二章【ここにいて、ここにはいない】(9)
手入れと称し、船内展示品の一部を回収して部屋に戻った。
「わたしたち、明治の装備で戦うの?」
やっと人間に戻った涼子は半分呆れ顔だった。
「明治時代の最新兵器だ。ほかにないんだよ。いやなら素手でやってくれ」
「まあ、素手よりはマシだよね」
涼子はキツネと話しをしながら古銃をテキパキと分解してゆく。
サンパチ式歩兵銃は旧日本軍の主力兵装で、連射はできない。
涼子は手許さえ見ていない。よほど扱いに慣れているのだろう。
暴発を防ぐために弾倉に五発押し込んでから指押し込んで遊底を戻し薬室を空にしておくのが当時の軍用ライフルのセオリーだが、いざ実戦になったらそんな余裕はなくなる。船内では距離がかせげないので装填も手動で行わなければならない旧式のボルトアクションではサブマシンガンにも劣る。いざとなったら銃剣で突撃するしかないかもしれない。
ライフルと南部式拳銃の分解清掃を終え、小銃弾薬箱を確認した涼子は急に無言になり、次はサーベル式軍刀にとりかかった。
刀身を鞘から外し、拵から分解してゆく。これは構造がかなり特殊で、ふつうに日本刀に詳しい人では鞘から抜くこともできない。軍刀と違い、とりあえず押せば抜刀できる駐爪ではない。
設計者はどう安全を期したのか、幕府の残党が使えないようにしてしまった。わかればすぐ使えるが、この脱落防止のストッパーはちょっとやそっとのアクシデントでは外れない。しかも一般的な日本刀の知識では分解もできず、うまくバラせても元に戻せない。キツネは知らないから涼子が何をしているのかわからない。さらにインターネットで検索しても、関係ない情報しか出てこない。
そんなものを、涼子は当たり前の顔で作業している。
刀身の茎には『村田刀兼』と銘がある。磨り上げられて銘文が途中で切れている。ふつうの日本刀によく見られる刃文がない。
汚れ落としのベンジンで古い油を拭う。錆止めに椿油をうっすらとつけて拵に戻し、目釘で固定して終わりだ。
お次は槍だ。槍は刀と違って素人でも扱える。
しかし、これらは船から下ろせないので、ここでしか使えない。
すべての用意を終えた涼子はすぐにベッドに横たわった。休んで体力を回復するのも戦いだ。