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★ガール・ミーツ・?

 私、進藤素直は「グリふぉん」相手にお仕事中です!


 荒涼とした景色の中に私は立っています。ここ「よーる山」の頂上には草木がほとんど生えておらず、周囲には赤茶けた剥き出しの岩肌しかありません。

 まるで、テレビで見たアメリカのグランドキャニオンみたい。お土産にキレイな鉱石の詰め合わせとか貰えそうです。眺望もなかなかですし、グリふぉんたちがこの場所で一休みしちゃうのも分かる気がします。


 ……もっとも、今の私にはゆっくり景色を堪能する暇がないのですが。


「キィアアアア!!!」と叫びながら突っ込んできたグリふぉんの鷲頭を鷲掴み(うまい!)にし、山肌に向かって勢いよく投げつけます。


 続いて向かってきた一体には蹴りをお見舞いし、その次の一体には拳をぶち当てて吹き飛ばします。


 そのまた次は。


 さらに次は。


 次は、次次……。


 ――多い! とにかく数が多いです!

 ロキさんからは「十三体倒してね」なんて軽い感じで言われましたが、これが結構大変でした。


 千切っては投げ、千切っては投げってといった感じで、なかなか骨が折れます。所詮は夢の中の出来事なので、疲労感なんてないに等しいのですが……。

 物語の冒険者さんたちは、こんな事ばっかりして嫌にならないのでしょうか?


 そもそも。

 山登りは面倒くさいからと、空を飛んで山頂の「ころにー」を目指したのが失敗でした。


 突然上空から女子高生が飛来してきたとあって、グリふぉんたちはとってもビックリしたようです。しばらく固まった後、彼らは一斉に襲いかかってきました。それはもう「なんじゃワレ! どこのシマのもんじゃ!」って感じに敵意マックスで。

 というわけで、一人対十三体の仁義なき戦いが始まったわけですが……。



「ごめんねっ!」


 がら空きだったグリふぉんのプヨプヨなお腹に、カウンターで『ぐんぐにる』を突き刺します。彼らの心臓代わりらしい「ま石」に拳がコツンと当たったのを感じました。

 全身を赤く光らせたグリふぉんがパンと弾けて消えます。


 残りの数を確認する為に首をぐるりと回すと、私を囲んでいたグリふぉんたちがザザッと後ずさりしました。あと六体、かな?

 まだまだ先は長いなあ……。でも、全てはロキさんの創作の為。頑張ります!


「えいえい」と自分を鼓舞しながら正面の一体に急接近し、「おー」のかけ声と共にその顔面を殴り飛ばします。ゴムまりのようにビッタンビッタン地面を跳ね転がっていったグリふぉんは、岩壁に激突して消滅しました。


「キィィイイ!」「クァアアア!」


 左右から挟み込むように、グリふぉん二体のひっかき攻撃が迫ってきます。ヒビ割れができるほど強く地面を蹴って、私はそれを上に飛んで回避しました。

 空中で無防備になった私目掛けて、背後から別のグリふぉんが滑空してきます。


「……『すれいぷにる』!」


 滞空状態からさらに空中を蹴って、私はぴょんと跳躍しました。

 高速で迫るグリふぉんを悠々飛び越えると、その背中に蹴りを当てて地面に落とします。私自身はくるりと宙返りして空中に着地。ブイッと両腕を伸ばして、気分は体操選手です。


 ――お祖父ちゃん直伝の空中歩行術、それが『すれいぷにる』です。


 現実ではせいぜい空中での二段ジャンプが限界ですが、この世界の中でならこんなに自由に動けます。空も飛べちゃう。全身全霊を込めてパンチを放つ『ぐんぐにる』と並んで、私のお気に入り技です。


 ……空中でY字ポーズのまま余韻に浸っていた私に向かって、あちこちから空気弾が飛んできました。ぴょんぴょんと見えない足場を飛んで跳ねてそれを回避します。


 乱れ飛ぶ空気の塊。

 なんだろう、この状況何かに似ているような……。あっ!


 私は手近なグリフォンの真下に着地すると、掌をパーにして構えます。


「座布団を、投げないでくださいっ!!!」


 迷惑な客を成敗するつもりで、私はグリふぉんの喉元に渾身の張り手を入れました。ボッという音を残して彼の首から上が吹き飛び、やがて身体も黒い霧となって消えていきます。

 これぞSUMOU!


 ……それで、えーと、あと何体でしたっけ――?



 ◇



「ゲッ……アアァァ……」


 そのまま格闘する事、大体二〇分(夢って時間の概念あるんでしょうか?)。ようやく最後の一体の首をへし折って、グリふぉんの討伐が完了しました。


「ふー」


 達成感はひとしおです。

 いつもは大きいモンスターを一体殴って終了だったので、今回はすごく頑張った気がします。まぁ、いつもと比べるとあんまり強くない相手だったのですが。


 っと、いけないいけない。夢の中だとついつい強気になってしまいます。油断はいけませんし、現実の私はヒーローでも何でもないのです。謙虚堅実を忘れてはいけません。もちろん、与えられた仕事の内容も。

 ぐいっと背中を伸ばしてから、「よしっ」と気合いを入れ直します。ぴゅうっと風が吹いて砂煙が舞いました。


 今日のアルバイトは、モンスターを倒すだけで終わりではないのです。


『二つ目は、ゲヴァルトという男に会ってボクからのメッセージを伝える事』


 ロキさんからはそう説明がありました。


 そもそも今回私がグリふぉんを討伐しに来たのも、その「ゲヴァさん」を助ける為でした。


 ゲヴァさんは神父さんであって冒険者さんではないから、いっぱいのグリふぉんと戦ったら無事ではすみません。しかし、彼は性格的に困っている人たちを見捨てられないのだそうです。そうして戦いに挑もうとするならば、彼は間違いなく大きなケガを負ってしまいます。最悪、命を落としてしまうかもしれない……。

 彼の人助けの旅が道半ばで終わってしまう、それはとても悲しい事ですし、この物語世界にとっても大きな損失だと思います。


 という事で、私の出番となりました。

 私がグリふぉんたちを代わりに倒して、後からやって来た彼にこう伝えるのです。


『遠回りの必要はありません。あなたは先へ進みなさい。あなたが目指すその地に、あなたの救いを求める者が待っています……』


 彼の運命しなりおを修正する為には、「ヴァるきりー」である私が伝えるのが一番早いのだと、ロキさんは説明してくれました。

 相変わらずよく分かりませんが、とりあえず、やるべき事がハッキリしているので大丈夫です!


 ゲヴァさんはとっても心の綺麗な神父さんキャラのようですし、私としてもそういうエラい人のお手伝いが出来るのは嬉しいです。いっぱい人が傷付く物語なんて、ロキさんには書いてほしくないですから。



 しばらく地面に足で絵を描きながら待っていると、下の方からザッザッと砂利道を踏みしめる音が聞こえてきました。

 件のゲヴァさんでしょう。

 きっと坂の下からは、清らかで柔らかい印象の、笑顔が素敵な細身の男性が姿を現すに違いありません。そういう落ち着いた雰囲気の大人の方が相手だったら、それほど緊張せずにお話できると――。



「おぉ……。おぉ! 戦乙女ヴァルキリー様ぁ……! 戦乙女様ですね? 戦乙女さまぁぁ!!」


 血と土で汚れたゴツい身体の、髭モジャ筋肉ムキムキ上裸男が、興奮しながらその姿を現しました。


 えっ、誰――?

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