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人工変生計画

奴隷たちを治療院に押し付けて奴隷商の店の中に入る。


最初の契約の際に病人の保護を入れておいて正解だった。これであいつらは保護され、最低限の安全は確保された。なら、こっちはこっちで動かないといけない。


【追放術】で店主の死体を退けて受付のテーブルの引き出しを取り出して中を漁る。


こういった場所は帳簿を付けてない可能性があるが……弱味は握っておいた方が得をすると考える人間多い。元より弱味だろうと他人の目を気にしない俺にとってはどうでも良い話だが、そういった連中程裏では帳簿を付けている筈だ。


「よし、あった」


引き出しの奥に隠されるように仕舞われていた帳簿を取り出す。


さて、さっさと戻って出所を見つけるか。


「おや、君も来ていたのかい」


ん?声が聞こえ――!?


咄嗟に腕を振るい風の砲撃を放つと同時に水の砲撃どぶつかり合い、互いに対消滅する。


「うん、及第点かな。君とボクが実際に出会うのは初めてだよね」

「……ああ」


扉から背後に回り込んできた何かに向けて【風刃】を放つが回避される。


ちっ……何らかのスキルで速度を跳ね上げているようだな。しかもさっきまで魔力の感覚は勿論、臭いもしてなかった。


それは、俺の探知能力で捉えれなかったと言うことになる。


「いやー、【隠密】と【擬態】には自信があったんだけどね……流石最有力の候補と言うべきかな」

「……いい加減の試すのは止めろ、ラートニグ」

「はいはい」


そう言うと本棚から一頭の栗鼠が降りてるくる。

身長は三〇センチより少し大きい。森林に溶け込むような迷彩柄の毛皮を持ち、普通ではない螺旋を描く角を額から出している。


……気配が全くと言って良いほどない。目の前にいても置物と思えてしまう程だ。これが『大罪』……か。予想以上に怪物だ。


「それにしても……いいなぁ、君は人間としての姿を持っているんだね」

「そう言うお前も持っているだろ?」

「嘗められるから好きじゃないんだ。見た目年齢一〇歳は流石に、ね」

「……それで、お前は何しに来たんだ。ただの顔合わせ、何てつまらない事を言う訳ではないだろ?」


『大罪』の連中は気紛れで動く事が多いがその裏にはキチンとした理由がある事が多い。こいつにも何かしらの理由があるだろう。


「うん。ボクの目的はあり得ない肉体改造の証拠を掴む事かな」

「……あいつらなら既に運んだ後だ、場所は既に知っている筈だ」

「知ってるよ。それについてキミに情報を共有しようと思ってね」

「……お前の目論見通りに動くと思っているのか?」


少なくとも、こいつのために動くと言うことはあり得ない。


「分かってるさ。これをキミにあげに来たんだ。これはキミが決断をするのに必要なものだと思ってね」


そう言ってラートニグは俺の目の前に紙の束を召喚しどっかに立ち去ってしまう。


ちっ……もうラートニグの行方が分からなくなっちまった。悪意も害意も感じなかったから本当に必要だと思って置いていったのかよ。あいつもパッと思い付いたから行動した……のだろうな。


そして、それを可能にする戦力をあいつらは持っている……まだまだ届きそうにないな。


「さて……」


テーブルに置かれた紙束を拾い、表紙を見る。

えっと、『人工変生計画』……?あいつらに関する計画か。ホント、どこからこんなものを入手したのだか……。


呆れ混じりに表紙を捲り、内容を静かに読んでいく。


『人工変生計画は国家規模の一大奴隷販売計画です』


「…………」


『第一段階は既存の生産場にて個体数を『ゼピ・トリマス』と『タマリス』を用いた製法にて増殖。これにより適合者を増やします』

『第二段階にて特定の場所に適合者を収集。改造技術にて購買者のオーダー通りの肉体に加工し出荷します。これにより外貨の獲得を行います』


ここまでは俺の知っている奴隷量産と販売の内容だ。だが、まだ先がある。


『第三段階にて一部を研究所に搬送、特殊な改造を行い人工の【精霊種】、【悪魔種】、【吸血種】を生み出し奴隷、又は軍属の奴隷とする』


ここからが今回の内容に関わってくる話だ。


『当研究所は魔物の研究、それを軍事的に転用する事を旨とする。

一〇年前、聖王国が『怠惰』の討伐に成功した事によりこの一大プロジェクトが発足。

研究所にて密偵より入手した『怠惰』の肉体より『精霊因子』、『悪魔因子』、『吸血因子』の抽出、繁殖に成功。

これら因子は魔物、人間の体内に取り込ませる事に進化と関係なく肉体を組み換え【精霊種】、【悪魔種】、【吸血種】へと変化させる。

一部の魔物が持つ【眷属化】のスキルを人工的に再現する。これを『擬似進化』と名付ける。


これにより、一般的な人間や亜人でも戦力と組み替えれる。


しかし、この『擬似進化』に必要となる因子は空気に触れる事によって死滅してしまう。【眷属化】において肉体へ直接噛みつく必要があるのはこれが原因であると推測。

そのため、事前に因子に適合する肉体へと身体を組み替えなければならない。

『農場』にて複数の因子を過剰に取り込ませ魔物へと進化した個体、固有名『キメラ』を配備。着床が確認され次第母胎の中にチューブを腹から接続し因子のどれかを流し込むことで因子に適した個体を作成する事によって問題を解消』


最初の数枚に書かれていた内容を深く読み、残りの肉体の改造過程を流し見した後、俺はレポートを握りつぶす。


……嘗め腐った内容を書き連ねやがって……!!


地獄の怨嗟とも呼べるような憤怒が身体の奥底から沸き上がり、喉から怒りに満ちた唸り声が登ってくる。


これを許す?そんなことをするつもりは一切無かったとは言えこれは俺の予想を遥かに越えていた。およそ、まともな感性ではない。


魔物への変化は別に良い。そう言った魔物がいることを風の噂で聞いたことがあるし、【眷属化】という手法があるからな。


だが、キメラの作成だけは許しがたい。


俺の脳裏を『農場』で戦った化物の姿が思い出される。


あいつだって元は普通の人間だった。『農場』出身の奴隷だろうと環境さえ変わればそこから人間として生きれる事を知っている。


だから、許せない。


キメラと呼ばれる異形の化物に組み替えられ、生物らしい生き方を真っ向から否定している存在を生み出したこいつらを見逃す訳にはいかない。


しわくちゃになった紙束をテーブルに置き、帳簿を確認する。


もう四の五の言っている状況ではない。こんなものが存在している事を俺ははいそうですか、と見放すことは出来ない。場所がどこであろうと見つけ出し、潰してやる……!!


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