ジェラルド
ジェラルドは執務室の机に向かい、片腕であるルカから商売の報告を受けている。目の前には二種類のネックレスが並べられ、ジェラルドの眼差しは左右に落ち着かない。やがてルカの報告が終わり、「ウチの者は優秀だねえ」と声をかけると「ええ」と短い返事が聞こえた。
もう一週間もジェラルドは悩んでいる。キャロラインには最高の物を贈りたいと思っているのだが、どちらも捨てがたい。宝石の色を見比べ、装飾の細工を見比べる。二つとも贈るにはデザインが似ていて、それは安易な考えに思えてしまう。やはりこれだと思う物を贈りたい。
しばらくするとドアをノックする音と共に、従者が出発の時を知らせてきた。これから仕事の成果を確認しに行くのだ。
ジェラルドは短く息を吐くと、立ち上がって首を回した。気分を変えるには丁度いいかもしれないと思った。
フリージアはとてもとても満足していた。
演奏に酔いしれ、音楽家との交流を堪能した。至福の時間と言ってもいい。フリージアにとってこの空間は好きなもので溢れていて、それだけで充足感に満たされる。
余韻を楽しむようにざわめきに耳を傾け、うっとりと会場を見渡していた時だった。声をかけられ、その方を向くとジェラルドが居た。
「ごきげんよう。いらしてたのね」
ジェラルドが音楽を好むとは意外だ。顔が広いから知人の付き合いでいるのかもしれない。
「君はずいぶん夢中だったね」
「当然よ、その為に来ましたもの」
ジェラルドは少し目を見開き、それからふふっと微笑んだ。フリージアの背中に優しく手を添え、近くのソファへとエスコートする。フリージアは素直に腰を降ろした。
「このような場所にはよく?」
「バレンティン伯爵夫人の招待は初めてよ」
「僕も初めて参加したよ」
「でしょうね」
フリージアの相づちにジェラルドはまた、ふふっと笑う。何がそんなに可笑しいのだろう。フリージアはジェラルドの様子をじっと見つめてしまう。
「この部屋の見立てを頼まれてね」
「まあ!貴方がなさったの!?」
フリージアは思わず目を見開いた。その様子にジェラルドは笑顔で返す。
「素晴らしい仕事ですわ!無駄なものは一切なく、壁紙とも統一され、音が、音が自然と響きますの!そう、」
フリージアは胸の前で球体を包み込む仕草をする。
「ここには調和がありましたわ」
と言って手の平の上の見えない球体をじっと見つめる。
「ふ、ふふ…うん…。そう言って、ふふ、もらえると、はは、嬉しいねえ」
ジェラルドはソファの肘掛けに半身を預け、苦しそうに身を捩っていたが、やがてコホンと小さく咳払いをして、いたずらっぽい笑みを向けた。
「ちなみに調和って、まあるい感じ?」
今度はフリージアが笑ってしまった。
「貴方って面白い人ね」