四章【たったひとりの軍隊】(13)
「船長としてのきみの選択は正しかった。しかし、この巨大な棺桶を沈めることになったことについて責任はとってもらわなければならない」
誰からも観測されることなく、異能がその効果を静かに消失した。吹雪もおさまった。
船体の破壊がとまったことに気づいたフレシエッタが外に出ようとしたとき、背中からいきなり拳銃で撃たれた。
「組織からの言伝だ。船長としてのきみの選択は正しかった。しかし、この巨大な鉄の棺桶を沈めることになったことについて責任はとってもらわなければならない」
拳銃を構えた神父が言った。
「そう……。立場には責任が伴う。十分納得しているわ、どうぞ」
「私も責任から逃れられそうにないがな」
責任は行いだけではなく、その立場にだってついてくる。
「地獄でまたお会いしましょう」
神父が放った二発目がフレシエッタの頭に命中した。
神父に抱かれ、フレシエッタは満足そうな顔で息を引き取った。その唇からツッと血の筋がこぼれた。あまりに予想のつかなかった展開にさすがのキツネも扱い慣れない銃を構えた。神父が怒鳴った。
「船内で争いをするな! 敵は標的ただひとつだ」
わけがわからなくてキツネも絶句した。その場にいた全員が思考停止した。
「これより私が指揮を執る。全員その場で待機だ」
神父の組織内での肩書は「少佐」。船長を除けばもっとも高い階級にある。
しかし、これでは状況確認もできない。
しかも神父の当初の目的は船もろとも標的を確実に沈めることだ。
「やつらはお前らには想像もつかないことをしてくるぞ。返事はどうした」
「イ……、イエッサー」
「よろしい」
神父は拳銃を片手に外套をまとって外に出た。