やっぱり所詮、二番煎じだ。
「召喚少女とデッドモンドヘヴンズ
あらすじ:幼い頃に不慮の事故で両親を失った主人公・エリカは、親友のヒカリが、ある日、学校の使われなくなった教室で悪魔を召喚している場面に遭遇する。
実はヒカリは、この世の「悪」を根絶するために日夜活動している「召喚少女」なる存在だったのだ!
召喚少女である事がバレてしまったヒカリは、エリカにある真実を打ち明けた。
彼女の両親が亡くなった事故は、実は全てヒカリの姉・キスナの失態によるものだという事。しかしエリカは、ヒカリやキスナを責めはしなかった。事情を聞くに、それはやむを得ない結果だと知ったからである。
エリカの両親の命を奪った「悪」は、未だに誰かの命を奪い続けている。
それをヒカリから聞いたエリカは、自らが召喚少女となり、「悪」への復讐を決意するのだった。
召喚少女達の死闘が、今始まる!
竹野コノサト先生の話題作! 堂々開幕!」
裏面のあらすじにはこう書いてあった。
またひっくり返して表紙を見る。
最近このイラストレーターが売れているのか知らないが、どこかしらで見た作風の美少女がそこにいた。杖のようなものを持って、えいやとばかりに左側へ差し出している。
その手前に、美少女の使役している悪魔が立っている。ぐしゃああ!みたいな鳴き声でもあげてそうな様子で、表紙の見切れた先に突っ込もうとしていた。
ピンクの幅広の帯に、絶賛アニメ放映中!の黒い文字が躍っている。
裏面のあらすじを読んでも、この表紙のピンクの帯を見ても、俺は憂いに満ち満ちた溜め息しか出なかった。むしろ溜め息が出ただけ、無反応よりマシかもしれない。
俺は手に持っていたそのライトノベルを、平積みにされていた元の位置に戻してやった。
つまらんつまらん。
なんだこの二番煎じに塗れた陳腐な小説は。テンプレ感が強過ぎて嫌気が差す。魔法少女と悪魔の掛け合わせ? ああ、それはもうとっくにやり尽くされてるっての。
きっと、中を読んだところでそんな気分になる。
「はぁ~~」
二度目の溜め息が出る。
木下逸色。別に取り柄と言えそうなものは何もない、ただのアニオタ高校生。これが俺の名前で、俺を言い表した肩書き。漫画やゲームも好きだが、アニメは特に好きだ。
書籍のアニメ化情報は極力見逃さない。もちろん書籍だけじゃない。
漫画もゲームも、俺のアンテナにぴん!っときた奴は見逃さない。
俺は、数週間前までそれらが「好きだった」。オタクカルチャーと呼ばれるそれらが。
けど、最近はどうも違う。ぶっちゃけ悩んでいる。ぴんぴんぴんが、ゼロ圏外。
そう思いながら、俺はいつものその書店を後にした。
とぼとぼと歩いて家に帰った。
かすれて消え始めている道路の白線に、なんとなく自分の足を乗せそうになる。
そんな凡庸な自分が、俺は嫌いだ。
さっきの「好きだった」というのは実に正しい表現である。
俺は、色んなアニメや漫画、ゲームを嗜んできた。どれもこれも、初めはすごく面白くて、興味が絶えなくて、次から次へと漁りに漁っては、うおおお!とスポーツ観戦するファンのように燃えていた。ふぐ、ふぇっぐ、はふぅ……みたいな、気持ち悪い嗚咽をこぼしながら涙をぽろぽろと流して感動したりする事だってあった。
要は、すっごいファンだったわけだ。オタクカルチャーってやつの。
目がない、とはこのことだ。
しかし、最近の創作を見る時の俺の目はどうだ?
目がない、どころか退化してやがる。余計にたちが悪い。
深海魚は、暗くて深くてまともに見えやしない海底を生きる過程で、目が退化したんだと言われている。が、それは俺にも当てはまるかもしれない。
もう二番煎じな作品ばっかり世の中に溢れてるから、目を使わなくていいよ~っと勝手に身体が判断して、目を退化させたのかもしれない。
こうした一切は「二番煎じ」のせいだ。
しかし、これらに嫌気が差したところで、実際にはまるで害がない気がする。というより、むしろ良好。良い兆候。もーまんたい。
高校生は忙しいんだ。よって、趣味を放棄したところで全く問題ない。
現に今だって俺は、休日に入れられたアルバイトを終えてこんな夜遅くに帰っている。
これは多忙と言っていい。
ただ、俺のスケジュールに組み込まれているのは精々アルバイトのみだ。勉強も部活もゼロ。友達関係も恋愛関係も、はっきり言って予定にないし存在しない。
学校とアルバイト。似たような毎日を繰り返すだけの、無味乾燥な灰色の高校生活。
そんな高校生活に彩りを一つ加えるとすれば、アルバイトで稼いだお金を、趣味にじゃぶじゃぶつぎ込むことだけだった。
好きな漫画やゲームも買った。アニメのグッズも買った。
円盤もフィギュアも、アクキーもポスターもタペストリーも、出せる金額の範囲でそこそこ買って楽しんでいた。
そんな男から、こうした趣味を全部取り除いていってみろ。もう二酸化炭素とうんこを製造し続ける機械にしかならんだろ。
つまり俺は、二番煎じによって、間もなく二酸化炭素とうんこの製造マシーンになってしまうかもしれない瀬戸際に立たされているわけだ。
俺にとって、趣味を放棄するという事は、それらを受け入れる事に等しい。
書店で見掛けたその「召喚少女」が、決定打だったと思う。
やっぱり所詮、二番煎じだ。
こういう、魔法だの召喚だの、天使だの悪魔だの、現実にありもしないものを絡める作品でも、やっぱり要素を分解していくと、二番煎じの臭いが漂ってきてうんざりする。
オリジナリティって一体なんなんだ?
既出の記号を掛け合わせる、その掛け合わせ方がオリジナリティになるのか?
俺はその答えがわからなくて、半ば強制的に趣味に醒め、距離を取りたくなっていたのかもしれない。
※以前の投稿作「二番煎じな俺を殴りたいんだが、手を貸してくれ」の改稿版です。
※大筋はそこまで変わりませんが、純粋にゼロからまた楽しんでいただければ幸いです。