5
訝しみながら、廊下を随分歩くと、突如壁にぶつかった。
「ぶっ!!」
え?なにこれ?あっち側が見えるのに、なんでこっから先進めないの!?
そんなことを思いつつ、ぺたぺたと透明な壁を弄る。そこから先は通すまいとするかの様に触れど触れど壁が続いている。
しゃがんで触っても、ジャンプして触っても、そこには壁だけだ。
うーん。どうしよ、私の冒険ここまで?
というか、ここ変な世界よね。
どうにも出来ずに、見えない壁に背を預けて座り込んだ。
うん、見ようによってははしたない。でも、仕方ないのよ。うん!
それよりもここから出られないと、私はもれなく飢え死ぬ。
せっかく生まれ変わった?のに、速攻死ぬとか嬉しくないわー。
しかも死に方が飢え死にって、いやよね。
事故も嫌だけど…
「うーん、あ!そうだこの壁壊せないかな?ばこーんって。」
そうして、とりあえずあまり力込めずにグッと拳を握って透明な壁を叩いてみた。
どちらかというと、ノックに近い。
コンコンコン。
ちょっとビックリ。音するんだ。
「誰か入ってますかー?」
なんでか誰か入ってる前提で声をかけつつノックをする事数回。
音の感じだと思ったよりも薄めの壁の様だし、なにかのトンカチとかの様なものあれば壊せるかも?
そう思って彼女踵を返して部屋に戻った。
部屋に何かないかと思ったのだ。
部屋には幾つかの家具とちょっとしたティーカップとかの食器類。引き出しも全部開けて見たけれど何も無かった。
「困ったなぁ。あ、そういえばベッドは全く調べてなかった。っても、ベッドに隠すのはエロ本って相場が決まって…」
そんなことをブツクサ言いながら、ベッドの枕下や布団の下をはいでみたが何もない。ベッドの下にも潜り込む、流石に少し薄暗くて何も見えなかったが、一応手探りで左右に手を動かして見た。
「あ!そういえば、昔子供の頃に見つからない様にってベッドしたの上に隠したりしたなぁ〜」
子供の頃の思い出を思い出してベッド裏を弄ると、何か硬い物が手に触れる。よくよく触ると柄がついたモノだった。
手探りでそれを取り出して、ベッド下から抜け出すと、鞘に入った短剣を握りしめていた。
「うーん、ちょっと欲しいものとは違うけど、まあいいかぁ。」
よくよく短剣を見てみると、鞘にはキラキラした紫と緑の石が複雑なカットをされてはめ込まれている。
宝石みたいなそれは、アメジストとエメラルドにも見えなくはない。
細部に渡って繊細な意匠を施され素晴らしい出来だ。柄の部分も握りやすく手に馴染む作りになっている。
「とりあえず、これで壁さしてみようか!」
服についた汚れを払う様に手で叩きながら、身体を起こすと再びさっきの壁のところに向かった。
次はぶつからない様にだいぶ歩いた所で両手を突き出した。
「…あったあった!」
壁に触れた瞬間、短剣を持っている方の手の感触が、一瞬揺れた様な気がした。
不思議に思い、短剣を持ってない方で触れたが、なんの変哲もない壁だった。
「さてと…」
短剣柄を握り直し、鞘をみる。
「…さすがにこの繊細な意匠の鞘を壊しちゃ勿体ないし、弁償を求められても困るから外そうか。」
すらりと抜き放ち片手に鞘を持った。刀身は、キラリと光って先が尖っている。
壁を突き刺しやすい様に持ち直し、思いっきり壁に刃を突き立てた。
ガツンっ!
思ったよりも硬い壁に阻まれて、短剣の刃は突き刺さりもしなかった。
読んでいただきありがとうございます。