですね。サーモンピンクゴブリンは推定ヘソ級の魔物。この町には股級ハンターまでしかいないし、どうすれば…」

「いや、それがこのアスカ嬢ちゃんが倒してくれたんだよ。俺たちの事もみんな、危ないところを助けてくれたんだ」

「ファッ?」


 そしてオロオロとするファンザさんにジョンさんがサーピンゴブ討伐のオチを話すと、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてファンザさんは固まった。


「そ、そんな…ポッコス地域最強、サーモンピンクの悪魔を倒した…?そんなまさか…うわわっ!!な、何ですかその生き物は!それに後ろの屈強な二人は!!」


 その話を聞いて目を回しながらブツブツと呟いていたファンザさんだったけど、今頃オヤジトリオを認識したようですごくビックリしていた。違和感すぎるので無意識に視界から除去していたらしい。


「ええと、これは…端的に説明しますと」


 ここで私はスキルの事を説明した。パイさん達に話した通り「精霊召喚スキル」としての宣言。だけどスキルを持っている方が強い魔物を倒した時に信用されやすいだろうし、意味はあるはず。


「な…精霊…召喚。古の勇者様と同じスキルとは…。やはりアスカ様は勇者様なのですか?」

「いえ、それが分からなくて。そのうち王都に行ってみようかと思うんですけど」

「そうですか、それが良いでしょう。そ、それで…その精霊召喚スキルで呼び出した精霊様がこの御三方…」なのですか


 何やら複雑な顔をしながらファンザさんは手元の紙にサラサラとメモをしていく。

 多分ギルドで共有するためなんだろうけど、メモをチラッと見ると「おじさん さんにん せいれい」と書いてあった。…この人大丈夫かな。


「わ、分かりました。ではこの件は上の者と話しますので、また明日来てください」

「あの、依頼達成報告と魔石の買い取りもお願いしたいんですけど」

「ああ、そうでした。ではギルドカードをお預かりします、…ええっ!!ピンクゴブリン31匹にショッキングピンクゴブリン7匹、サ、サーモンピンクゴブリン1匹…ほ、本当に倒してる…」


 ギルドカードの情報をを変な道具で読み取ったファンザさんが驚いている。すごい、本当にカードに履歴が残るんだ。変なところでハイテクなんだなあ。


「あとこれ、魔石です」

「あわ、あわわわ…」


 ゴトゴトリと袋から魔石を出し、最後にサーモンピンク色の魔石を置くと、ファンザさんはガタガタ震え出した、そんな?そんなにすごいのこれ?サーピンゴブなんて吾郎さんがひと踊りでボロカスにしてたんだけど。


「あ、あのアスカ様…申し訳ありませんが、依頼の報酬もこの魔石のお代も明日という事で…」

「え、これもですか?…仕方ない、分かりました」

「す、すみません」


 そういうわけで報酬は明日になってしまった。残念、ちょっと贅沢な食事にしようかと思っていたのになあ。

 そう思っているとジョンさんたちが「助けてくれたお礼だ」と言って夕飯をおごってくれる事になった。


 普通の食堂、といっても私は行ったことないけど、そこより少し高級めの食事処へ一緒に行き、色々とご馳走になった。



「ああ〜気持ちいい…まさか銭湯があるなんて思わなかった」

「あはは、ちょっとお高いですけどね」


 カポーン、と桶の音がするここはまさしく銭湯。宿にお風呂がついてなかったので半分諦めていたけど、まさか町中に銭湯があるとは。本当、教えてくれたパイさんには感謝だよ。

 もちろん三郎さん達は引っ込んでもらってる。「出てきたらマジで怒る」と言ってあるから大丈夫だと思うけど、あの人たちだからなあ…安心はできない。


「明日どれくらいもらえるかなあ…楽しみだなあ」


 湯船の中でブクブクと泡を吹きながら私は気持ちよさにとろけ、明日の報酬に期待を膨らませるのであった。


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