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正月エピソード 近いうち転機来たる

「いち・に!いち・に!」


肌寒い朝に何かを打ち付ける音が響く。

俺は今、男陣で餅をついている。俺の頭が入ってもまだ隙間があるくらいの臼の中にもち米を入れて父さんが付いた後に水を足していく。

なぜ俺が突く方をやらないかって?やりたくないだけだ、やろうと思えばやれる。


「ふう、そろそろ変わってくれよ。雪。」


「いやだ。こんな寒い中手伝ってるだけましだろ?」


嫌がりながらも水を足して交互についていると―——


「秋さん、雪に頼むだけ無駄ですよ。そいつ持てないのをいい感じにごまかしてるだけだから。だ~よ~な~?」


司が隣の家からきて話しかけてくる。


「持てるし、やろうとすれば持てるっての!父さん貸してっ。」


俺は父さんから槌を奪って女子のような細腕で持ち上げる。持ち上げるんだ!!


「あっそんなに無理して持ち上げると―————」


「うおりゃー!!ふぇ!?」


俺は勢いよく上に振り上げたがその勢いのまま反対側に振り落とした。しかもその勢いで地面の雪を踏んで転んだ。


「いった!!ど、どうだ!!持てただろ!」


「いや、あーうん。モテテスゴイネー。」


「絶対に思ってないだろ!くそ、ならお前やってみろよ。」


「雪大丈夫か?まあ大丈夫そうだな。司君もやってみるか?これ。」


「いいんですか?やります!雪、水係りな。」


「わかった。」


俺はさすがの司でも持つのに苦労すると思った。ていうか苦労しろ。

だが———


「よいしょっと。重いですね、これ。行くぞ雪、水入れてくれ。」


「なんでそんな簡単に持つんだよ!もっと苦労しろって!」


不満な顔をしつつも俺は水を臼にいれる。その瞬間、司がものすごい勢いで槌を振り下ろしてきた。


「おい!まだ俺が手引っ込ませてないだろ!つぶれるかと思ったぞ!?」


俺は顔を上にあげて申し訳なさそうにしてるだろう司を見ると———笑ってやがった。


「これくらい避けられないのか?雪はどんくさいなぁ。」


「はぁ?そんなわけないだろ!もっと速くしてもいいぞ?まさか重くてこれ以上速くできないとかじゃないよな。」


「潰されても知らねぇぞ?」


「やれるならやってみろ!」


どちらが限界を迎えるのかのチキンレースが始まった。

二人が熾烈な争いをしてる最中司の家から人が出てくる。


「やぁ秋、うちの子が世話になってるね。雪くんとも仲良くやってるみたいでよかったよ。」


「総司か。奥さんならうちの紅さんとおせち作ってるよ?」


「いや、楽しそうな声がしたから来ただけ。若菜が紅さんとおせち作るのは知っていたからな。」


「今日はもう仕事は終わったのか?」


「うん、注文された分は昨日のうちに納品したからね。そっちこそ仕事は?」


「しばらく休み。年末のうちは仕事が来ないように潰し回ったから。」


「さすが鬼神。」


秋と総司が雑談をしていると雪の家から綾が出てくる。


「雪くーん、秋さーんそろそろお餅できましたー?」


俺たちは綾の声に意識を持っていかれてしまった。水は入れ忘れるし司は綾の方向に槌を振り上げてしまった。

その結果熱々の餅が綾の方向に吹っ飛んでいった。


「「まっず!!綾何も————」

「へっ!?避けられな———【|火球≪ファイヤボール≫】!」


飛んで行った餅は空中で綾によって焼かれてしまった。

俺たちは終わったと思った。だって綾だよ?丸焦げに決まってる。

だけど黒い影が俺たちの前を通り過ぎた。


「ナイス火加減!美味しそうに焼けてるよ?」


一瞬のうちに餅の下に移動した父さんが、手に包丁をもって一口大に切り刻んでいた。


「はい、お皿。」


さらに総司さんが皿を取り出して餅を全て受け止めていた。


「すっご~い!!もう一回やってください!」


綾がものすごく興奮していたが俺たちはそれより父親たちの早業に唖然としていた。


「なぁ——総司さんいつ皿造ったんだ?」


「知らねぇ、それより俺秋さんの姿とらえれなかった・・・。模擬戦でのあそこまで速いの見たことないぞ。」


司の父親【龍堂 総司】は鱗を変形させて色んなものを作るのだが全く見えなかった。


「雪、司君!冷めないうちに餅食べるよ。家の中に早くおいで―。」


「待って、すぐ行くから!司早く行くぞ。」


「おう、汗が冷えてきた。ストーブで温まるか。」


俺と司はダッシュで家の中に入る。


「「温まるぅぅ。」」


俺と司は入り口にあるストーブの前で手を出して温まっていた。


「はい、コーンスープ。お疲れ様ー。」


綾がコップにコーンスープを入れて持ってきてくれた。コーンがたっぷり入っていて美味しそうだ。


「「綾、ありがとう。」」


「そういえばさっき火加減できてたけど、どうしたんだ?」


俺は火加減などできない綾がちょうどよく餅を焼けていたことが気になっていた。


「若菜さんが魔力を抑制する魔道具を貸してくれてたの。お手伝いするときに全部焦がしちゃうといけないからって。」


「なるほどな、母さんに感謝だな。そうじゃないと今頃黒い塊になっているだろうから。」


「否定したいけどできない・・・・・・。温まったら餅食べに来てね?」


綾はキッチンの方に戻っていった。


それを聞いて俺たちはコーンスープを飲み干す。今日はかなりの人数がいるからすぐに食べられてしまうからだ。


リビングに入ると父さんたちが餅を食べていた。


「雪も食べてみな?綾ちゃんが焼いた餅美味しいよー!」


「食べつくされる前に食べるぞ、司。」


「そうだな、雪んちの餅は美味しいからな。」


俺たちが餅を二つほど食べ終えると綾が戻ってきた。


「夜ごはんお鍋だからそのくらいでね?」


「了解、ほら雪。そのくらいで。」

「司もね?」


俺たちは父さんたちに止められて3つ目を食べようと伸ばした手を下した。


その後はマラソンとか神社を映すテレビとか正月近くにしかやっていない番組を見て時間をつぶしていた。


そして19:00くらいになって鍋の準備を始めた。


「雪―ー!魔道コンロ二つ持ってきてくれ。司君はテーブル動かすの手伝ってくれるかな?」


俺は物置からコンロを二つ持ってリビングに行くと司がテーブルを動かし終わっていた。


「雪、コンロをテーブルに置いてくれる?」


「よいしょっと。これでいい?」


「もう少し奥に置いておいて。うん、そのくらい。」


「雪君!そこどいて!」


綾の声が聞こえたので振り返ると重そうに鍋を持った綾がいた。


「悪い今退く!」


綾はふらふらしながらコンロの上に鍋を置いた。正直いつ溢すかひやひやしていた。


「あとは10分くらい煮込めば食べられるよ。少しゆっくりできるね。」


するとおせちを作っていた母さんたちがリビングに戻ってくる。


「雪たちはそっちの鍋使ってね。私たちはこっちの鍋で食べるから。」


母さんたちは俺たちの鍋より一回り大きい鍋の方で食べるらしい。


綾たちと雑談をして煮だつのを待つこと10分。中に入っている野菜や肉に火が通ったので食べ始める。


「うま、鶏がらスープか?」


「そうだよ!塩味も効いてておいしいね!」


「少し食べたらキムチ入れてキムチ鍋にしようぜ?」


「「賛成!!」」


そのあとも雑談しながら食べ進めていると飛鳥さんがこっちにやってきた。


「雪くーん、こっちに来てお酒飲もうよぉ。」


若干酒臭い。相当飲んでるな?


「俺まだ飲めませんよ!ほら、父さん。つれていって。」


「おーう、こっちで飲んでるから気にしないで楽しんでね?飛鳥、この酒飲んでみ?」


父さんは透明でキラキラ輝いている酒を飛鳥さんに飲ませる。するとすぐに眠ってしまった。


「ええええええ!?飛鳥さんダウンする酒って何!?あの人かなり酒豪なはずだけど?その酒何!」


「これ?鬼殺し。総司が僕を酔わせるために作ってる秘蔵酒だよ。これ美味しいんだぁ」


めったに酔わない父さんがほろ酔いになってるのを見て驚いた。だって日本酒を樽で飲んでもケロってしてる父さんがだぞ!?


「司、総司さんすげぇな。」


「俺も初めて知ったぞ。仕事の合間になんていうもの造ってるんだ。」


そうやって話していると総司さんがこっちに酒瓶を持ってやってきた。


「秋、今年は君をつぶす酒を持ってきたよ!その名も【鬼神殺し】絶対に君でも泥酔すること間違いなしさ!」


総司さんが父さんのグラスに酒を注ぐとその酒は赤く光り輝いていた。


「きれいなお酒だね。それじゃあ一献。」


ぐびっと一口で飲み干した父さんの様子をうかがっていると―———


「ふぅけっこう飲みやすいけど強いお酒だね。おっとと。結構酒が回ってきたかな?」


「今度こそ一口で泥酔する酒を造るからな・・・!」


父さんがふらつく時点で十分なのでは・・・?


その後もわいわい新年を待ちながら楽しんでいた。


「そろそろ鐘突きに行く?」


綾がそう提案してきたので司とともに出かける準備を始める。


俺たち以外は酔いつぶれているので3人だけで外に出る。


「うわぁみて!二人とも。星がきれいだよ!」


俺は上を見上げると満天の星空が見えた。


「そういえば二人ともこの前もらったマフラー付けてきたんだな。」


「せっかくもらったからね!そういう雪君もつけてきてるでしょ。」


歩くこと十数分、近くの神社についた。すでに何組か除夜の金をつきに来ていて鐘の音が聞こえてきた。


「ほら!私たちも並びに行くよ!」


「あ、こら引っ張るなって!行くぞ司。」


「大変だなぁ、お前も。」


数組が付き終わって俺達の番になった。


「綾、思いっきり行くぞ!」


「うん、司君!」


「え、お前ら何を———まさか!まてまてまて!」


「「せーのっ!」」


俺は二人の身体強化した振りに巻き込まれ鐘突きの縄にしがみつく。

ものすごい勢いで叩きつけられた鐘は先ほどまでの組よりも大きい音でなった。


「「「耳がぁぁぁぁぁあっぁ!?!?!?!?!」」」


俺たちは自分たちの鳴らした音で悶絶していた。俺はともかくなんでお前たちまでそうなってるんだよ。


「まだ耳がキーンってなってるよ~。」


「やりすぎた・・・雪なんで止めてくれなかったんだ…」


「お前らが暴走したからだろうが。止める暇すらなかったんだが?」


しばらくうずくまっていた俺たちだが回復した後お参りするために本殿にまで歩いて移動する。


「二礼二拍手一礼だっけ?」


「あってる。五円玉もってるか?」


「あ、忘れてた!」


「しょうがないな、ほれ。五円やるからそれ使え。」


「ありがとう、雪君!」


俺たちは横に並んで願い事を思い浮かべる。


(来年もこいつらと一緒にいられなすように!!)


「よし!二人はなに願った?私は魔法が上手く使えるように!」


「火力にならないように気をつけろよ~?」


「バ火力いうなっ!そうならないために願ったんだから!」


(すでに神頼みしないと治らないのか…。)


「もうっおみくじ引きに行くよ!」


綾は一人でおみくじを引きに行ってしまった。


「あいつ金ないのに一人で行っちまったぞ。雪俺たちも行くか。」


「ほんとに綾は……。」


俺たちが売店につくと綾が待っていた。


「おみくじ引こうとして金ないの気が付いて店員の前で赤面でもしたのか?」


「なんでしって・・・!アッそ、そんなことしてないよ!?」


「無駄無駄、鎌かけに引っかかったんだから大人しく認めろよ。」


「くっ性格悪いなぁ!」


司と綾が先にひいて俺も引くことにする。


「せーので広げようか。せーのっ。」


三人同時に広げると俺だけ大凶だった。


「ま、まじか。最悪すぎるだろ~。」


「ま、まあまあ。むしろ運がいいってことかもよ?内容はどうなの?」


「金運最悪、うわ、災厄来るって。まじか。」


「雪さんざんだな……。俺は大体いいな。おっ待ち人来る!よっしゃ緋真さんとの仲が進展するか!?」


「いいよなぁ司は。ん?でも近いうち転機来たるだって。」


「よかったね!悪いことだけじゃないんだよ!」


「そういう綾は?」


「私は司君と同じみたい。」


「つまらね。まあ、そこまで中身細かく変えられないか。」


「―————————————————待ち人来たるが雪君だといいな。」


「何か言ったか?」


「何も言ってないよ?」


「そこの夫婦漫才ども、そろそろ24:00だぞ。」


「あ、もうそんな時間なんだね。カウントダウンしよう!」


「「「10、9、8,7、6、5、4」」」


「「「さーん、にーい!いーち!あけましておめでとう!」」」


「「「今年もよろしく!!」」」



この数か月後、雪は事件に巻き込まれて女に変わり確かに転機は訪れ、綾の待ち人になるのだが。今の三人には想像すらしていなかった。


下のURL先に雪と綾のうさぎ衣装載せときます!

https://www.pixiv.net/artworks/104123998


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