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皇太子妃候補 前篇

「姫さま!おもいっきり着飾りましょうね」

イリーヌが張り切っている。

「どれだけお金がかかってもいいぞ」

侯爵も浮かれている。

「質素で良いわ」

「良いわけがないです!」

イリーヌが強気で言う。

カタリナは皇太子妃に興味がないので、どうでもよかった。がイリーヌや父親は違うようだ。二人の張り切りようは、少し怖かった。

数日かかってドレスや宝飾品などが決まった。

当日はもっとひどかった。

朝も明けきらないうちから叩き起こされ、念入りに入浴、身体を磨きあげられ、化粧を施されドレスに着替える。

準備が出来た頃、侯爵がやってきた。

「うちのお姫様はどんな感じだ?」

イリーヌが扉を開けてカタリナを見せた。

「おお!素晴らしいな」

カタリナは大袈裟だと思うが、言うのをやめた。

「では、行こうか」

侯爵が手を差し出す。

カタリナはその手をとった。

二人で馬車に乗り王宮に向かう。

王宮には数人の皇太子妃候補が既に来ていた。

この間のお茶会にいた令嬢達も来ている。

皆派手に着飾っていた。

今日のパーティは王宮からの招待の他、自薦、他薦も受け付けている為、伯爵令嬢から男爵令嬢もいる。カタリナは壁の方に用意された椅子に座るとなぜか周囲に令嬢たちが集まってくる。何が目的なのか分からないので気が抜けない。

給事達が飲み物を持って現れた。

カタリナはアルコール度数の少ないワインをもらい一口飲んだ。

そろそろ現れる頃だ。カタリナは会場を見渡す。

会場の入口に着飾った女性が現れた。開場中が、ざわつく。真っ赤なドレスに胸元を強調したデザインで現れた女性は隣国ファルマの王女だ。周囲がざわつくのを楽しんでいる様にも見える。

王女は給仕から飲み物を受け取るとカタリナの向かい側の壁の椅子に座った。

王女はカタリナに向かって笑みを浮かべる。

カタリナは王女が、手にしているグラスを見て驚いた。

カタリナが持っているグラスと同じだったのだ。

偶然なのか何か策略があるのか気になる。カタリナはさりげなくファルマの王女の様子を見ていた。

それとカタリナは周囲を見渡すと驚く。カタリナの周囲にいる令嬢たちも皆同じグラスを持っている。

どうしようかと、考えているうちに皇太子と王妃の入場が告げられた。

皇太子と王妃は迷わずカタリナの所にやって来た。

「侯爵令嬢のカタリナはそなたか?」

皇太子から声をかけられる。

「はい、そうです」

「今度ゆっくり話がしたいが、招待してもいいかな」

周囲に人だかりが出来ていた。

「はい。喜んで」

カタリナが答えると周囲からため息が盛れた。

「皇太子さま、私は今、お話をしたいです」

ファルマのソルマ王女が皇太子の腕を強引にとり、話に割り込んできた。皇太子の腕に胸を押し付け、しなだれかかる。

「ソルマ王女、後で時間を取りますのでその時でもいいですか」

皇太子はさりげなくソルマ王女の腕を外した。

皇太子の返事に喜んでいるソルマ王女。明らかに皇太子妃の地位を狙っているのが分かる。

しかし、ソルマ王女に振り向きもしないで皇太子は歩きだす。

ソルマ王女は皇太子の後を追いかけていく。

皇太子は周囲にいた令嬢達に話しかけるが、その度ソルマ王女が会話を遮っていた。

令嬢たちは頬を、紅く染め我先にと皇太子に話しかけている。そこにも割り込んでいたソルマ王女を睨みつける令嬢達がいた。

「どう思う?」

いきなり王妃に聞かれて驚く。

「どうって?」

「友好国としてあの王女を皇太子妃にと言ってきているわ」

王妃は納得出来ないようだ。

「風土病の事は何か言ってきましたか?」

「何も、まだ自国の風土病も治っていないのにね」

「わが国も油断出来ませんね」

「貴方の提案で、病院を建てたから我が国は収束しているけどファルマの風土病が、収束しない限り油断は出来ないわね」

王妃は憂鬱そうな表情を見せた。

その日、王宮に来ていた令嬢達は王宮に泊まる事になった。

理由はソルマ王女が、皇太子から離れなくて他の令嬢達から苦情が出た為だ。

急遽皇太子主催の晩餐会が開かれた。

晩餐会も終盤に差し掛かる頃にソルマ王女は皇太子を連れて何処に行ってしまった。

カタリナと王妃は顔を見合わせて頷く。

二人は席を立って皇太子を探した。

「きぁー」

悲鳴が聞こえた部屋に入るとそこには半裸のソルマ王女がいた。

「皇太子さまに襲われて」

両腕で胸を隠し、ソルマ王女が言う。

その皇太子は横で寝ている。

そこへ子爵令嬢がやって来た。その後を続いてファルマの侍女達がやってきた。カタリナはいつからいたのか気になった。この部屋に入った時、皇太子とソルマ王女しかいなかったはずだ。

「皇太子様をお止めしようとしましたが暴力を振るわれてお止めする事が出来ませんでした」

子爵令嬢の言葉で周囲は皇太子が王女に乱暴を働いたと思った。

ファルマの侍女達は皆、黙ったままで何も言わなかった。カタリナはそれを不思議に思う。

侍女なら自国の王女の危険が迫っていたらすぐ周囲に助けを求めるはずだ。それが部屋にもいなかったことが疑問に思う。

カタリナはこの部屋に集まってきた人達の顔を出来るだけ覚えた。

「どうしますか?」

カタリナは王妃に聞いた。

王妃はソルマ王女を見ていた。








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