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ゲーミング妹

 聞いてない。任務とか聞いてない! ……はずだったが、リートは何の迷いもなく俺にゲーム機のコントローラーを差し出してきたのだった。

 はい、これ持って。とでも言いたげな動き。実に軽やかで不躾な動作だった。


「え、これは……何?」

「見てわかるでしょ。コントローラー」


「違う違う。なんで俺はそのコントローラーを渡されたのかって聞いてんだよ!」

「えー? そんなの、一緒にゲームするためじゃん」

 リートは、えへへっ♪と笑いながら言ってきた。


 はぁ~、可愛い表情はやめてくれよ。どんどん帰りづらくなるだろ……。

 この時、結局俺は誘惑に負けてしまった。


 それから、なんだかんだで二時間くらい、二人でゲームをし続けた。


「えぇ⁉ 何それ⁉ ちょ、そこそこっ、ピンクの建物の陰! そこ右ッ! あ、いや、後ろ! 後ろにも敵いるじゃん! 木下やっちゃって! 後ろ!」

「任せろ。余裕だわこんなん」


 リートを追い込んでいた敵襲。

 その敵襲を、俺が外側から一気に壊滅させていった。(※ゲーム内)


 画面内は血の海。敵を根絶やしにしてやった。

 加えて、煽り行動を連発。ここからが俺流だ。


 画面向こうの相手の精神をも、根こそぎ刈り取っていくスタイルでいくぞ。

 よし、これでもう二度とコントローラーを持てない体に――。(※良い子は絶対マネしないでね)


「え⁉ もう倒せてる! すごっ⁉ 何今の!」


「プレイヤーレベルが上がれば解放されるウェポンがあるんだよ。それにこのゲーム、一体俺が何千時間やってきたと思ってんだよ」


 これは、数年前からシリーズ化して、今もなお人気の高いFPS系のゲームの新作だ。


 俺はこのシリーズで、かつて国内戦績上位のランカーと呼ばれるくらいにまで腕を磨いていた事もあった。何ならネット掲示板に晒された事もあるくらい、一部からはその実力を妬まれていたからな。今となっては黒歴史のようなものだが。


 久しぶりだったが、思う存分暴れる事ができた。満足満足。


「全滅させちゃった……うう……勝ったけど。勝ったけどぉ……! 何千時間もやってるとか聞いてないよぉ……」


「いや、一緒にやって俺達で勝ったんだからいいじゃん? 見事な人身御供だった」


「違う違う! そうじゃなくて、私がもっとこうバリバリ活躍して、木下引っ張ってみたかったのに~! 悔しいぃぃ! この廃人!」


 リートは膝の上に置いていた青色のクッションを、バフッバフッと叩いて拗ねているようだった。

 ホコリが舞うからやめなさい。


 それと、興奮してるのか俺の苗字も平気で呼び捨てにしていた。もう好きに呼んでくれ。


「いやそれにしても、結構ガッツリゲームに没頭しちゃったな」

「そうだね。ていうか、もう夜の七時じゃん!」


「外真っ暗になったな。いい加減帰るわ」

「あ! 勝ち逃げか! このぉ~」


「勝ち逃げって……じゃあどうなれば俺は帰っていいんだ?」

「私の方が、貢献ポイント稼げるまで!」

「一生帰れねぇわ、それ」


 貢献ポイントは、ゲーム内でのキル数とデス数に応じて割り出される。俺よりもデスを減らすか、キルを増やすかしないと、到底無理な話である。


 さっきのゲームですでに5倍くらい違ったからな。道のりは険しいぞ。……というか、やっぱり俺帰れねぇだろこれ。


「そんな事ないから! 私が本気出せば次ので勝てるから!」

 どうやらリートはまだ本気を出していない設定らしい。


 しかしそれでもリートの瞳には、燃える闘魂の煌めきがそこに宿っているようだった。高校球児か何かなのか? 気持ち良いくらいスカッと真っ直ぐゲーム一本なんだな。


 ひた向きっていうか、愚直っていうか……。俺が失ったもの?


 そんなリートを見ていると、俺はふと、過去の自分を思い出してしまう。熱心に、ゲームにのめり込んでいた頃の俺。そんな記憶がありありと思い出せる。


 そうだよな。ゲームって、やってると楽しくて、時間も忘れちゃうようなものだったはずだよな。それがどうして、やってると二番煎じに思えたりとか、一歩引いた後ろの方から、冷めた目で見てしまうような事になったんだろう。


「木下……?」

「なんだよ」

 心に引っかかる。リートは失ってないんだよな、と感じる。


「いや、なんだか今、すごく寂しそうな顔してたから」

「え? ああ。お前とやってると、いつまでも帰れないだろうなーこれは、って思ってな」


「だ~か~ら~! 次で終わりだって! 次で!」

 よっしゃ~、いくよー! と息巻くリートを横目に、俺はふふっと笑みをこぼしていた。


 俺は早く帰る方法を知っている。俺が手を抜けばいい。ただそれだけの事だ。単純明快だな。だけど……。


「いや、本当に今日はもう帰るわ。明日も学校あるし。ていうか、リートも明日学校があるんだろ? もうやめにしよう」


「……」


「リート?」

 なんだこの空気は。地雷を踏んだのか……?


 俺が尋ねると、リートはしばらくの間何もしゃべらなかった。静かな空気が流れる。テレビ画面はずっとゲームのリザルトが映し出されたままで、「コンティニュー?」の文字の部分が点滅している。


「私、学校行ってない」

「え? リートって不登校だったのか?」


「そうそれ」

 少し俯き加減になるリートに、なんて声を掛ければいいのか、俺にはよくわからなかった。だからとりあえず、返事だけしておく事にした。


「…………へぇ」


「ぷっはははは! へぇって、それだけ?」

 リートは、俺の返事にたまらず噴き出したようだった。お腹まで抱えて笑っている。


 なんで俺が笑われるんだよ。またあれか、箸が転んでもおかしい年頃シーズン2か。


「別に、へぇ、だけだ。そんなに感想ほしかったのかよ?」

「いや、感想なんていいんだけど、……へぇって、ぷふっ」

 まだちょっとツボってるらしい。


「まぁ、不登校なら学校行かないんだろうし、お前はいいのかもしれないが、俺は学校あるからな。じゃあ今日はこのへんで帰るわ。続きはお姉ちゃんに遊んでもらえ」


「え~。お姉ちゃんやってくれないし、やっても超弱いよ?」

 カノンは散々な言われようだった。意外とゲームダメなのか? 今度誘ってみるか。

 しかし、まぁ頑張れお姉ちゃん。超弱くても。俺はもう帰る。


「じゃあな」

「うーん……じゃあまたね~」

 部屋を出ていく俺に、リートは渋々といった様子で手を振っていた。


 なんだよ。寂しい顔するなよ。

 俺はカノンに言われた「ほどほどにね」の意味を、一応は俺なりに解釈していたつもりだった。あまりゲームの腕を見せつけてもあれだし、ちょっと悔しがってはいたが、それくらいでやめとくのがちょうどいいと思う。十分楽しんだだろうと思う。


 そういえば、カノンはまだ帰ってきていなかった。

 あのカラオケ屋のバイトだから、たぶん夜9時までのシフトだ。まだ帰らないのは、当たり前といえば当たり前だった。


 俺は一人、夜道をゆっくりと歩いて帰っていった。

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