エリアーヌ
「来てくれてありがとう」
「披露パーティーには必ず行くわ」
キャロラインとアンナはお互いの腕を抱きしめるようにして、微笑み合う。
キャロラインはアンナの招待で、アンナの家のパーティーに来ている。今日はアンナの親友として出席しているので、ジェラルドはいない。アンナも呼ぶ気はないのは普段の態度で明らかだ。それ故キャロラインは自分好みのシンプルなドレスを着ている。
「そのドレス素敵よ」
「あら、アンナの方が綺麗だわ」
お互いを褒め合い、また微笑み合う。久しぶりにジェラルドの婚約者という肩書きが外れて、心が軽くなっている。
「ブレットも立派だったわ」
キャロラインは隣にいるアンナの弟に声をかけた。今日のキャロラインのエスコート役だ。社交界デビューしたばかりのブレットは、緊張が解れてきたのか、白かった頬に赤みが差してきた。
「そうね。キャロラインにお願いしてよかったわ」
アンナは婚約してからは特にブレットを心配していた。
「僕は心臓が止まるかと思ったよ」
「その調子で披露パーティーもお願いね」
「すでにプレッシャーだ…」
ブレットは、はあーっと長い息を吐く。
そんな二人のやり取りが微笑ましい。男兄弟のいないキャロラインには弟という存在が新鮮に映った。そしてアンナがブレットを可愛がる気持ちもわかる気がした。
あら?
キャロラインは目を止めた。会場にユリウスの姿を認めたのだ。アンナの婚約者もユリウスと同じ文官だ。その繋がりだろう。
ユリウスが話している相手は親しい人物なのだろうか、ユリウスの表情が自然に見えて、キャロラインはめずらしいと思った。エリアーヌと二人でいる時のユリウスはいつも無表情だからだ。
エリアーヌは無邪気なところもあるが、明るくて、素直で、豊かな表情は愛くるしい。エリアーヌが笑えば、周りに花が咲いたような華やかさがある。エリアーヌにはいつまでもそんな風に笑っていて欲しい、とキャロラインは願っている。
けれどユリウスの前では、エリアーヌの魅力が失われてしまっている。自信を無くし、怯え、ユリウスを怖がっている。今のようにエリアーヌにも自然に接してあげれば、エリアーヌだって萎縮しないで済むだろうに。
エリアーヌがユリウスに相応しい人になろうと、努力をしているのを知っている。だからキャロラインは今は見守るつもりでいる。エリアーヌが傷ついたらユリウスを許すことはできないだろう。
ふと、キャロラインの視線に気づいたのか、ユリウスがこちらを向いた。キャロラインは挨拶を交わすためにユリウスへ近づいた。