Fish bones
今日は大盤振る舞いだっ!
木々は私の瞳を覆って空を隠す。鬱蒼と茂る草花の道は人の足を絡め取り、死の接近を見逃してしまう。
そこら中に生気と死が充満する空間こそが、本来人間が恐れていた森である。幾千、幾万の屍が、今も踏み締めた足下に埋まっているのだろう。
さて、私たちはこの聖域で危険に晒されることなく歩いている。その理由は簡単で、自然が私たちを優しく出迎えてくれるから。
足元の草花は私たちに道を譲り、木々の枝も私たちを避けるようにしなっている。
縫い目のように表れた道を進んで行くと、道が一気に開ける。下から押し上げるように風が吹き、その強さに閉じた目を開けると美しい景色が広がっている。
井戸の周りで話し合う主婦達や、駆け回る子供たち。清らかな川の辺にある建物からは村人たちが精一杯働いている様子が見える。葉が光を反射し、きらきらと輝く。
そんな光景を切り立った崖から見下ろしている。
「……やっぱり、麓までは距離があるわね。何で近くに家を建てなかったのかしら」
一応はここら一帯を治める領主なのだから、近くにあった方が色々と楽そうなものなのに。
……父さんが領主らしく振る舞ったところを一度も見たことはないけれど。
「フィーちゃん、疲れたなら交代しようか?」
カーメルの上に交代で乗ったアリアが私に尋ねる。
「気にしないで、あともう少しだから」
少しだけ、お婆さんの家が麓より近いところにあって良かったと思っている。……鍛錬と思えば、特に苦ではないし。
ガーランド家に唯一仕える騎士の家と麓の間に、一つの小さな家がある。そこに住んでいるお婆さんは博識で、とても面白い話をしてくれる。
そのお婆さんの家は大木の中身をくり抜いて、その中央を膨らませたような家に住んでいる。基本的に村に住む家はこの形で、少し可愛く感じる。
持ち主の名前が書かれたプレートを掛けているドアを叩く。
「お婆さん、来たよー!」
アリアが家の中に呼び掛けるのと同じくらいで、扉がギギッと開いた。
「おやおや、今日もアリアちゃんは元気だねぇ。今日も良いことがあったのかい?」
優しげな表情で出迎えてくれたお婆さん。その見た目は童話で見る魔女のようだ。勿論、迷い込んだ人をもてなしてくれる方の。
「フィーネちゃんも、元気そうだねぇ。今日は特に」
「……いつも通りだよ。そんなに今日元気そうに見えるの?」
少し不思議に思って聞いてみると、お婆さんは可笑そうに笑う。
「そりゃ、生まれた頃から見てるからねぇ。……おっと、外に待たせてごめんねぇ。早く中にお入り」
はぐらかされたことに思わず怪訝な顔をしそうになる。
「お姉ちゃん、入ろう?」
後ろからフリューゲルに声をかけられて、喉に刺さった骨を飲み込んだ。
少し補足、幾千幾万の屍が〜〜は、単純にいろんな生き物が土に吸収されてる…みたいな意味です。弱肉強食的な…今踏み締める大地も、幾万もの生命が土に帰って混ざってるという補足?
上の数行がホラーみたいになってなぁ。実際、フィーネたち以外なら、あの森は恐ろしい場所だろうけど。