一年選抜大会12
澪視点
「流石に今日は司くんの応援にはいかないわね・・・でもこれに勝てば選抜に選ばれる!司君は絶対勝つだろうから私も入れば話す機会がもっと増える!勝つわよ、私!」
澪は気合充分で結界内に向かった。
『決勝戦に勝ち進んだ選手を紹介しましょう!魔法とは違う概念で戦う陰陽術師【符堂 澪】!式神なども使役してもはや魔法使いとは全くの別物であります。今大会では数体式神を出していますがその総数は不明。さらに新しい式神がいるのかが気になります。対して神父見習いながら死者を操るネクロマンサー【根黒 転矢】!ゾンビを操りその物量を持って相手を圧倒した実力は本物です!一体あの量をどこで調達したんでしょうか?』
「神父様が墓暴きなんてバチ当たらないの?」
「彼らは確かにゾンビですが生前に同意して下さった人を影法師を召喚していますから実際は本当の死体ではないのです。因みに私の家系は代々司祭ですが全員ネクロマンサーですよ?」
「物騒な家系もあったもんね。よく異端とか言われなかったものだわ。」
「そこは本人の人徳あってのことでしょう。例え影法師といえど無下には扱いませんから。」
「ちなみに祓っていいのよね?」
「もちろん、そもそもかつて生きた人の死体の影ですから消滅しても時間が経てば復活しますので。」
「それなら遠慮なくやらせてもらうわ。」
「決勝戦【符堂 澪】対【根黒 転矢】試合開始!」
「出てきてください【召喚 かつて生きし人の影 死人】」
「ゾンビにはやっぱり火よね!【五行 火炎葬】」
澪は召喚されたゾンビをまとめて燃やすために絨毯攻撃を行った。しかし、多少燃えたものの焼き尽くす事はできなかった。
「なんで燃えないの!?普通燃えるでしょ!」
「ゾンビですから燃えるのは当たり前です。しかし、そこは私が魔力で守ることで無効化できますから。行ってください【死者の行進】」
根黒はゾンビに澪を攻撃するように命令する。本来ゾンビとは「うーあー」と叫びながらゆっくり歩くものだ。ダンジョンで現れるゾンビも同じだ。しかし、魔力で強化されているだけでなくそもそもでゾンビのように見える影法師なので
「きゃあ〜〜!?な、なんでゾンビが走ってくるのよ!普通のそのそ歩くもんでしょ!?火が効かないといってもこれなら効くでしょ!【浄化の火】!」
陰陽道には火水土木金以外に陰と陽がある。陽とは簡単に言えばプラスのエネルギーであり負の存在である死者にはめっぽう強いのである。
「宣言通り祓って見せましたか。やはり陰陽術師とは素晴らしいですね。私は従える事はできても祓うことはできませんから羨ましいです。」
「十分恵まれてるんだからそのくらいで満足しときなさい。他人を羨んでも何も変わらないんだから。それより、私はゾンビを祓ったけどまだやるの?」
「ええ、ゾンビしか出せないわけではないですから。【かつて生きた人の影 キョンシー 司教】」
「厄介なのがきたわね。キョンシーって言うと生きた死体よね。陽属性が効きにくいかも。それにィッ!?あっぶないわね!少しぐらい予備動作起こしなさいよ!」
澪が司祭服を着たゾンビを観察していた瞬間キョンシーが足元にヒビを作りながら突進してきた。
「そのキョンシーはかつて拳聖とまで言われた御仁です。我が家系が代々契約させてもらっているいわゆる奥の手です。そして、【神の祝福】」
キョンシーに司祭ゾンビが魔法のようなものを使いバフを施した。
「召喚したゾンビが能力を使うってあり?明らかに能力の範疇超えてるでしょ。魂ないのよね?」
「確かに魂はありませんですがないなら別の場所から持って来ればいいのです。私はネクロマンサー、生と死のあわいを司る者。闇属性はもちろん光属性の派生聖属性も使えます。もっとも私が使うより彼が行う方が効果が高いのですが。彼に魔力パスを繋いで代わりに撃ってもらっているんですよ。それより良いんですか?キョンシーを放っておいて。」
「しまっ・・!カハッ」
澪は腹にまともに一撃を食らってしまった。そのまま結界の端まで吹っ飛び血反吐を吐く。
「ゴホッ話の途中に攻撃なんて神様が嘆くんじゃないの?」
「いえ、キョンシーには攻撃せよとしか命令してません。無駄に命令すると逆に動きが悪くなってしまいますから。」
「うわ最悪。制御不可の怪物解き放つなんて正気じゃないわね。でもやっぱり死者は死者よ。殴られた瞬間陽属性を与えたら片腕持っていけたわ。生きていても身体は死体だものね。」
キョンシーの右腕は消滅するように光となって消えていた。
「ああ、失念していました。つい初めて見る魔を祓う人を見て興奮していたものでキョンシーの身体能力を上げるバフしか掛けていませんでした。」
「なによ、負け惜しみ?奥の手を祓われかけたからって警戒させるつもりかしら?」
「いえいえ、確かに召喚できるゾンビとしてはキョンシーは奥の手ですがネクロマンサーとしての私自身の奥の手は別にあるのですよ。【聖魔反転】」
「なによ、強がっておいて何も変わってないじゃない。止めよ【祓魔の光】」
澪は純度100%の陽属性のエネルギーをキョンシーに向けて放つ。魔を祓う光がキョンシーを包み込んでいき誰もがキョンシーが消滅したと確信した時その光全てをキョンシーが吸い取った。
「は?なんでキョンシーが消滅しないばかりか吸収してんのよ。しかも腕まで治ってるし。」
「私の奥の手【聖魔反転】は聖魔の弱点を入れ替えると言うもの。魔なるものは全て聖のエネルギーで強化されます。」
「反則過ぎでしょ!でも説明してくれてありがと!【陰虎】!」
澪は黒い虎の形状をした術を発動して放った。反転しているなら陰属性なら効くだろうと。しかし、
「司教、防御しなさい。」
司教ゾンビがキョンシーに魔力を込めると先程かけた【神の祝福】の光がより強くなった。すると陰虎は触れた瞬間に消し飛んだ。
「ねぇ、どっちでも効かないなら最初に言ってくれる?無駄に魔力使わせないでよ。」
「話を聞かないあなたが悪いのでは?」
「うっさい!でも良いわどっちも効かないのよね?ならこれでも効かないの?【虚なる力】【召喚 陰虎】」
澪は黒い虎を再び呼び出し札を貼る。すると虎の色が黒と白の模様に変わった。
「色を変えたからなんです?行きなさい!キョンシー!」
まさに瞬歩。一瞬で距離を詰めたキョンシーは澪を狙うが虎が阻む。
「先程効かない事はお見せした筈!司教強化を!」
再度キョンシーが光る。虎は前脚で殴りかかる。両者の結末は・・・虎が勝った。
キョンシーは吹き飛ばされ根黒の元まで戻っていく。
「一体何をしたんです?」
「いろいろ教えてくれたお礼に教えてあげる。魔法使いで言うところの光属性と闇属性の混合派生属性ってなんだか知ってる?」
「【虚無】属性ですか・・・確かに聖でも魔でもない属性ですね。確か全てを無にする属性でしたっけ?ですがそれならばなぜその虎は消滅しないのですか?」
「この虎は空っぽなのよ。どんな属性でも受け入れる代わりに何も込めなければ何も出来ない。そんな式神。本来は実体化なんてしないで弾として打ち出すものよ。」
「なるほど、ならその虎を倒せたら私の勝ちというわけですね。」
「強がってるけどそのキョンシーだともう戦えないんじゃないの?私のこの虎は部位欠損させたら治せないわよ?」
「ええ、そのようです。何度試そうにも治る気配がありません。しかし、もう一体いるのをお忘れですか?【融合新生】」
キョンシーと司教が根黒が生み出した闇の中に飲み込まれ新たに別の存在へと変化した。
「身体はキョンシーで能力はお互いのものを持つゾンビ。これが最後の奥の手です。【聖拳】」
キョンシー、いや聖魔拳聖は拳に聖属性の魔力を纏い振り抜く。すると澪めがけて魔力拳が飛んでいった。
「今更合体したところで変わらないわよ。陰虎、【虚無の大口】。」
虎は口を大きく開けると飛んできた魔力をそのまま喰らう。全くの衝撃すら無く虎に吸い込まれた。
「くっやはりかなり不利ですねッ!虎は無視して術者を狙いなさい!」
「無駄な事よ。陰虎、【虚無咆哮】!」
虎の方から放たれた魔力波によってゾンビはかき消され、根黒は少し抵抗はしたものの結界に死亡判定をされ外に出された。
「勝者【符堂 澪】!」




