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侯爵令嬢

会社の階段を上りながら考え事をしていたのがいけなかった。

やる事がたまっている。疲れも限界に来ていた。最近は睡眠時間を削って仕事をしている為、睡眠が足りない。気がつくと睡魔に襲われる。高橋美菜子はため息をつきながら階段を上っていた時、上から降りてきた人とぶつかりバランスを崩して階段から落ちた。

きぁー。どこからか悲鳴が聞こえたと思ったら体に衝撃が走って意識を失った。

目を開けたら見えている景色に違和感を覚える。

ここはどこ?そう思った直後、声をかけられた。

「お嬢様、大丈夫ですか?」

見た事のない服装の人たちが集まって来るのが見えて再び、気を失った。

次に目覚めると私を覗き込む顔が幾つもあった。

「医師を呼べ!」

男の人の声が激しく響く。

バタバタと慌ただしく人が動いているのがわかる。その人たちの服装はやはり見た事がないものだった。

私は周囲を見渡す。

見たことがない景色だ。ここはどこだろう、私は何をしていたんだっけ?暫く考えて思い出す。

そうだ会社の階段を登っていたんだ。

会議に間に合わないと思っていたが、自分が寝ているのを考えるとやはり会議は間に合わなかっただろう。

慌てて起きると側にいた綺麗なドレスを着た年配の女性が心配そうに覗き込んできた。

「まだ、寝ていたほうがいいわ」

優しくベッドに寝かされ布団をかけられる。私は言われるままベッドに寝た。

白髪の白衣を着た年配の男性が私の顔を見て言う。

「侯爵様、もう大丈夫だとは思いますがもう暫く寝かせて置いてください」

年配の白衣の男性の言葉に周囲から安堵のため息が漏れた。

何が起こっているのかわからなかったが睡魔に勝てない。寝かせて置くように言っているのだから寝てても大丈夫だろうと思ったら、そのまま眠ってしまった。

次に目が覚めた時、質素だが品のいいドレスを着た若い女性が心配そうに覗きこんできた。

「あっ! 起きたわ」

その一言でわらわらと人が集まってきた。

私は何が起きているのか分からず、布団を握りしめて周囲を見渡す。

私を覗きこむ顔がいくつもある。

どうしたらいい?グルグルと頭をフル回転してこのあとの行動を考えた。

その間、若い娘はこの国、グリーンファルの侯爵家の一人娘でマリベルと名乗った。

「大丈夫?どこか痛いところはない?」

マリベルに次々と質問され答えに詰まる。

高橋美菜子は周囲を見渡しながら不安を覚えた。しかし、睡魔には勝てなくてまたしても意識を手放した。

その瞬間、周囲にいた人達の声が響き渡るのがわかった。

一ヵ月後、美菜子は公爵家の養女になった。

病弱なマリベルの希望だった。

マリベルから聞いたのはマリベルが2階の部屋を出て一階の食堂に行こうとして、階段を降りかけた時、突然私が落ちてきたと言う。

美菜子はどうしてここにいるのか分からないと言うと思い出すまでここに居たらいいと言われた。

美菜子は仕事があるので帰らないといけないと言うがマリベルからは美菜子がいた世界ではないと言われて驚き、不安になった。

どうしたら美菜子がいた世界に戻れるのか聞いたが分からないと言われ、美菜子は帰る当てをなくして途方にくれた。

マリベルは美菜子がいた世界の話しを興味深く聞いてきた。

「お父様、美菜子を私の跡を任せては駄目ですか?」

「しかし、マリベル、おまえはどうするつもりだ?」

「私の病は治らないと言われています。それなら別の者が、代わりを務めてもいいでしょう」

「まだ、おまえは元気ではないか」

「今は元気ですが、いつ病が悪化するかもしれないです」

マリベルの勢いに負けて侯爵はマリベルの後継者を高橋美菜子にした。

美菜子の事情を聞いたマリベルは本来なら自分がやらないといけない父親の侯爵の補佐をする人物を探していると言ってきた。

誰でもいいと言う訳ではない。侯爵家の事業が乗っ取られない保証もないといけない。その点、美菜子は合格点が出る人物だったらしい。侯爵もマリベルも考えは一致した。

その後、美菜子はカタリナと言う名前が付けられた。

マリベルにつけられている家庭教師の授業にカタリナも一緒に受ける事になった。

その内容は侯爵令嬢に必要な教養に侯爵家が持っている商団の運営など多岐に渡る。

カタリナはその授業を受けながら自分が商団に出来る事を探り商団運営に必要な事を考えていた。

元の世界に戻れないなら、ここで生きて行くしかない。それなら自分に出来る事をしようと思った。

「マリベル、情報屋があると良いと思うけど、どうかな?」

「情報屋?」

「取引内容や取引先の情報を集めてくる人たちがいた方が仕事がスムーズに進むわ」

「良いわ!早速作りましょう!」

マリベルの後押しもあり、早速情報ギルドを作った。

ギルドの人選から仕事内容、給料などやる事は沢山あったがマリベルと一緒に楽しく作っていった。

時々、マリベルは高熱をだして寝込むことがあったがそれ以外は元気そうだった。

カタリナはマリベルが飲んでいる薬を見せてもらった。

薬から心臓が悪いとわかったがマリベルが何も言わなかったのでカタリナはそれ以上聞く事はなかった。

そして、薬からわかったのはマリベルもカタリナと同じ世界から来たことが分かる。

一ヶ月後にはギルドは始動を初めていた。

次々と届く情報をマリベルとカタリナは読んでいた。

「まだ、情報がたりないわ」

マリベルが呟く。

「何が足りないの?」

カタリナが聞く。

「取引先の商団経営者の情報がないわ」

マリベルに言われてカタリナは報告書をもう一度見直す。

確かに経営者の情報は無かった。

会社経営には欠かせない情報だ。

お金だけ請求して商品を送ってこなければ意味がない。経営者の信用も大切だ。

カタリナは会社勤めの時を思い出し、必要な情報を集めるよう指示を出した。

それと取引先の動向は逐一報告するよう指示もだした。

そのおかげか、取引先に怪しい動きが見られて詳細を調べさせると侯爵家の商団の情報が流出しているのがわかった。

情報を集めていたのは従兄のアデルだ。

アデルは侯爵家の商団の情報を集めて、新たな商団を作ろうとしていた。

「カタリナ、どうする?」

マリベルに聞かれてカタリナは考える。

「アデルに情報を流した人物を特定して、ちょっと懲らしめてみましょうか?」

カタリナは笑顔を見せる。マリベルもカタリナがやろうとしているのを察して笑顔になった。

カタリナは情報ギルドを使ってアデルに情報を渡した人物を特定した。

そして、逆にその者からアデルが作ろうとしている商団の情報を手に入れた。

アデルが作ろうとしていたのは衣料品店だった。

カタリナはその情報からもっと良い衣料品店を作った。

アデルが作ったお店の開店日にカタリナが作ったお店も開店すると瞬く間にカタリナが作ったお店に客は流れてくる。

「マリベル、大成功よ!」

カタリナが作った衣料品店の服のデザインはマリベルが担当している。

今までにないデザインに興味を持たれ、今まで様なコルセットで、締め付けないドレスが評判になる。

それに合わせて小物なども販売すると更に人気が出た。

二か月もするとアデルのお店は閉店に追い込まれた。

「カタリナ、アデルが衣料品店をどうして選んだのか気になるわ」

マリベルの言葉を聞いてカタリナも気になっていた。

情報ギルドにアデルの動向を探るよう指示を出した。

「アデルが後継者にしてくれと言ってきた」

午後のお茶を飲もうとしていた時、侯爵がやってきた。

「それでどうするつもりですか?」

カタリナが聞くと意外な答えが返ってきた。

「カタリナという後継者がいるのに他の後継者を選ぶ理由がないだろう」

「それでなくてもアデルは最近、店を一つ潰しているのだからな」

侯爵の言葉になんと答えればいいのか迷った。

その店が潰れる原因は私ですとも言う事が出来ず気まずい時間が流れた。

侯爵はカタリナの気まずさに気付かずアデルの商才の話を続けた。

侯爵の話しだといずれアデルは家門を追い出されるはずだった。今回の前にも二つ事業を潰していたと言う。カタリナは呆れていた。事業を二つも潰しておいて後継者になろうとは。アデルが後継者になったとたん侯爵家の商団は潰れてしまうだろう。

マリベルと侯爵が別の後継者を探していた理由がわかった。

カタリナは更に新たな事業を考える。

食材を仕入れている事業があるがその使い道は市民に売るだけだったので飲食店を作ってそこに食材を卸す事にした。その飲食店が貴族の間で、評判になり売り上げも好調になっていく。

更にカタリナは薬草を仕入れて簡単な薬を作って売り出したところ市民に好評でこちらも業績がよく、侯爵から感謝された。

「カタリナに頼んで良かったわ」

マリベルからは手放しで感謝されカタリナは安堵した。

見ず知らずの国にきたカタリナを受け入れてくれた侯爵とマリベルには感謝しかない。その恩返しが出来て良かったと思う。






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