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目覚め

ネームレスが起きるのをベッドの隣の椅子に座りながら待つ。


俺が患者を連れて治療院に戻ったところで横にさせれるための病室がなかったため病室専門の建物に全員を移送した。


他の奴らはもう起きているが、向こうは向こうで少し困るところがあるためネームレスの部屋に隠れていると言った方が正しいかもしれない。


『やあ、昨日はご苦労様だね』


ちっ……この声はラートニグか。よくもまぁぬけぬけと。


【テレパシー】で頭に伝わってくるラートニグの能天気な声に舌打ち交じりにイラつきながら質問する。


『それはどうだって良い。……俺の身体に起きた変化について説明をしろ』


これについて知っていそうな存在は『大罪』の連中だけだ。それ以外に知っている訳がない。


『良いよ。まず、昨日の君が起きたのはスキルの『裏コード』を発動させたからなんだ』

『裏コード?』

『そう。君は経験則からだけど、スキルには説明文に書かれていない効果がある。それを裏コード、て僕たちは呼んでる』


この裏コードが何かしらの影響を及ぼした……と考えて良さそうだな。


『まぁ、裏コードもスキルによって変わるし、大きな効果もあれば小さな効果もある。……【魔曲】シリーズの裏コードは大きな効果に分類されるね』

『と、言うと?』


何となく予想は出来ている。だが、その予想だと厄介な現実が目の前にあるような気がしてならない。


『擬似的な神格の入手。それに伴うスキルの進化。それが【魔曲】シリーズの裏コードの効果さ』


やはり、か。


ラートニグの真剣な声音を聞きながら、内心納得する。


【魔曲】シリーズのスキルに共通する効果だとは流石に分からなかったが、【魔曲】シリーズが大きな影響を与えているものだと予想は出来ていた。


嫌な予想だったから当たって欲しくなかったけど。


『けど、これはかなり危険なんだ。スキルの進化……統合進化は入手していないスキルも強制的に入手して強引に進化させる手法なんだ』


確かに。【四元素魔法】が良い例だ。あれのお陰で俺は事実上全ての魔法が使えるようになった。……四元素ではなくない?


『この手法は身体のキャパシティを無視して行われる。袋に無理矢理物を沢山詰め込めば破けるのと同じく、手に入れたスキルに身体が耐えきれずに壊死してしまう』


でも、俺はそうならなかった。やはり、【逸脱種】の影響だろうか。


『これは【逸脱種】でもランクが低ければ耐えれない。高くても耐えれない。ここら辺は才能が大きく影響しているかな』


才能……神に至るのも一種の才能なのか。


『だから、僕たちも君が裏コードを使って擬似的な神格を手に入れた時には大いに驚いたよ。それに、これは僕たちから数えて数千年ぶりの事だからとても嬉しかった』

『嬉しかった?自分のライバルが増えるようなものなのに?』

『別に良いのさ。僕たちは仲間内で敵対している訳ではないし、基本的に仲の良いほうだよ。学校の仲良しグループみたいなものだ』


一気に俗物っぽいことを言ってるな。まぁ、分かりやすいから良いけど。


『それに、皆が皆、自分の思うがままに動いてるけどそれぞれ決まった道があるんだ。それに触れることもあれば触れない事もある。そこに新しい道が敷かれるだけで、僕たちの道はずっと続いてる』

『道……ねぇ』


俺の『生き足掻く』道……振り返って満足のいく熊生を送ることと同じく、『大罪』の連中にも道があるのか。


『僕の場合は『美食』かな。美味しいもの、不味いもの、苦いもの……様々な味を食べ、それを記録して楽しんだり、時には人間たちの生活に密着してそこの食事を食べて笑いあうことも好きだ』

『何ていうか、凄く壮大なのか自己満足なのかあやふやだな』

『だからこその道だよ。『憤怒』のスーラ何て『義憤』で悪に対して敵視しているし『傲慢』のプライドは『支配』で、魔物たちに文化という概念を与え、『嫉妬』のヴィーエンは『耽美』ということで芸術作品や書物の収集が趣味だし、『色欲』……は本名が嫌いだからと僕も知らないんだった。けど、確か『衰退』をこよなく愛している筈だよ。『強欲』に関しては『収集』が大好きで多くの文化、知識を取り入れて魔物たちの集まりから国を作り上げた』


何んだろう、自己満足的なものから壮大なものまで様々だ。けど、それがこいつらにとって重要な事だし俺は何も助言しない。


『話は戻すけど、僕たちは君が僕らと同じ領域に片足を踏み込んだ事がとても嬉しい。常に君の味方と言うわけではないけど、なるべくは協力関係を維持していきたい』

『別に構わない。だが、一つだけ言わせて貰おう』

『うん、なんだい?』

『ふざけた行為だけはするな。するならば俺は誰であろうと噛みつくぞ』


【テレパシー】による宣言と同時に俺の脳内に『キメラ』や人工変生計画のせいで人ではなくなった人たちの姿が思い浮かぶ。


もし、あれと同じような事、若しくはそれ以上に生々しい行いをしていれば、例え同じ『大罪』だろうと許さない。命を張って止める。それだけは曲げない。


『……まぁ、君が思うような事はしないことを約束するよ。それじゃあ、これで失礼するよ』


そういって【テレパシー】が切れたのを確認すると息をつく。


はぁ~……これで俺の身に何が起こったのか確かめる事が出来た。こいつらの元に戻し方も知りたかったが、流石にそれは知ることは出来ないだろう。知っていれば、『憤怒』辺りが既に調べているだろうしな。


「エリラル、いる?」


扉の方からシンシアの声が聞こえて振り返ると、シンシアが男勝りな笑みを向けて立っていた。


静かに、それでいて気品のある歩き方で俺の側に近寄ると椅子を持ってきて座る。


「何か用か?」

「何も。けど、無愛想なエリラルが肩入れしている子がちょっと気になったから来ただけだよ」


肩入れって……確かにこいつの様態が急変しないとは限らないから監視しているから、肩入れしているように見られても仕方ないか。


俺からすれば肩入れもくそもないけどな。


「無愛想か、俺?」

「無愛想だよ。周りと壁があるって言うのかな。他者とちょっと距離があるよ」

「……まぁ、大勢で過ごすよりも一人で過ごす方が好きだけど」

「ま、そういうところも私は気に入ってるけど」


本当に何しに来たんだ?そんな事なら別の機会にでも話せば良いのに。


「あの護衛たちはどうしたんだ?」

「二人ともぐっすり眠ってるよ。流石に朝から抜け出すのに見つかるのは面倒だからね」

「やれやれ、あの二人はお前の事が心配してるし、ちゃんと払拭しとけよ?」

「分かってるわよ。けど、あの二人がいるとすぐに周りに噛みつくし……」


確かに、二人ならシンシアが気分を害する相手と認識すれば剣を振り下ろすのに躊躇いが無さそうだし、仕方ないか。


「二人を止めるのも上の度量だろ」

「そうだけどさ、私は城のお姫様として生きるよりもこういった平民として生きたかった。上に立つ資格何て、ないよ」

「……上に立つのに資格はない。周りが上に上げるからこそ、そいつは上で生きれる。それだけだと思うぞ」


苦笑いをするシンシアに少しだけ神妙な面立ちで伝えるとシンシアは少しだけ楽になったのか俺の肩に頭を倒す。


「おい……」

「ちょっとくらい良いじゃん。まだ眠いし……」


押し退けようと頭に手を掛けるが欠伸をするシンシアを見て手を止める。


もし、ミストが見ていれば問答無用で水の剣を振り下ろしていただろうな。ある意味、運が良い。


……おっと、どこかから寒気がしたぞ。


「たく……少しだけだ――ガッ!?」


呆れるように苦笑いしているとネームレスの手から炎の槍を突き出され、反対の壁まで吹き飛ばされる。


あっぶねぇ……。咄嗟に腹部を硬化させて防がなかったら少しヤバかった。死ぬことは無いにしろ、いきなり過ぎるだろ。


「レディが眠っているところで何しているんですか!!」


飛び起きたネームレスは槍を向けると同時に突っ込んでくる。


速い。だが、今の俺には問題ない。


拳を構え、ネームレスに向けて軽く拳を放とうとしたところで、ネームレスの動きは止まる。


「離して下さい!この不届きものを滅する使命があります!」

「ちょっとは……落ち着いて!」


ネームレスの腹を抱き締めていたシンシアがネームレスにジャーマンスープレックスを行う。


「むぎゅう!?」


うわぁ……見事なジャーマン。流石にこれなら動かないだろう。


構えを解くと頭を抱えながら悶絶するネームレスをシンシアが呆れた顔で見下ろす。


「全く……何時になったらその悪癖を失くすの、グリちゃん」

「その声……まさかシンシアちゃん!?」

「知り合いか?シンシア」


見上げるネームレスと呆れるシンシアを交互に見ながら、俺はシンシアに質問する。


シンシアは呆れ交じりに親指をネームレスに向けて質問に答える。


「こいつはグローリー・クローリア。帝国の属国、クローリア王国の【起源種】のエルフのお姫様だよ」

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