あり得べからざる奴隷たち
朝食を取り終えて俺は救急箱を入れたバッグを背負いのんびりと街の中を歩く。
今日は外回りか……まぁ、外回りの連中はそれなりに楽しみながら行ってるし俺も治療院よりは幾分か楽になるだろう。
「それにしても……やはりデカい街だな……」
管理が難しいだろうに、よくもまあ作ったな……それだけのメリットがある、ということなのだろうけど。
「そして、こういったところに影が生まれる、と……」
脇道を通り裏通りに抜けた瞬間、陰鬱とした魔力を肌に感じとる。
舗装されていた石畳は捲れ上がっている部分があり、建物も劣化が激しい。まさにスラムと言った風貌の街に変貌した。
俺としてもこっちに迷い混むつもりは無かったが……まあ良い。こっちの方も探索し
「死ねぇ!!」
ながら犯罪組織でも潰そうかな。
物陰から現れた男がナイフを突き出してきたため右の指と指の間をナイフを通し手を掴み引き寄せ体勢を崩し、腹に膝蹴りを打ち込む。
気絶した男を放り捨てると建物の中や物陰から悪い笑みを向けてくる男たちが出てくる。
どいつもこいつもナイフを持っているようだが……ダメだな。持ち方がなってない。そんなので俺に勝つつもりなのだろうか
「おい……有り金全部置いていき」
「置いてく訳ねーだろ、バーカ」
話しかけてきた男に挑発しながらノーモーションで地面を蹴り横切りながら【硬斬】を振るう。
「がっ……!?」
「さて……さっさと殺させて貰うぞ」
肉が抉り切られ、絶命した男を見ながら俺は笑う。
魔法で退路を一つを除いて塞ぎ戦慄するチンピラどもに向けて拳を構える。
一々面倒だし潰してやるよ。
「か、数はこっちの方が上だ!押し潰せ!」
数と戦力はイコールではない。
吼えるチンピラに接近すると【硬拳】のストレートで顔面を砕き壁に叩きつける。
壁の一部が砕かれたところで後ろから来ていたチンピラたちのナイフを【硬化】させた服で弾きへし折る。
整備がなってない。脅しの道具だったからだろうか。……まあ、そんなものどうでも良いか。
「殺すのだから」
チンピラの一人の頭を掴みコンマもかからずに頭を握り潰して捨て、突撃してくるチンピラの首を掴み【硬斬】の貫手で心臓を穿つ。
手を引き抜くと同時に背後に回り込んでいたチンピラが俺の身体に抱きつく。咄嗟に風の砲弾を放ちグシャグシャの肉塊に変え、勢いよく突進してきたチンピラの頭を踵落としで打ち砕く。
「な、何だよこれ……!」
「に、逃げろ!こんなの勝ち目がない!」
俺の実力に恐怖したチンピラどもが我先にと背後の道に向かって走り始める。
確かに逃げられれば土地勘のあるチンピラなら俺を撒けるだろう。
だが、何故逃げ道を一つに限定したかを考えればそれが罠である事を理解できただろうに。
指を弾く。その瞬間チンピラどもの足元や横の家屋の煉瓦から杭が飛び出てチンピラどもを刺し穿つ。
これで全滅……と。あ、誰かしら残して親玉でも聞き出しておけば良かったかもしれないな。ま、そこら辺はどうでもいっか。この程度のチンピラを野放しにしている時点でその組織はどの程度なのか知れるしな。
男たちの死体を放置して手や服に付着した血を【召喚術】で戻した水瓶の中にある水を被り洗い落とす。
ずぶ濡れの状態から風を当てて乾燥させると水瓶を【追放術】で元の場所に飛ばし、スラムの中を歩く。
スラムはアルマティアで見たが、やはりこの停滞仕切った空気は気に食わん。生きる気力を失っているものを見るのも一々イラつくしな。
「ん……?」
寂れたスラムの中にボロいながら一風変わった店を見つけて興味を見いだす。
へぇ……奴隷商か。まあ兵士の見回りも無さそうな場所に店を構えている時点で表に出せないものを専門に扱っているのは分かっているが……まさか、こんなものも奴隷として売っているとはな。
店内に入り、店の受付で寝ていた店主を風の弾丸放ち眉間を撃ち抜いて殺すと店の奥に入る。
「助けて下さい……!」
「助けてくれ!!」
どいつもこいつも、積極的に俺に声をかけてくるな。まぁ、別に助けるけど。
店の奥には幾つもの牢がありその中にヒューマンは勿論、獣人やエルフまで揃えられ、首輪には値段が付けられたタグが付けられていた。
人数は一〇人くらいか。しかし、この匂い……どうやら、この国の裏側でとんでもない事をしている連中がいるようだな。
「おい、小僧」
「な、なんでしょうか」
檻の中に入っている少年に話しかけて尋ねる。
「お前は何故【精霊種】になっている」
少年への問いかけに、少年やそれ以外の牢の連中も押し黙る。
まぁ、知らないだろうからな、答えれないだろうし、仕方ないだろう。
ここにいる連中の匂いは【悪魔種】だったエンゲツ、【精霊種】のイスタリ、【吸血種】のミサとよく似ている。が、純正ではなくシンシアのような混ざりものがある匂いだ。
だが、それは重要な事ではない。今重要な事は人為的な種族改変……それを成功させた連中がこの国の中に存在すると言うことだ。
エルフや獣人を拘束し『農場』に送られていた人間たちの中には、この肉体改造を受けて別の種へと変化させられた奴もいるだろう。
だが、そうこう言ってる場合ではない。【テレパシー】で連絡しておこう。
『おい、ツバキ。今治療院にあの女はいるか?』
『いますけど……どうかしましたか?』
『今から一〇人程患者を送る、準備をしといてくれ、と伝えておいてくれ』
『わ、分かりまし――あ、シンシアさん、つまみ食いは止めてください!』
ツバキはシンシアと仲良くやってそうだな。
【テレパシー】を切ると奴隷たちの牢を全て魔法で溶かし首輪を【魔力糸】で繋ぎ真っ二つに破壊する。
「俺についてこい。助けてやる」
奴隷たちに告げた後さっさと店から出る。そして唇を舌で舐め口角を上げる。
どうやら、このふざけた事を行っている連中を徹底的に潰さないといけないようだ。




