炎精邂敵
夜、保護した連中が寝たのを確認して【影体】で外に出る。
目的は勿論、あのふざけた事を行っている連中を皆殺しにするためだ。
「ふざけた事をしやがって……!」
夜の街を駆け抜けながら怒りを吐露する。
宣言しよう。今の俺は持てる力全てを使ってでもあいつらを勝手に組み換えた連中を皆殺しにする。
場所は……既に分かっている。
「帝城」
帝国の城から伸びる四つの橋、その一つの前で止まり城を睨み付ける。
正確には、帝城内にある『ヴィクトール魔物研究所』と呼ばれる魔物研究では最先端の研究施設がある。あの奴隷商の受付の下にあった帳簿からそこから安値で買い付けている事が分かったからだ。
計画?知った事ではない。帝国はやってはいけない罪を犯した。その罰は下されなければならない。
「ふわぁ……」
あくびをする兵士に風を纏い高速で接近し首を【硬斬】の手刀で切り落とす。
それに気がついたもう一人の兵士に向けて【風刃】を放ち、縦に両断する。
【通常アクティブスキル:風縮地】
……新しいスキルが入手出来たな。ていうか、魔法で発動させているのに使うときは魔力なしで良いんだ。風を魔力なしで操れるスキルの保有者でもいるのだろうか。
いや、今はそんな事は関係ない。便利ならそれで十分だ。
【風縮地】を発動させて地面を蹴り城門まで走る。たった数歩で長い橋を渡り城門に近づく。
「せい!」
速度を緩めずに城門をドロップキックで吹き飛ばし中に侵入する。
その瞬間、城内からけたたまいしい程の鐘の鳴る音が鳴り響き兵士たちが駆けつけてくる音が聞こえてくる。
もう気付かれたか。いいや、あそこまでド派手な侵入をしたんだ、気付かれて当然か。
「だが、甘いな」
実力が兵士程度ではまず相手にならない事を理解しろ。
近づいてくる兵士に一歩で接近し回し蹴りを顔の横に叩きつける。軌道上の兵士を巻き込んで飛んでいき、呆然とする兵士の顔面を掴み壁に叩きつけ空気の砲弾を掌から放つ。
頭を破裂させ余剰の力で壁に大きな穴を空け建物の中に侵入する。
ついでだ、置き土産を置いてってやる。
駆けつける兵士たちの方を向き人差し指を上に上げる。
その瞬間、兵士たちの足元から杭が飛び出し串刺しにする。
さて……さっさと潰すとしよう。それにしても、Aランクに上がったからか想像絶する程に強いな。前の俺以上だ。
【Aランク:たった一頭で国の首都を陥落させれるレベル】
【傾国:国を傾ける魔性の怪物の証。
国家に歯向かう時、幸運率を上昇させる】
うわー、マジの化物じゃねぇか。だが、そっちの方が良い。
「いたぞ!こっちだ!!」
豪華かつ繊細な装飾のされた廊下を走っていると背後から兵士たちの声がする。
ちょうど良い、潰すか。
勢いをそのままに反転し、兵士たちに【風縮地】を使い近づき、【硬斬】の貫手で鎧ごと心臓を貫く。
引き抜きながら血を振り払うように【風刃】を横に放ち軌道上の兵士の身体を切り落とす。
剣を抜こうとしていた兵士の顔面を【硬拳】で粉砕し兵士たちの部隊を壊滅させると元の道を走り始める。
この城は複数の塔が繋がったような特殊な形状をしている。この城の一角にある以上、さっさと潰すに限る。
大広間に侵入し待ち構えていた兵士たちの部隊を壊滅させる。
部隊から息の根が絶えたところで研究所の方に向かおうとしたところで氷の大剣が目の前に振り下ろされる。
咄嗟に【硬拳】で粉砕していると奥の扉から水色のローブに身を包んだ眼鏡をかけた男が大広間に入ってくる。
「野蛮な侵入者ですね。まさか、この帝が統べる帝城に侵入するとは何て命知らず何でしょうか」
軽薄な笑顔を浮かべる男は天然パーマ気味の髪を後ろに流すとこちらに向けて手を振るう。
その瞬間、氷の短剣が空中に幾つも錬成され勢いよく放たれる。
「うるさい」
迫る短剣に向けて手を伸ばし指を弾く。【福音】によって放たれた衝撃波で氷の短剣を全て破壊し弾く。
「おや、これは……良いですね。実験台としてはもってこいじゃないですか」
男はそう言うと邪悪な笑みを向けながら指先からレーザーを照射してくる。
咄嗟に回避した瞬間、先程までいた場所に氷の柱が立つ。
「ははは!これは良い。これほどの力があればあいつらを私一人でも壊滅させれるでしょう……!!」
両手の指先から計十本のレーザーを振るいながら男は高笑いする。
ちっ……攻撃の振り方は完全に素人だが攻撃の量が多くて捌ききれないか。
なら、これならどうだろうか。
【風縮地】を起動させ地面を蹴る。レーザーに当たりそうになり、地面を蹴って壁の方に向かい壁を蹴って大きく空中に跳び魔法で宙に浮かぶ。
「【召喚術】」
天井に大きく複雑な模様が描かれた円が現れた瞬間、様々なゴミが地面に落ちていく。
殺した冒険者の死体やら鎧やら剣やら、食糧等の邪魔なものだ、しっかりと受けとれ。
「なっ!?」
そして、これで止めだ。潰えろ。
「【人格汚染】」
男が驚いている隙に封印していたスキルを発動させる。
スキル名を言った瞬間、掌から紅い触手状のオーラが現れ男を呑み込む。
「アァァァァァァァァァァァァァァ!?」
その瞬間、おぞましい程の狂声を男は上げる。
うっわぁ……喉を掻きむしって出血させてるし目も充血させて悶えてるよ。しかも、そんな状態だからこのゴミ落としを防ぐことも回避する事もしてない。自分の所業ながら流石にやり過ぎたか。
そうこうしているうちに男の身体はゴミの山に埋まる。完全に落ちきったところでゴミの山に降りる。
さて、さっさと元の場所に戻して向かわないと――!?
「【炎突き】」
本能が警鐘を鳴らした瞬間ゴミの山を蹴る。その瞬間、スキルの声が聞こえるよりも速く一直線に放たれた炎がゴミの山を燃やし尽くす。
あ、あぶなかった……流石にこの威力だと【火属性耐性】や【熱耐性】でも防ぐのは難しかっただろう。
「避けられましたか」
槍を回転させながら銀色のビキニアーマーを装備したエルフの女が頭の羽の着いた兜を押さえながら扉の一つから現れる。
おいおい……最悪の展開だぞ、これは……!!
女の姿を見た瞬間、この先の展開を予想し冷や汗をかく。
女の全身に植物のような虹色の紋様が走り、普通のエルフよりも規格外かつ遥かに強い魔力の流れ。
間違いない。こいつは……!!
「【起源種】――!!」
「私の名前はネームレス。ここで貴方を……殺します」




