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泉の真実

向こうの準備が整ったところで俺は少女を毛布でくるめて持ち上げる。


熱の時にこんな寒い格好をさせる訳にはいかない。少しでも身体を温めた方が得策だ。


「これはこれは、まさか当商会唯一のダークエルフがお眼鏡に叶うとは。いやはや、やはり貴方は良い眼を持つお方だ」

「病を持っていた以上、見捨てる訳にはいかない。それだけのこと」


通された一室にはあの老紳士が朗らかな笑顔を向けながら紅茶を飲んでいた。老紳士の前のソファに腰掛け、少女を隣に置き、差し出された紅茶を飲み、老紳士を見つめる。


「奴隷契約の前に、少しばかりオプションについての説明があっての。部下に無理を言って私から説明させて貰えるよう取り計らって貰った」

「オプション?」

「そうだ。『農場』の肉体改造ぎじゅ」

「それ以上言わないでくれ。……俺には不要だ」


その言葉を聞くだけで我を忘れるほどの激情に呑まれてしまう。


老紳士の話を切り上げると店員の後をついていき、儀式場のような祭壇の頂上に少女を置く。


それにしても、肉体改造の技術は元は『農場』からの派生だったか。……不愉快極まりない以上、話を中断させて正解だった。


「『契約』と『首輪』、どちらにしますか?」

「『首輪』」


『首輪』の方が壊せれば良いだけだから解放が簡単だ。元より、『契約』の方が高値がつくだろうから好ましくない。


「……よろしいのですか?『首輪』は壊れると奴隷が解放されてしまいますよ?」

「構わない」

「……畏まりました」


不服そうな態度を隠さない店員から『隷属の首輪』を受けとり、少女の首に装着する。


さて、これで金を渡せばさっさと治療院の方に戻れる。


「それでは、俺はこれで」


店員に少女の価値である金貨一枚を渡して部屋から出る。


扉を開けたすぐ隣に立っていてミサが手の中で糸を操りながら話しかけてくる。


「……それにしても、奴隷とかそう言うのが嫌いそうな貴方が奴隷を買うなんてね」

「病人だからな、仕方ない。病が治ったら最低限の金を渡してさっさと外に出せば良いだけだしな」

「そうとも言ってられない。ダークエルフは社会的に阻害されている種族の一つ、社会という枠組みから省かれているのだから、貴方との関わりを切ることはないと思う」

「……マジかよ」

「マジよ。少なくとも、人の世に深く潜入している私が言えるもの」


はあ……また面倒な事になってきたな。


それにしても、ラスティア、ミスト、ツバキ、シンシア、この少女……守りたいと思える連中が多くなってしまったな。やれやれ、俺は森の中でひっそりと暮らしたかったのに、どうしてこうなったのやら。


「そういえば、部屋の奥で何かなかった?」

「……祭壇があった」


滞在時間が短かったからそう多くは見れなかったが、あれは古い時代のもので装飾で設営されたものではなく、最初からその場所にあったものだ。

しかも、手入れがされていたし魔力の密度が濃かった。誤差レベルだったとは言え、魔力の密度が濃いのはおかしな話だ。


「やはり、ね。私の目的のものがそこにあるのね」

「……目的?」

「ええ。私の目的はここの壊滅……『水の泉』を破壊すること」

「……何?」


水の泉……?それって確か。


「『大聖霊』ウンディーネが保有する『秘境』だった筈だ。それが、何故ここだと分かる」

「元々、『水の泉』の場所がここの国の地下にある巨大湖である事は調べがついていた。けど、そこに向かうためのポータル……祭壇が見つからなかった。けど、ついさっき、祭壇が見つかった」

「…………」


まさか、ここが敵の本拠地だったとはな。少々予想外だったが、敵対してこなければどうだって良い。


「それより、さっさと戻る――ミサ、危ない!」

「えっ!?」


殺気を感知し咄嗟にミサを蹴り跳ばした瞬間、水のレーザーが床を貫く。


……半信半疑だったが、向こうからしたら正解も正解、隠しておきたい真実だったのだろうな。


「『大聖霊』直轄の親衛隊隊長グスタフ。現場に到着。これより『大公』と『大罪』の排除を開始します」


……親衛隊。隊長となれぱイスタリの上司に当たる連中か。


天井から機械的な声音の甲冑姿の男が落ち、目の前で地面に着地する。


どうやら、逃げれそうにもない。


「な、何事ですか!?」

「説明は無駄。兎も角グレムさん、この少女を奴隷専門の治療院に連れていって下さい」

「……分かった」


【幻視】で扉から出てきた老紳士の思考力を鈍らせて少女を持たせると立ち去らさせる。


それと同時にグスタフが突進してくる。


速い。避けるのは不可能。


「はあっ!!」

「ぬん!!」


グスタフが振り下ろす剣を硬くした拳で軌道を反らして受け流し、掌から氷の槍を放つ。


グスタフは白い盾で防ぐと盾を腹に叩き込み距離をとる。


「ぐっ……!」

「【糸切り】」


大きく跳びのくのと同時にミサの糸が地面を削りながらグスタフに迫る。


グスタフが盾で糸を防ぐのと同時に風を纏い後ろに回り込む。


「なっ!?」


裏拳を脇腹に叩き込み大きく飛ばし、檻に叩きつける。それと同時にミサの風の砲弾が放たれる。


咄嗟に飛び退くグスタフに向けて指を向けて弾く。放たれた衝撃波に直撃しグスタフは天井に叩きつけられる。


「強い?」

「強い」


天井を蹴り、俺らに向けて放たれる炎の槍を大きく跳び退いて回避しながら水の刃を放つ。


グスタフは盾で水の刃を防ぐがその隙に俺の陰で【人化】を解除したミサがピンボールのように壁や檻を蹴って迫る。


鎌の打ち下ろしをグスタフは盾で受け流し、剣を振るうがミサの硬い糸で防がれ逆に積み重ねられた糸で凪払われる。


すぐに起き上がるグスタフを黒い鎖で縛りつけ引き戻し、鎧に硬くした拳を叩きつける。


「ぐっ……!?」


実力的には【擬似神格】の保有者レベルか。……なら、少しぐらいは本気でいこうか、


起き上がるグスタフを見て警戒心を上げる。それと同時に【人化】を解く。


あれに勝つにはこっちの方が良い。そもそも、大きな的の方が良いスキルをしていた。受ける事を加味した上で戦うのなら、こっちの方が良い。


人の姿から白い熊に姿が変わるのと同時にグスタフの剣が胸を切り裂く。衝撃を踏ん張って耐え、拳を胸に叩きつける。


「ま、魔物!?何故魔物がここにいる!?」

「に、逃げろ!速く逃げろ!!」


どうやら、俺らの存在が客の方にも伝わったか。向こうから勝手に逃げてくれるのなら行幸。加減せずにやれる。


何もない空間から黒い鎖を何本も射出する。グスタフは鎖を避けると同時に水の刃を放つ。


水の刃を裏拳で弾き、手を前に出す。掌から空気の砲弾が放たれる。グスタフは盾で防ぐがその背中をミサが鎧ごと鎌で切り裂く。


「なっ……!?」


いきなりの攻撃に対応できなかったグスタフの口から痛みに堪えるような声が漏れる。振り返りながら剣を振るうが空を切る。


あいつ、奇襲も上手いな。気配の隠し方が上手い。だからこそ、耐久型の俺との相性は良い。


地面から杭を放つがグスタフの剣が杭を切り落とす。それと同時にグスタフの盾から水の刃が放たれる。


それを全て受けきり、回復させながら接近。鎧に掌底を叩き込み、グスタフの身体を弾き飛ばす。それと同時にミサの糸がグスタフの脚の関節に絡まり切断する。


「ぐっ……!」


すぐさま氷の義足に変わるがミサの糸が腕を切り落とす。氷が生えるよりも速く肉薄するとストレートを腹に捉える。


……やはり、か。


肉が弾け血で染まった右手を見ながらグスタフの氷の剣を回避する。


九割をイメージして殴ってみたが……拳の方が自壊した。ステータスに身体が追い付いていないのか。制限が解除された以上、肉体の自壊が起きてもしかたないことだ。元々、【魔曲】から入る手法は危険度が高いようだし、このくらいのデメリットがあっても可笑しくないか。


魔法で回復させ、迫ってきていた剣を硬くした額で受け止めて首を振って弾く。


だが、それならそれで問題ない。元よりダメージは計算内だし、入った方が能力を底上げできる。


『合わせろ、ミサ。強襲は任せた』

『分かった、エリラル。盾役頑張ってね』




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