三章【おわりがはじまる】(8)
「飲まず食わずで三六時間を経過した。やつらも限界のはずだ」
南下しているので季節が逆転して少々肌寒い。一睡もしていない船長がやつれた顔でいう。「やつら」がどのやつらを指しているかもわからないが、操舵室の要員が船長の指示通りにテキパキと手を動かしている。ここからなら客室の利用状況、電気や水が、いつどの程度まで利用されたかも読み取れる。
「七九七のVIPは亡くなったわね」
「はい。ご遺体は空きのできた食肉用冷凍庫で保存しています」
「誰もいないのに湯水を使っている。各員に通達。全員武装して七九七に集まれ」
おそらく例の二人組と見て間違いないだろう。
「この船は私の庭だということを思い知らせてやる……」
特殊部隊残存一三名はすでに全員、尻尾を捕まえている。そちらもその気になればいつでも仕掛けられる。
神父は教会から一歩も出てきてはいない。
最後の一人、おぞましいなにかは、どこにいるのかまったく把握できていない。
死亡した旅客の部屋からキツネの足跡は見つけたが、そこにもう彼はいない。しかし、隠れる場所などもういくつもない。
機関室長から報告があった。機関室に侵入者があったと。
そこには水も食料もない。さあ誰だ。ヤヌスはけっして見逃しはしない。
「両面作戦だ。機関室から侵入者を排除し、あとはすべて各個に撃破する。
全乗組員に伝える。これからは非戦闘員を含め、全員に無制限の火器使用を許可する。発砲は個別の判断に委ねる。以上だ」
彼女もまた船内で戦車による主砲の発砲を命令する頭のイカレた船長だ。
このたった一言で、九〇〇名を遥かに超過するヤヌス乗組員はひとつの軍隊となった。
連中が脱出で利用する予定だった緊急脱出時用の∨/STOL機もない。
さあ、名もなき神父よ。潜水艦に魚雷を発射させてみろ。こちらはとっくにその覚悟ができている。