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老紳士

「これはこれは、メイザース様。ささ、お入り下さい」

「隣のは私の友人だ、入っても良いか?」

「勿論でございます」


うっへぇ……本当に貴族しているんだな。


頭をペコペコと下げて中に入れる奴隷商に呆れた眼差しを向けながら俺とミサは会場内に入っていく。


会場内は意外と清潔で臭いも酷くはない。だが、外の魔力よりも遥かに密度が濃い。そのため、魔力に耐性が低い子供の奴隷は気分が悪そうにしている。


『それじゃあ、ここからは別行動だな』

『分かった。……くれぐれも、大きな騒ぎを起こさないでね』

『ああ』


それって、小さな騒ぎくらいなら多めに見ると言うことだよな。なら、話は楽だな。


ミサは男性の奴隷が売られている方向に足を進めており、俺も会場内を適当に歩く。


やはりというべきか、奴隷たちの値段が奴隷市場と比べてもゼロの数が違う。だが、それに見合うだけの見目麗しい奴隷たちが揃っているようだな。


「……ふむ」

「ど、どうかなされましたか?」


適当な檻の一つの前に立ち、入れられたエルフの青年を見下ろしていると青年に話しかけられる。


「……安いな」

「あ、あはは……それでも高いと思うのですが」

「いや、そう言う意味ではない。魔力の質と量が良い。ステータスも良いだろうし、金貨百枚では安い」


キチンとした栄養を取り、運動すれば数倍の価値はつくだろう。


それにしても、ステータスを見なくても相手が保有するスキルくらい何となく分かるようになってしまった。一々戦闘中にステータスを見るだけに思考を割るのも無駄だったし、これは良い傾向だ。


「俺には買えるだけの金が今持ってないが、良い主人に出逢える事を願っている」


そう言い残してエルフの青年の檻から立ち去る。


まあ、金は十分あるが買わないのは気紛れ以外の何物でもない。羽振りが良いわけでもないしな。


「そこの君」

「……どうかされましたか?」

「これを」


他にも幾つもの奴隷たちが入っている檻を見て回っているジェントルマンと呼べる老紳士に声をかけられる。


何かと思いながら相手に悟られないよう身構えると竜の紋様が描かれた懐中時計を貰う。


「これは?」

「うむ。私は【審美眼】と呼ばれるスキルを保有しておる。その者の才能を見る特殊な眼だ。少しばかりの繋がりが欲しいのだよ」


ようは、才能を見込んで高級な懐中時計を渡しておいて繋がりを得る、と言うことか。


「それでは、どのような才能があるのでしょうか」

「……形容し難い、それでいて圧倒的、あらゆる分野で成功を掴める、そのような才能だ」


へぇ……まあ、魔物である俺にとって人間どもの地位や成功なんて興味の欠片もないけどな。


「私の名はグレム・ダージン。公爵家の当主でこの建物の所有者だ。お主の名はなんと言う」

「エリラル。奴隷専門の新米治癒魔法師です」

「精霊花から取られた名か。それに、治癒魔法師。なるほど、よく似合う」


快活に笑う老紳士と共に奴隷たちを見て回る。そのついでに記憶も盗みとり脳内で再生する。


衛生状態も市場よりも遥かに良いが……やはり、人拐いや盗賊といった強引な方法で奴隷に落ちてしまった奴らが多いどころか殆んどだ。それに、【魔曲】が起動しているのか殆んど、特に獣人たちは懇願するような眼で俺を見てきやがる。


俺はどいつもこいつも一々助ける程お人好しではない。不愉快極まりないが、全員を助けることは……出来なくはないがそのあとまで保障できる訳ではない。


「奴隷専門の治癒魔法師としてどういう見解を持ってますかな」

「まず、殆んどの奴隷が傷物ではないのは良い事だ。性病にかかってる心配もないし貴方たち貴族の嗜虐心をそそるに足るでしょう。それに、一つの檻の広さも十分で収容されている人数も三名程度とちょうど良いですね。病は人が密集しているところで発生しやすいのでこれくらいの広さと人数はちょうど良い」

「治癒の魔法師に監修して貰いましたからな、そこら辺は徹底しております。処女はプレミアムがつきますから、これくらいの高値がちょうど良いのです」

「だが、ステータスが優秀なのに安い値だったり、少し手を加えれば価値が高くなる者も多いのは事実。基礎的な読み書きに身体のバランスを考えた食事を与え、適度に運動させればもう少しプレミアムがつくと思う。基礎の上に応用が成り立つのだから」

「なるほど、確かにその通りですな」

「それと、客の選別をした方が良い。流石にすぐに壊されて買い換えられるのは少しばかり気が引ける。家畜と同じように考えるのなら、丁寧に扱える者にのみ買わせる方が良い」

「壊す壊さない買い手の勝手、私が関わる事ではありませんな」

ちっ……流石に無理があったか。


老紳士と会話をしながら見て回っていると大きな会場に出る。


ここが噂に聞くオークション会場か。三階構造で美しい絵が天井に描かれているし、柱や壁には豪華な装飾や彫り物がされていて、周りよりも遥かに綺麗だ。


「ここがオークション会場。オークションにはまだまだ時間がありますが、既にそれなりの人数が来ていますな」

「そうだな。……それでは、私はこれにて失礼する。もう少し見て回りたいのでな」

「ええ、ごゆっくりと見ていって下さい」


深く礼をして老紳士から離れていく。それと同時に老紳士と接続し、心臓に繋がる大きな血管に巻き付いていた魔力の糸を引き戻す。


ここの管理者という時点で殺害する理由にはなるのだが……流石に今殺すのはよくない。殺すのなら何時でも出来る訳だしな。


今は、この中を適当に散策しておこうかな。


「……うん?」


比較的安い奴隷たちが収容されている檻を見て回っていると一つの檻に目が行く。


檻の中には横たわるダークエルフと呼べる少女がいるだけで他はいない。それに、その少女も病気なのか息が荒く、身体を震わせている。


持病……と言うよりも環境の問題か。しっかりとした栄養を食べさせてないようだし、身体の衰弱具合から考えてもう何日も食事を取ってない事が見てとれる。キチンと磨けば極めて美しい女になるだろうに、勿体ないというべきか。値段も金貨一枚と他と比べても破格も良いところだ。


それにしても、ダークエルフ何ているんだな。少し説明してくれ。


【ダークエルフ:生まれついてのエルフの【悪魔種】。

【魔女】以上の魔力の触媒としての適性を保有している。

上記の理由からヒューマンからは勿論、エルフからも迫害を受け多くの国でダークエルフは魔女と同じく不幸の象徴とされている】


ダークエルフはエルフの【悪魔種】、ねぇ……ま、知ったことではない。


「店員、この檻の中の少女をもっと近くで見ても良いか?」


「はい、構いませんが……それは病を持っていますし餌代もばかにならないのでもう何日も食事を与えてません。それでもよろしいでしょうか」

「ああ……構わない」


餌代……てめぇらからしたらそうだがこいつからすれば命を繋げる重要なものだろうが……!!


溢れ出そうになる殺意を押さえ込みながら店員に鍵を開けさせ、中に入る。


鎖に繋がれ、重厚な首輪つけられた少女の銀髪を掴み上げて額に手を当てる。


かなり熱いな。熱が酷いし、このままだと死んでしまう。生憎と、外傷由来の病なら何とかなるが、免疫とかの病には俺の魔法は無力だ。


……仕方ないか。


「……決めた。この少女を買う」

「えっ!?……わ、分かりました。準備が終わるまで少し待っていて下さい」


驚く店員に睨みを効かせるとそそくさと去っていく。


立場上、病人をほっとける訳にはいかない。助けるものは助けなければならない。幸い、少女の病は風邪だ、栄養と休息をとればすぐにでも良くなるだろう。


「ゴホッ、ゴホッ!」


咳き込みながら震える少女の前に座ると少女の頭を太腿の上に乗せる。


流石にこんな寒い檻の中だと寝てても身体を冷やしてしまう。なら、少しでも身体を落ち着かせれる状況にするのが得策だ。


『……何してるの?』

『病人の世話』


そしてそんな眼で見るな、ミサ。性欲がどこか消しとんでる俺がこいつに手を出す事は絶対にあり得ないから。


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