二章【ここにいて、ここにはいない】(11)
船内環境は、神父が完全に把握していた。教会は夜になると完全に門戸を閉ざす。
監視カメラは四隅にあるが、欺瞞工作で過去の記録映像を二四時間流している。
ここでの活動は船長もつかみようがない。
そして、船医の暴走はこちらでも捕捉している。情報がきてもこなくても彼は困らない。
特殊部隊『正義』総員一六名が集結し、信者の椅子に座って次の指令を待っている。
神父は禍々しい杖を手に十字架に向かって祈りを捧げる。
悪い魔女は問いました。
わたしは世界を呪う。わたしに世界を呪わせたのは誰?
白い烏は言いました「それはわたしのせいではありません」
黒い猫「それはわたしのせいではありません」
なら誰がわたしを悪魔にしたの?
一羽と一頭は答えられず、扉に鍵をかけました。
だから、魔女は人の言葉で人を惑わす白い烏と黒い猫のかたちをした妖を
剥製にし、杖の先端にあしらった呪具をこさえたのです。
エイメン。
神父は呪われた杖をそばらに置き、講壇にあった密書を手にとった。
神父は封蝋を破った。ただ書き上げられていることを淡々と読み上げてゆく。
「次の寄港地で三名をツアーに誘い出す。諸君らはバスを爆破せよ。証拠は一切残すな。当日のタイムテーブルは配布した資料を参照せよ。各自の頭で考えて行動しろ」
神父は胸で十字を切ったあと、左右に大きく手を広げて悪魔のような笑みを浮かべた。
「それでは諸君。状況をはじめようではないか。派手にバラ撒け! ありったけ使え! 開戦の狼煙だ!」
神父は叫んだ。
特殊部隊『正義』総員一六名は自動小銃を高く掲げ上げた。
戦争が、はじまる。