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三姉妹

 困ったわ…。

 キャロラインは、はあ、とため息をつく。

 王家主催のパーティーを欠席するわけにはいかない。婚約者のジェラルドも出席するつもりでドレスを送ってきたのだ。ただ噂の的になりたくなくて、キャロラインは気が進まない。


 面倒だわ…。

 フリージアはこめかみを押さえる。

 王家主宰のパーティーを欠席するわけにはいかない。婚約者のクリストフも出席するつもりでドレスを送ってきたのだ。ただイライラしてしまうのが嫌で、フリージアは気が進まない。


 終わったわ…。

 エリアーヌは頭を抱える。

 王家主宰のパーティーを欠席するわけにはいかない。婚約者のユリウスも出席するつもりでドレスを送ってきたのだ。ただただ恐ろしくて、エリアーヌは気が進まない。


 ここは三姉妹が住むヴォンドル邸。それぞれに届いたドレスを前にそれぞれが憂鬱を抱えていた。



 はあ、とキャロラインは今日何度目かのため息をついた。

 ジェラルドは社交好きだ。友人も多い。先程まで、おしゃべり好きの彼に付き従いずっと側にいた。それならまだいいが、彼は女友達も多い。あろうことかキャロラインの目の前で他の令嬢を褒め、気があるような思わせ振りな言葉も吐く。そうなるとキャロラインは途端に居た堪れなくなって、今も逃げるように壁際まで来たのだ。

 そこへ親友のアンナがやってきた。開口一番に「大丈夫?」と聞いてくる。アンナはジェラルドを快く思っていない。

「ええ、大丈夫よ。ありがとう」

 心配させまいと笑顔で答えたが、アンナは眉を寄せたままだ。

「相変わらず派手ねえ」

 キャロラインのドレスの事を言っているのか、ジェラルドの社交を言っているのか、おそらく両方だろう。ジェラルドが贈ってくれるドレスはどれも上質な物だ。しかしキャロラインには豪華すぎる。キャロライン自身あまり華美な物を好まないのもあるだろう。注目を浴びるのは好きではない上に、見た目だけで視線を集めるというのは居心地が悪くて仕方がない。

 華やいだ笑い声が聞こえてくる。令嬢に囲まれたジェラルドが見える。キャロラインはまた、はあ、とため息をついた。


 頭が痛くなる。フリージアはこめかみを押さえた。

 社交の場で話しをするのは当たり前だ。面白い話なら尚更、会話が弾むのは当然の成り行きだろう。しかしクリストフはいちいち口うるさい。あいつとは挨拶だけにしろだの、知識をひけらかすのは傲慢に見えるだの、終いには政に首を突っ込むなと言ってきた。

 それらの物言いに言い返したい事は山ほどあるが、人前で口論なんて無粋な真似はしたくない。だから、ぐっと押し黙っているのに、反論がないなら納得したと思っているクリストフに余計に腹が立つ。

 従姉のカミラに声をかけられたのを機に、クリストフからさっさと離れた。

「今年も来てくださる?貴女に見せたい絵があるのよ」

「ええ。もちろん。楽しみだわ」

 カミラの嫁ぎ先の領地には美しい湖がある。湖畔に佇む領主邸にはいつも何人かの画家が滞在していて、彼らとの交流をフリージアは気に入っている。カミラの夫であるブランケル伯爵の芸術談義を聞くのも楽しみのひとつだ。

「ふふ、今回は二人になるかしらね」

 カミラは茶化すように言ったが、フリージアはクリストフと一緒に行く気は毛頭ない。後々面倒にならないよう声だけは掛けておくかと思った。


 ユリウスのため息にエリアーヌは泣きたくなった。でもここで泣いたら更にユリウスを呆れさせてしまうだろう。

 ユリウスとの婚約が決まって以来、王族だけではなく彼の仕事関係、交友関係の名前や顔、有力貴族の派閥なども必死に覚えてきた。

 ユリウスに連れられ一通り挨拶をして回り、粗相はしなかったはず…と思っていたのだが、長い長いダメ出しをされてしまった。

 ユリウスに突きつけられた課題を、とてもじゃないが克服できるとは思えない。エリアーヌは絶望的な気持ちになった。

「後は一人で回る」というユリウスの言葉で、ようやくエリアーヌは解放された。

 そこへ同年代の令嬢達が待ち構えた様子でエリアーヌを取り囲んだ。その目には羨望の色が見える。口々に、切れ者と名高いユリウスと、行動を共にしていたエリアーヌを褒め称えた。16歳という年齢で婚約をしている者が殆どいないのも理由のひとつだろう。

 令嬢達の話題は次々とおしゃれや流行もの、恋の話に移り変わる。エリアーヌはやっとほっとして笑うことができた。

 社交界での経験が少ないエリアーヌにとって、ユリウスと一緒にいるよりも友人達とのおしゃべりの方が気楽で楽しいのだ。


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