Hello new world
……言い訳はせぬ。ぬー、上手くいかないものだ。
人はいつになったら社会のくびきから自由になるのだろう。
一つの幻想に囚われて、彼らは目の前にエサを垂らされた家畜と同じように金を求め続ける。その使い道を未だ知らずに。
ここにあるのは日溜まりではなく、凍えそうな暗い夜。孤独と静謐を司る月の表面を、遠くで輝く星明かりだけが反射している。
「……もっとも私の心は月よりも小さく、精々ガラス玉といったところだけれど」
そんな独り言が漏れてしまうくらいに、先程の語りは大袈裟だ。そもそも、私のような境遇の人はそこら中にいて、少しばかり求めてしまうのは……些かワガママだ。
それに、この寂しさを埋めてくれる愛情は得られなくとも、互いに分かち合う友情を作ろうとしないから、自業自得でもある。
「お小遣いを消費してまで、このゲームを買う価値はあったのか。これ一つで食事をどれだけ彩れるか……」
少しの興味で買ったこのゲームも、手に届かない幻想と同じ。目の前で男女が幸せそうな表情で見つめ合う光景は、私からしたら程遠いものだ。やはり、一時の享楽より日々の幸福を選んだ方が有意義な気がする。……結局、そこに大した差なんてないかもしれないけど。
————Fin————
その画面までエンドロールを見終えたあと、私はゲームの電源を落とした。
ピョン、ピョンピョン
信号機の誘導音が鳴り、目の前で青から赤に色が切り替わる。私は適当な服に着替えて、外の新鮮な空気を吸っている。勿論、外の空気を吸うだけでなく、スーパーへ買い物に行くのが主な目的だ。
騒がしく、取り留めのない音の群れが耳朶に触れた。休日だからか、私服を着た同年代ぐらいの人たちが楽しそうに笑っている。あの人たちはどこに行くのだろうか、どんな風に世界が見えているのか。少なくとも、私よりも世界が輝いて見えるのだろう。
向こうに気づかれないように、目を前に戻そうとして隣にいた人物に目が留まる。思わず見惚れてしまうほど美しい緑髪と、透き通った髪と同系色の瞳。色に疎いから表現するには稚拙だけれど、顔を上げた時に映る木々の葉の色みたい。
ただ呆然と見ていると、彼女は気付いて首を傾げた。少し気まずくなり、慌てて答えようとした瞬間、
————トン
彼女が生と死の線を超えて、鉄塊の往来する場所へ突き落とされた。私は咄嗟に手を引き、彼女をこちらに引き戻す。————代わりに手を引いた勢いで、私は前につんのめる。
ガシャァァァァン
大きな音を立てて、トラックは私を跳ねた。
熱い、あつい…………体の節々が熱い。視界が歪み、息は乱れる。さっきからキーンと耳鳴りして、頭が痛い。
「……はっ、は……うっ」
私の手はどこを目指しているのか、力なく手が伸び、空を切った。
私は死ぬのだろうか、…………どうでも良いか。私がこの世界から消えてしまっても、世界の歯車は何の支障もな回り続けるから。
突如、虚空に伸ばされた手が柔らかな感触に包まれる。緑髪の彼女が涙を流しながら、私の手を握って、必死に何かを伝えようとしている。でも、その声は私に届かない。
でも、
「……ありがと——」
震える手は彼女の涙を拭って、地に落ちた。
何回作者は手直し、書き直しをして進むことができるのか。
一歩進んで、五歩下がる……そうか、ここがnew worldか
うん、はい。更新頻度は遅いです。……どちらも。