クリスマス記念エピソード 星の巡る日
中学最後の冬、肌寒くなって羽毛布団を出してくるまる。瞼を閉じて俺は夢の世界に旅立つ準備をした。瞼の裏には真っ暗なまるで夜空のような景色が写る。じきに浮遊感が体を襲った。
「うおっ寒っ!どこだここ?」
辺りは真っ暗で何もなくただ浮遊感だけが存在していた。ふと下を見てみると一面草原が広がっていた。だがやけに遠い。
「なんか地面遠くね?っていうか俺空飛んでる!?なっ落ち、落ちる〜!!」
空を飛んでいると自覚した瞬間俺は地面に落下した。
「いてて、いや、痛くない。これ白昼夢ってやつか。明らかに夢だもんな。にしてもすごく綺麗な夜空だ。」
雪は大の字になって夜空を眺める。そこには満点の空が広がっていてその中でもより輝いてる星がいくつかあった。
「うーんあの小さいピンク色は朱音みたいだな。その隣にある綺麗な赤色は母さんか?なんとなくそんなイメージがするな。そうするとあの情けなさそうなうっすい金色の星は父さんだな。」
雪はなんとなく暇を潰すためにひときわ輝いてる星を家族に喩えていた。
すると新しく輝く星が二つ現れた。
「ははっ流石夢だな!なんでもありか!やっぱりお前らもいるよな、綾、司。」
まるで燃え盛るようにギラギラしている星と冷たい色をしていても強く輝く星を見て俺はそう思う。
「なら、あの二つの近くで弱々しく光ってるのが俺か。」
俺は自嘲気味に笑いながら星を眺める。すると急に夜空が星が周り出す。まるで時間が早まるかのように点が線となって夜空を駆け巡っていく。そしてようやく止まる頃には俺の星だけが居なくなっていた。
「そう、だよなぁ。あと数ヶ月したらあいつらとも離れちまうもんな・・・」
俺はそんなふうにため息をつきながら夢が覚めるのを待つ。だが視界の端から何か眩しいものが飛んでくる。
「流れ星・・・?いや?彗星か!まぁなんでもいいか。・・・・・・ここなら誰もいないし恥ずかしいけど願っとくか!俺に能力をくれ!!あいつらと離れなくていいように!置いてかれるのは・・・嫌なんだよぉ!!」
その彗星は俺の願いを聞き届けたのか赤く光る。それはどんどん大きくなって・・・。
「彗星じゃなくて隕石かよ!!」
「誰が隕石よ!?起きてよ雪兄!」
「あだっ!?」
俺は急に浮遊感の後衝撃を受けた。
「全く、冬休みに入ったとはいえだらけすぎ。もう8時だよ?」
「いたた、だからってベットから落とさなくても・・・ちなみにもしかして俺に乗った?」
「雪兄・・・クリスマスツリーの星の飾りになるのと七面鳥になるのどっちがいい?」
「ゴメンナサイ!」
朱音に体重の話するのは禁句だな。アレは本気の目だ。
「早く降りてきてね?クリスマスの準備するんだから!」
朱音はジト目のまま部屋を出て軽快に階段を降りていった。今日はクリスマスイブだが予定が今日しか会わない人がいる為イブにパーティーをすることになったのだ。
「今日はクリスマスイブか。もう一年もあと数日、早かったなぁ。ん?なんか話し声がするな。」
俺は部屋の窓を開ける。すると視界が真っ白になった。
「へぶっ!?〜〜!こらお前ら!いきなり雪玉投げつけてくるんじゃねぇ!!」
「起きるのが遅い雪が悪いんだ。雪かきする予定だっただろ?雪を雪に投げて何が悪い。」
「司くん笑いすぎ・・・プフッ!」
「絶対ボコす。そこで待ってろ!」
俺は急いで防寒着とマフラーに着替えて外に出る。マフラーは前に綾から貰ったものだ。五年は使ってるか?
俺はリビングにいた朱音に雪かきしてくることを伝えるために扉を開ける。
「朱音っ!外で雪かきしてくる。母さんたちは?」
「買い出しに行ったよ。3家族分だから綾さんたちのお母さんと一緒に。」
「なら、まだ遅くなるよな。雪かきしてくる!」
俺は早口で伝えて玄関の扉を開ける。
「雪兄は雪が降るとガキっぽくなるよねぇ。私を重いっていった罰よ。玄関の罠は言わないから。」
朱音が雪に聞こえないくらいの声で喋ったと同時に雪の頭に白い塊が落ちてくる。
「お、引っかかった。毎年やってるのに学ばないよな、こいつ。」
「だね、大抵笑顔で出てくるよね。写真撮れた?」
「バッチリ!出てきた瞬間思い出して呆ける顔も撮れたぞ、ほら。」
「騙された大賞に出られるレベルだよ!ほら見てみて!雪くん!」
雪の塊がモゾモゾして立ち上がる。まるで雪の化身とでもいうかのような風態の雪が司ににじりよる。
「司〜〜よーくーもーやってくれたなぁー!くらえ!」
雪は体を振り回して体に付いた雪を飛ばしていく。
「うわっ冷た!やめろ雪!雪がくっつくから!」
「紛らわしいんだよ!寧ろくっついてやる。オラッ」
雪は綾と司二人を掴んで押し倒した。真っ白な新雪に俺たち幼馴染は寝転がった。
「「「おはよう!!」」」
これも毎年やっている日常である。
「綺麗に跡がついたな。新雪だから当たり前だけど。」
「そのためだけに雪の家の前だけ雪かきしてないからな。へぶっ。」
「雪くん意外とやられたらやり返すよね。あはは!司くん顔に変な風に雪がついてる!」
「お?イケメンが福笑いみたいな顔になってんな?そっちの方がいけてるぞ?」
「雪、それは開戦の合図で良いんだな?くらえや!」
「ほぐっ!?口は止めろ!?冷たいだろうが!」
「かき氷食わせてやるぞー?シロップは無いけどな!」
俺と司が雪合戦を始めていると誰か忘れている気がした。
「ひゃう!?冷たいッ!綾さん!?流石に背中に雪入れるの良く無いと思います!」
「私も混ぜてね?【雪玉】!」
綾は俺の話など聞かないで空に無数の雪玉を作り出して落としてきた。
「「おいおいおい、それはまずいって!」」
綾は水球の要領で雪玉を作り出したのだが最初こそちゃんと雪だったのだが数を増やしていったから上手く出来なくなって、雹に進化した。
「避けろ雪!死ぬぞ!?」
「寧ろ助けろ!そのための鱗だろ!?」
「お前俺が腕しか纏えないの知ってるよな!?」
「お前は肉壁になる運命の元生まれてきたんだ!受け入れろ!」
俺たちがわちゃわちゃしていると家スレスレに火が飛んできた。
全て溶けて俺たちにかかったが。
「もう、雪くんたちに迷惑かけないの!雪くんたちだいじょーぶ?」
「「えっとその、助けてもらったのはありがたいんですけど寒いっす。」」
俺たちは溶けた後の水をモロに喰らってびしょ濡れだった。
「あら、ゴメンナサイ!お風呂に入らないとね。・・・・・・綾とも入る?」
「「黙ってください、愉快犯。」」
この天然装った愉快犯こそ綾の母親、飛鳥さんである。この人何度も偶然装って色々してきたからな。ほんと色々。
「雪、この人相手にしてると風邪ひくぞ。早く風呂入りに行こう。借りて良いよな?」
「もちろん、さっさと行こう。」
俺たちは愉快犯を無視して風呂場に向かう。
風呂場の前まできて扉を開けると、そこには何やら深刻そうな顔して背伸びしながら体重計に乗る朱音がいた。
朱音の前には洗面台があり鏡、朱音、俺たちの順にあるわけだから当然朱音から俺たちは見えるわけで。
朱音はまるで油の挿してないロボットのような動きで振り向いた後、地獄の底から出しているかのような声で喋る。
「見た?見たよね?何でノックしないのかな。司さんもですよ?何で体重計見てるんですか?」
「いや、なに千奈ちゃんふと」
「死ねぇ!!」
「司ァー!?なんで正直に言った!?」
「雪兄も見たんだねッ!!ふんっ」
司はアッパーをくらい惚れ惚れするかのような軌道で飛んだ後、俺は腹パンをくらいダウンした。
「信じられないッ、乙女の体重を見るなんてッ」
(乙女というか重めの間違いだろ・・・)
心の中でそう思った瞬間朱音が振り向いてきた。
「何か言った?」
「ナンニモイッテナイデス。」
(女の勘ってやつか!?怖っ!)
俺は伸びている司を担いで風呂場に放り込む。
じきに目を覚ました司と温まった。
「ほんとなんであんなに力あるんだか。司なんて体吹っ飛んだし。ちなみに何キロだった?あんまり見えなかったんだけど。」
「?俺は60キロだが、体が吹っ飛んだってなんだ?」
「お前・・・!記憶が。」
司の部分的な記憶なんてどうでも良いので放置するけど。
リビングに戻ると家を女性陣で飾り付けしていた。
「お、男手がきたな。司!こっちきて手伝いなさい。」
「母さん、能力使えば良いだろ?」
「いやよ、この体だと若く見られるし何より可愛くないもの。」
この一見司の妹に見える人は司の母親、【龍堂 若菜】さん。大きくなったり小さくなったり出来るが何故かロリ体型を好む人だ。
「ったく大きくなっても変わらんだろうに。んで?何すれば良いんだ?」
「このレースを壁に貼ってほしいな?私たちは料理の準備するから。」
「了解。雪、遠くからずれてないか見てくれ。」
「分かった。あ、そこ少し上に。ちょっと行き過ぎ!そうそう、そこそこ。」
途中父さんたちがデカいクヌギの木を持ってきて若菜さんの能力でちょうどいい大きさにしてクリスマスツリーにしたりした。
そうやって家の飾り付けを手伝っていると焦げ臭い匂いがしてきた。
「なぁ、雪。なんか焦げる匂いしないか?」
「確かに。キッチンからだ。行ってみるか!」
俺たちは急ぎキッチンに向かった。あいにく家の外の飾り付けをしていたので到着するのが遅れたが中に入ると原因というか犯人がすぐ判明した。
うちの家のキッチンは普通にガスで火を起こすタイプと魔力で火を起こすタイプの二種類があるのだがよりにもよって犯人は後者でチャレンジしたらしい。
「綾。何やらかした?」
「べ別になに何もしてないよ?ただちょっと火が弱いかなーって思って、ちょっとほんのちょーっと魔力を込めただけだよ!」
「いたた、ハッ!みんな大丈夫!?」
「ええ、若菜。何とも無いわ〜。それよりうちの子がごめんなさい!紅、まさか魔力火の方で綾がやるとは思わなくて。」
「いいのよ、綾ちゃんだって悪気があったわけじゃ無いだろうし。ただ既に強火だったのにさらに倍以上魔力をぶち込んだからびっくりしたわ。」
母さんがとんでもないことを口にしたことで俺たちは犯人を懲らしめることが決定した。
「よーし、綾くん。こっち来てもらおうか?」
「人様の家燃やしかけた奴には反省が必要だよな?」
「えーと何するつもり?痛いのは嫌だなぁ〜なんて。」
しばらくして綾は全く動かなくなっていた。
「ひぃぅ!朱音ちゃん?なんで私の足の裏撫でたの!?」
「ゴメンナサイ、罰はしっかり与えないといけないって雪兄が。・・・・・・フフッ。」
「今笑った!!絶対楽しんでるよね!」
「コラ、看板が裏返っただろうが。動くなよ。」
今綾は首に『私は火加減が出来ません。』という看板を掛けて正座させられている。かれこれ30分は経ったろうか。
「雪くーん!助けてードSコンビがひどいんだけど!」
「流石に擁護出来ないかなぁ。チョンチョン」
「ぴッ!それやめて!」
「・・・・・・楽しいなコレ。」
「ドSが3人になった!?」
俺が新しい扉を開き掛けたところで母さんが呼びに来た。
「雪、ご飯できたからみんな連れてきてね。」
「了解。ほら綾行くぞー。」
俺は中途半端に楽しくなってきた気持ちを発散するために正座している綾を一気に立ち上がらせた。
「!?!?!?」
生まれたての子鹿よりも酷い足の震えが見て取れて満足した俺はそのままリビングに引っ張っていく。
「司さん、私たちのことドSとか言ってますけど雪兄が一番ドSだと思うんです。」
「同感、しかもあれほぼ自覚ないぞ。善意で引っ張ってる。綾の足見てみろよ、つま先立ちになって走らされてるぞ。」
なんか後ろでコソコソ話してるけどどうせ関係ないから気にしない。
リビングに到着すると豪勢な食事が並んでいた。俺は端の方に座る。綾はいつもその隣なので一緒に席に着こうとした。が、一向に綾が座ろうとしない。
「綾?座らないのか?ん、何小さくて聞こえない。膝が笑って座れない?しょうがないなぁ。」
俺は綾の背中に手を当てて膝を裏から押してやる。するとストンッと綾が正座の体勢で座ることができた。うん、俺良い仕事したな。
「うわー雪兄ほんと無自覚のドSですね。アレ絶対足の裏とか、お尻とかすごい痺れてた筈なのに。」
「本当に善意なんだぜ?見ろよ綾の顔。真っ赤になって涙目になってる。流石に可哀想になってきたぞ。」
何やら母さんたちや司がニヤニヤしてるが気にしたら負けだ。藪蛇な気がする。
「それじゃあ綾?号令頼むわねー?」
飛鳥さんがニヤニヤしながら綾に伝えると綾は深呼吸して、
「メ、メリークリスマース!」
とやけに早口で喋った。
その後は普通に食事を楽しんだ。チキンは勿論ピザやお寿司他にも色々食べた。
腹も満たして俺たちは夜空を見ながら話していた。
「明日になったらクリスマスだねー。今年はどんなプレゼントが貰えるかな?」
「まだサンタ信じてるのか?あーいうのは親がこっそり置いているもんだろ。」
「夢がないなぁ、それを分かった上で楽しむものでしょー?雪くん、どうしたの。星なんか見て。」
「あぁいや、今日夢で星空を見たからな。何となく見たくなって。」
「そういや今日は流星が見えるかもしれないらしいぞ。願い事でもしてみたらどうだ?」
「え!?ホントなの!?うーん何願おうかなぁ、健康、幸運、金運、んー雪くんは何願うの?」
「俺?そうだなぁ、二人と来年も一緒にいられますように。かな?」
「それ良いね、私もそうする!」
司は何となく察してくれたのか黙っていてくれた。
「あっ流星!」
俺は正夢にでもなってくれと思いながら願う。
(((三人でまた来年もいられますように)))
「流星見えたね、3回言えた?」
「3回じゃなくても強く願えば良いんだよ。なぁ雪?」
「そうだな、流星を見つけるくらい強く願ってれば何かしら叶うと思うよ。」
俺たちは各々が来年のことを思いながら願ったことは分かっている。何せ俺は無能力者だ。どうやっても二人とは離れてしまう。
「そろそろ寒いから中入ろう。ゲームでもしようぜ!」
司が空気を変えるために提案してくれた。
「それなら三人でやれる奴にしようよ!」
「お?さっきの仕返しをするつもりか?この中じゃ最弱なのにか?」
「今度は負けないから!」
最後のクリスマスを俺たちはギリギリまで楽しんだ。
「フフッ三人仲良く寝ちゃってる。本人たちも来年のことを考えてるのよね。」
「そうですね、やはり不安は大きいと思います。特に・・・」
「雪は二人と離れてしまうから。でも大丈夫よ。大きな休みには会えるし、それでなくても私の手伝いをさせるつもりだから。」
酒を飲んで寝てしまった三人の父親を別の部屋に置いてきた母親三人は今後のことを話していた。
「何があってもこの三人が幼馴染で仲が良いことを願いましょう。私たちだっていろいろあったもの。」
三人は学生時代のことを話し始める。
そして、夜は明け朝日がリビングに差し込む。
「「「うぅ、朝かぁ」」」
俺たちはほぼ同時に起きて目をこすりながら体を起こす。すると頭のあった方に三つプレゼントが置いてあった。
中には色こそ違うが同じマフラーが入っていた。
「「「メリークリスマス!」」」




