三章【おわりがはじまる】(2)
部屋に保管されていたほとんどの武器が何かしらかの小細工をされていた。せっかく作ったカーボンの弓が折られている。すべての銃器がわかりやすく銃口にガムを詰められているが、それは本当の仕掛けに気づかせないための巧妙なカモフラージュで、食事どきのわずかな時間に、拳銃の安全栓を壊されて発砲できなくされており、ライフルは必ず暴発するよう薬室まわりに小さな穴が開けられ、刀は目釘を折られている。槍は柄を折られている。地味な嫌がらせだ。
こんなものを使えばこっちが死ぬ。むしろこんな短時間でよくここまでできたものだと感心した。
南部十四年式はもとからポンコツの欠陥銃だ。力任せに銃爪を引けば弾は出る。だからガムさえ外してしまえばこれは気にする必要はないと判断した。
どのみち、これだけの大荷物を抱えていて戦えるはずがない。
涼子は最短ルートでデッキに向かった。他の旅客が出入りするルートならひとまず安全なはずだ。
読みが甘かった。そこかしこのドアがすでに爆発しており、かつて人間のかたちをしていたはずのものが四散している。
おかげで外には出られたが、鼻腔の奥から恐怖の味がする。しかもそこまで完璧に誘導されており、出るなり撃たれた。
いや、誰かさえ確認しないでとにかく当たればいいと撃っている。敵が何人いるのか読めない。何を考えているのかもわからないがとにかく腕だけは一級で、目的さえ達成できればなんだっていい連中だった。
静かに攻撃するためにわざと大きな音を立てるのはセオリーで、こればかりは何度やられても慣れない。
しかし、何発かが衣服をかすめただけで、涼子は無傷だった。
銃声が止んだ。
サブマシンガンで武装した二名が何者かによって背中から斬られている。
正体は不明だが味方がいる。
涼子は確信し、ひとまず手近なタグボートの中に潜り込んだ。
やつらが脱出で使う可能性があるものに罠を仕掛けてある可能性は低いと読んでの博打だ。ここで道具の修理を急ぐ。
涼子は神に祈らない。道具は考えない。
気づいたら何者かによって敵の装備が投げ込まれていた。これらなら即座に使える。
サブマシンガンに拳銃、フラッシュグレネード、ボディアーマー。涼子はそれらと、目釘を直して使えるようにした日本軍の指揮官用サーベルを腰に下げてタグボートから出た。
ここに戻ればいつだって修理を終えた装備がある。だからここが最後の拠点だ。