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フリージアとクリストフ

 カミラの嫁ぎ先であるブランケル領主邸には、フリージアだけでなくクリストフもやって来た。確かにクリストフには予定を聞かれた。だが本当に来るとは思っていなかった。カミラは嬉しそうにクリストフを迎え入れたが、フリージアは至福の時間を邪魔して欲しくないと思った。


 クリストフはフリージアに付いて回った。時折、冷めた視線を送られたがフリージアは何も言わなかった。領主邸は奇妙な屋敷だ。絵画を飾るだけの部屋があり、絵画の為の廊下があった。何より領主邸での滞在はクリストフを驚かせた。

 談話室では画家達が話をしていた。画家とはいえ平民出の者もいるのに同じようにソファに座り、討論かと思えるほど白熱した議論を交わしていた。フリージアも同じくソファに座り、真剣な眼差しで時々質問をしたり、疑問を投げ掛けたりしていた。クリストフは少し離れた所でじっと耳を傾けていたが、何が彼らを熱くさせているのか、よくわからなかった。

 またある時は、ブランケル伯爵の話をフリージアと共に拝聴した。美術品を保護する意義とか、壁画をどのように保存すべきかなどの話だったと思う。フリージアは目を輝かせ、頷いたり、合いの手を入れたりしていた。クリストフはそんな事を真剣に考える人がいることに驚いた。そして芸術や美術といった分野とはまるで縁のなかったクリストフにとって、伯爵の話は難しかった。


 ある日、クリストフは伯爵夫妻から食事に招待された。

「サロンを開こうかと思っているのよ」

 夫人が話を切り出した。

「まあ、素敵だわ」

「ふふふ、フリージアならそう言うと思ったわ。でもね、こんな高原に集まるかしら?」

「それなら主題を決めるのはどうかしら。限定的で特別感があると、人はより惹かれるものよ」

 夫人とフリージアはお互いにアイデアを出し合い、話が盛り上がってゆく。伯爵が困ったような笑みをクリストフに送ってきた。伯爵には二人の会話はいつもの事なのだろう。伯爵に倣ってクリストフも黙って二人の話に耳を傾ける。

「ふふふ、やはり専門家に相談するのがいいわね」

「あら?ジェラルド様のことかしら?」

「彼は一流の感性をお持ちよ」

 フリージアの言葉に夫人は笑って大きく頷いた。

「確かに。バレンティン伯爵夫人の音楽会は、大変素晴らしかったわ。…ジェラルド様に頼めるかしら?」

「わかった、紹介状を書くわ」

 フリージアも笑っていた。


 次の日。クリストフはフリージアに誘われ、湖の畔を散策した。フリージアは歩きやすいようにか、乗馬服のような出で立ちだった。ブルーノの言う通り男装も似合うかもしれない。

 湖は水面に深い森を映し出し、幻想的な雰囲気を醸し出している。この景色は美しいと思う。けれどそれ以上の感情が湧いてこなかった。

「明日ここを離れるよ」

「それがいいわ」

 クリストフの決断に、気持ちを知ってかフリージアは同意する。またしばらく無言で歩く。するとフリージアが声を掛けてきた。

「海産物は好き?」

「食べたことがないから、好きかどうかわからないな」

 フリージアは少し笑ったようだ。

「正直ね。嫌いじゃないわ」

 クリストフも口許を緩めた。フリージアのその言い回しは気に入っている。

「招待するわ。ヴォンドル領には海があるの」

「海か…。楽しみにしている」

「手紙を書くわ」

「待ってるよ」

 そうしてまた無言で歩いた。クリストフはまだ海を見たことがない。海とはどのようなものなのだろうか、と想像を膨らませた。

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