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きりきざむもの ものをはむもの2  作者: なるみなるみち
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三章【おわりがはじまる】(5)

 その間キツネは高層階にある誰かの客室に紛れ込んで、ゆったりと風呂で足を伸ばして缶ビールを飲みながら、涼子がとても楽しみにしていたDXうんまい棒の限定品をかっ食らっていた。蒸気でしけっているが気にしない。

「どんなに食欲がなくてもなぁ、酒食らってるときのうんまい棒は飲みものなんだ」

 道具も水も食料もないなかで悪戦苦闘しているであろう涼子の心配をしている余裕などない。キツネはとても疲れているのだから。

 それにしてもよく喋る男だ。独り言まで多い。

「物事をゼロか一〇〇かで考えることは大事さ。だってみんな一〇〇がほしいんだからさ。自分だけが一〇〇を欲しがりながらゼロを考えることではじめて相手を思いやれるんだ」

 相変わらず派手なドンパチが続いているが、涼子が戦闘をしている気配はない。

「あれだけアニメの影響を受けやすいのに、アニメの主人公ごっこもできないのかよ、情けないな……」

 キツネは肩まで湯船に浸かりながら無責任にぼやいた。戦うのは彼の役目ではない。

 ものわかりのよさの裏にはあきらめがある。ハナから何も期待しちゃいない。だから受け入れられる。

 みんな目指すものは一緒なのにやり方の違いで殺し合う。『うまくやれないやつら』が結論を急いで勝手に病んで争う。

 巻き込まれるこっちはたまったもんじゃない。ゼニ儲けだけがしたい。

 この船こそ世界の縮図だ。

 彼岸の火事はいい儲けになる。本当に悪くて賢い連中はどいつもこいつも火の粉もかからない遠い場所で他人の不幸をエサにしていくらでも荒稼ぎをする。

 そしてそれがいつだってキツネのビジネスだった。

 涼子が別れぎわに告げた一言を思い出した。

「わたしは言葉をかわさなくても大丈夫……信頼の証よ」

「なあ、それ、単にお話ししてるヒマがねーだけじゃ……?」

 それがキツネの返事だった。お互いにこれが最後の会話になる予感がした。

 キツネは肩のこりをよくほぐしてから風呂をあがり、大きくてふかふかしたベッドに潜り込んだ。

 食事は戦争だ。そして睡眠も戦争だ。

「まあ、今日でなくていい判断は永遠に決めないことにしてる。今日決めなくていい判断は永遠にしなければいい」

 隠れる場所ならいくらでもある。まさか他人のベッドでゆっくり休んでるとは夢にも思わないだろう。キツネは考えることをやめた。寝た。


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