三章【おわりがはじまる】(4)
「やっと面白くなってきたな」
筋肉神父と正義の部隊長が格別な笑みを交わす。武装警備隊が教会の門を突破しようとしているが、教会とは歴史的に由緒正しく軍事的な要塞である。そうたやすく侵入できる構造になってはいない。
設計当初から関与していた元戦闘工兵あがりの甲板員が工作を行っているが、自らこさえた、理論上考えうる最高の守りに手を出しあぐねている。絶対に壊れないよう考えろと言われ、組織から提供される最先端の素材で忠実に作業を行った結果、たとえ戦車であっても軍用C4プラスチック爆弾とセムテックスで切断できる彼自身の技術でも手が出せない。
今頃は別ルートからの攻略を模索しているだろうが、それらさえ困難だ。
唯一の抜け道である通風孔に仕掛けてあったトラップでガスが充満した。あちらの貴重な元戦闘工兵の亡骸が通風孔を塞いでしまった。もはや高笑いが止まらないが、毒ガス対策で神父と部隊はガスマスクを装着した。
「さて、こちらの残存兵力はどうかね?」
「一六名中、二名が召されました」
「チッ、役立たずどもが。しかし、それでもまだ一四名も戦えるというのか。これこそ神のお導きに違いない」
本船と教会の彼我戦力差は、人員の上では一四対一〇〇〇、本船は水上偵察機を出して警戒を行っており、しかも戦車を一輛をそなえているから単純比較はできない。
「非力な我々に神のご加護があらんことを。エイメン」
神父はガスマスクごしにロザリオに口づけをした。本船をいつでも沈められる原子力潜水艦と最新の∨/STOL機に追尾させていて、どこが非力というのか。
「どうせ異教徒だ。やつらはやつらが理解できないものを差別して排除しようとする。だからこれは我々弱者による正当防衛だ。やつらに返事をくれてやれ。やつらが一番いやがることをしてやれ」
神父は部隊指揮官を通じて水上偵察機の撃墜を命じた。
満天の星空で一対一のドッグファイトが繰り広げられている。各種センサーにおいては現代の航空機が優勢なのは当然だが、空戦など一切想定していない輸送機なのが惜しまれる。搭乗員が軽機関銃でしつこく追い込むしかない。対空ミサイルが一発でもあれば即座に終わる空中戦がいつまでも終わらない。今回のクルーズの目的はインドから中東アジアにかけて裏ルートで流す旧式銃の運搬で、対空ミサイルなどという上等なものは仕入れていない。あくまで通常火力しかない。
一方で相手は本当にまともな火力がない旧式の偵察機だ。不要なフロートのおかげで夜戦などできないから、ひたすら逃げまわるしかないなりに、それでもかろうじてうまくやっている。あちらは攻撃など一切考えなくてよいのが功を奏している。
しかし、目視飛行であるがゆえに、ひとつ操作を間違えれば海面に叩きつけられることになる。
∨/STOL機がそこまで徹底的に追い詰めれば、勝敗はつく。
しかも、相手は旧式のラジオ通信しかないから情報はすべて筒抜けで、装備を調達したのも組織だから手のうちは何もかも丸わかりだ。
神父はさらに、潜水艦に魚雷発射深度まで浮上するよう命じる。
スピードから何から、負ける要素がなにひとつとしてない。
「さあ、女海賊フレシエッタ。いい声で哭いてもらおうか。私の予想を裏切ることを期待しているぞ」
神父は、実は真性のサディストだった。