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斥候侵入

「……そう言うことでしたか。先ほどはすみません」


まあ、向こうも本気じゃなかったし、ダメージもなかったから別に良いか。建物に被害が出てたら……とりあえず、締め上げていた。


頭を下げるグローリーに俺は微笑を浮かべながら静かに告げる。


「まあ、別に構わない。元気そうだし、旧友と仲を深めてくれ」


そう言って部屋を出るとすぐ近くの壁に凭れ、窓から見える半壊した城を見る。


まさか、ネームレスの正体がラスティアから伝えられた次女、グローリーだったのは意外だ。だが、ラスティアの話から普通のエルフだった筈だが……どうやら、あの計画にはもう一つの裏があるようだ。


「あ~、エリラルちゃんだ~」

「……カームか」


寝坊の常習犯のカームがこんな朝早くから起きてるとは、少し珍しい。


「うう~。昨日は殆んど眠れなかった~」

「眠れなかった?どうかしたのか?」

「帝城が夜、半壊したでしょ~?それと同時に四方を守る旅団にも襲撃があって~、生存者の治療に駆り出されたの~」


四方の旅団への襲撃……?他の『大罪』の連中による襲撃か。まさか、他の連中も裏でこそこそと動いているとはな。


いや、あいつらの事だ、俺の動きに合わせたというよりも元から仕込んでいたと考えて良いだろう。


下準備は勿論、その部下の実力もかなり高い。カームの情報が正しければ旅団の壊滅をさせれるだけの戦力を潜入させるだけの下地がこの都にあると言うことだ。やはり、あいつらは侮れない。


「それじゃあ~、私は治療院の方に戻ってるね~」

「ああ、俺もすぐに戻る」


眠気眼を擦りながらふらふらと立ち去っていくカームを見送ると病室棟の中を歩いていく。


流石に、まだ眠っているか。まだ日が明けるまで少しばかりの時間があるしな。


「あ、旦那様!」

「おう、ツバキ」


庭で洗濯物を干しているツバキに話しかけると、ツバキは向日葵のような明るい笑顔を向けてくる。


てきぱきと洗濯物を干し終えるとツバキは金色の尾を振りながら俺の前にやってくる。


「旦那様、昨日の夜にここに入れた患者様の容態は大丈夫ですか?」

「ああ。もう問題ない。今は知り合いのシンシアと話している」

「シンシア様……あの人、少し嫌いです」

「嫌い?」


案外、シンシアと仲良く出来ると思っていたが……。


「だって!私が旦那様に丹精込めて作った料理をつまみ食いするんです!許すことが出来ず、つい魔法を放ってもすぐに避けられますし!怒っても素知らぬ顔ですし!思い出したらまた怒れてきました!」


そう言っている割りには、案外満更でもない顔をしているが……まあ、別に突っ込まなくて良いか。


愛らしく歳の割に幼い顔を膨らませて不満を喋るツバキを生暖かい目で見ていると背後に気配があるのに気がつく。


……数は二人。隠し方は上手いが欺くのは苦手としているようだ。殺意は感じないし、恐らく監視が目的と言ったところか。


だが、流石に見逃せない。そもそも、ここの棟が出来た理由も理由だ、監視を排除しなければならない。


『ツバキ、俺の背後に斥候がいる。少しばかり周りを見ていてくれ』

『は、はい。了解しました!』


肩を掴み額を当てながら言葉を脳内に伝えるとツバキは顔を真っ赤にしながら周りの見張りにつく。


さて……これで準備は整った。少しばかり身体の調整と行こうか。


「おい、ここで何をしている」

「ッ!?」


振り向くと同時に風を纏い気配の真後ろに回り込む。気配が息をのむのを聞きながら軽く蹴ると草むらに実体が現れ、壁に叩きつけられる。


背後から振り下ろされるナイフを掌で防ぎ、掴んで握りつぶすと気配は地面を蹴って間合いから離れる。


流石に、見切りが早い。そして、さっき気づいたが奥の建物、大きな商会の建物の中から俺に殺意を向けている気配がする。


スリーマンセル、軍隊における最小の部隊。となれば、こいつらは師団の生き残りか。


目の前の気配から殺意を感じとり僅かに身体の軸をずらす。その瞬間、ナイフが振り下ろされ毛が僅かに切られ宙を舞う。


続く攻撃を回避することなくカウンターで掌底を腹に打ち込む。そのまま吹き飛ばされた気配は実体が現れ壁に叩きつけられる。


「……無駄だ」


奥の建物から放たれた矢を見てから回避すると腕を振るう。その瞬間黒い鎖が一直線に放たれた気配を掴み、手を引くと気配が引き寄せられる。


引き寄せられた気配に腹に掌底を打ち込むと気配は実体を出して地面に崩れる。


黒い鎖……名付けるなら【呪鎖】と言ったところか。何となくだが、これが【ハデス】に統合進化した際に外部から入力されたスキルである事が分かる。


それにしても、意識がある時にのみ実体を消すことができるマント、なのか。生粋の暗殺部隊、若しくは隠密部隊か。


だが、三人とも生かして捕まえる事が出来た。さて、どうしたものか。


「させません」

「ッ!!」


静かな男の声音が真上から響き、咄嗟に地面を蹴る。その瞬間、目の前に神官を想起させる肌を殆んど見せない服装をした男が着地する。


……エルフか。だが、敵意がある。それに、この匂いは……純粋な【精霊種】!!


「ウンディーネ直属亜神聖霊神官『水月』。これより亜神『白幻』の処理を行います」


『水月』と名乗った男が腰に携えた身の丈ほどの剣を引き抜くと同時に地面に突き刺す。


その瞬間、水の柱が勢いよく噴き出す。


身体を跳びながら捩り、回避すると同時に剣が振り下ろされ、硬くした拳で防ぐ。


重い。だが、それだけだ。


何度も拳と剣で打ち合うと後ろに飛び退きながら『水月』に指を向けて弾く。ラッパの音と共に放たれた衝撃波を『水月』は剣で両断する。


これが、俺と同じ存在……【擬似神格】の保有者か。


そして、この男はウンディーネ、『大聖霊』直属の怪物。厄介だが、ちょうど良い。まだ試していないスキルは多いからな。


腕を振り下ろした瞬間、炎の刃が『水月』に振り注ぐ。当たりそうな刃を剣で切り裂くと同時に炎の槍が地面から突き出す。


『水月』は後ろに跳びながら身を翻して回避し炎の壁を剣技だけで切り開き、霧散させる。


右手を地面につけた瞬間、溶岩の槍が『水月』の周りから一斉に突き出す。剣で槍を切り裂く。


「遅い」

「ガッ――!?」


その隙に風を纏い回り込むと背中から貫手で心臓を穿つ。


流石に、心臓を潰されれば死ぬか。


引き抜くと同時に地面に直れる『水月』を確認するとその死体を燃やす。


同じ【擬似神格】を入手した存在でもこの程度か。どうやら、同じスキルでも出力に個体差があると見て良いだろう。


それに、【擬似神格】を入手する手法が【魔曲】シリーズ以外にもあるかもしれない。この頭の固そうな神官が裏コード何て知るわけもないし、恐らく裏コードを介さずに行える手法が向こうでは確立している、と見てよさそうだ。


だが、今はどうだって良い。今はさっさと後始末をしないと。ツバキにも手伝わせるか。


【Lv.五から六になりました】

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