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狼姫模擬戦

早朝、まだ日も完全に昇らずまだほんのりと暗い時間に裏庭に出る。


裏庭の広さは八メートルくらいあり、案外広く一部は薬草の畑になっている。ここなら練習には丁度良い。


クラウチングスタートの体勢をとり、脚に魔力を【収束】を発動させずに集め、解き放つと同時に地面を蹴る。


瞬間的に高速にたどり着き壁にぶつかる直前に壁を泥にして柔らかくしてクッションの代わりにして衝撃を和らげる。


「……これはダメか」


踵を鳴らして脚の具合を確認しながら壁を元に戻す。確認を終えると先程スタートした場所に戻る。


俺が今やっているのは【加速】を入手するための練習だ。俺の足の速さではミサと比べて確実に劣る。戦闘方法からミサとは全く違うが流石に持てるだけ持っておいた方が良い。


出来るなら【縮地】や【天足】を保有しておいた方が良いかも知れないが……流石に種族的に入手できるか怪しい。


何度か手法を変え壁に向かって走ってみるが一向に獲得できない。


流石に【転生者】でもそうそうに入手出来ない、という訳か。


「何をしているの?」


上から声がして見上げると窓から右腕に紋様を刻んだ少女が飛び降りて地面に着地する。


少女は活発を絵に描いたような笑みを浮かべており、どこか気が楽になったような表情をしている。


……【悪魔種】になった少女か。見た感じ元気そうだし体力も元に戻ったようだな。


「【加速】を習得するための練習中だ。……そういうお前も護衛二人を置いてきていいのか?」

「別に良いわよ。あの二人は今ぐっすりと眠っているし。ほら、私は『睡眠』の【悪魔種】になったのだからこれくらいはしておかないと」


『睡眠』……生物を眠らせるだけの単純なものだが戦闘に生かせるか些か怪しいな。


「ねぇ、少し私と戦わない?身体の調子を確かめたいしさ」

「……良いだろう」


少女の好戦的な笑みで拳を構えたためこちらも拳を構える。


さて……どう戦おうか。流石に属国とはいえお姫様を殺してしまうのもどうかと思うし、少し手加減を


「せいっ!」

「うおっ!?」


一瞬の肉薄と共に鞭の如く右脚が画面を捉えかける。咄嗟に右手で防御し左手の拳を突き出す。


少女は俺の拳を左手の甲で外に拳を逸らし左足で地面を蹴り距離をとる。


ダメージは殆んどないとはいえあの速度……ステータスを見るほどではないが流石に手加減出来そうにないな。


足を踏み出し腰を少し落とし、地面を蹴り少女に接近する。拳の間合いに入ると同時にジョブを放つ。少女は下腿で拳を防ぎ踏み込み発勁を放つ。


胸を穿つような衝撃を受けながらも拳を引き再び鋭くストレートを放つが少女の蹴り上げを受けて逸らされ距離を取られる。


へぇ……中々やるな。


高速で踏み込み放たれる少女の蹴りと同時にクロスカウンターを腹に叩き込む。


「ごっ!?」


少女の身体がくの字に曲がると同時に脚を払い地面に倒し蹴り飛ばす。


「がっ!?」

「……力に頼り過ぎだ、戯け」


そもそも、クロスレンジで俺に勝てると思うな。こっちはカウンター戦法だし当たってもそこまでダメージはない。


よろよろと立ち上がり壁の傍に置かれていた木箱に座る少女の隣に立ち見上げてくる少女を見る。

……普通に可愛い顔立ちしているな。


栗色の髪はボサボサになっているが細かいところまで手入れが行き届いているし整った顔も汚れはあれど良い状態を保っている。まだ若い事を差し引いても全身をしっかりと手入れしている証拠だ。


流石の俺も一般的な審美眼くらいは保有している。感性は魔物ゆえに違うけどな。


「いやー、負けた負けた!」


活発に、それでいて竹を割ったような爽やかな笑い声を上げる少女に俺は辟易とする。


やれやれ、そうも清々しく負けるヤツがあるかよ。まぁ、殺す気でやってはいないし、別に構わないけど。


笑う少女に俺は助言というなの反省点を突きつける。


「お前はまだ【悪魔種】の身体に慣れてない。その状態で【悪魔種】である俺に挑んだ、負けるのは当然だ」

「あんた、【悪魔種】なの?私にとっては良い目標になるわ」

「向上心があってなにより」


そっちの方が好感を持てる。この弱肉強食の世界では常に上がれる者が強者なのだ。


「それに、俺は魔法もスキルも使用しなかった。それはお前も同じだろうがより差があると思った方が良い」

「強いね、あんた。名前は?」

「エリラル。そっちは?」

「シンシアよ。強き獣に会えた事に幸運を」

「……それは挨拶か?」

「強者に対する敬意かしら。私、姫としての仕事よりも拳や剣を握ってる方が好きだもの、そこら辺の敬意は払うわ」


さばさばとしながらも気品のある態度をするシンシアが間合いを取り始めたため俺も間合いをとる。


第二ラウンドか。まあ良い。今度はスキルをオンにしてやってみるのも一興か。


「【氷剣】プラス【風脚】」

「遅い」


シンシアが氷の剣を創り風を脚に纏うと同時に風の砲弾を放つ。


……流石に当たらないか。


シンシアは土煙の中から先程よりも速く接近し氷の剣を振るう。氷の剣を右手の【硬拳】で防ぎ打ち砕き泥の刃を地面から突き出す。


頬を掠らせながらシンシアは回避し間合いを取り新しく氷の剣を創り再び地面を蹴る。


「せいっ!!」


空気を蹴り跳弾のような軌道で接近すると同時に剣を突き出してくる。軌道を予測し【硬斬】を振るい氷の剣を砕いていく。


速い。だが一撃一撃の攻撃の重さがなく【硬化】なしの俺の身体でも問題ないくらいだ。これの狙いはなんだ?この攻撃の次が読めない。


「【氷剣】プラス【風巻】」


シンシアは距離を取ると同時に氷の短剣を織り混ぜた竜巻を放つ。


なるほど、これが狙いか。だが、無駄だ。


風の旋風により竜巻を霧散させ氷の短剣を全て打ち落とし砕く。して、シンシアは……


「【硬化】!!」


後ろか!!


背後に回り込んでいたシンシアの氷の剣を咄嗟に【魔力糸】で防ぐ。


流石に今のは少し冷や汗をかいたぞ……まさかあその高速攻撃は俺の目を慣れさせて一気に緩め、視界の端に移動するためのものだったか。


だが、狙いが分かってしまった以上時間をかけることはない。


糸を紡ぎ形状を槍に変えると手に持って横に大きく振るう。シンシアは氷の剣の腹で防ぎ大きく弾かれる。


槍を回転させながら接近し下の方から切り上げる。シンシアが氷の剣で防ぐと同時に糸を解きシンシアの身体をぐるぐる巻きにする。


「きゃあ!?」


体勢を崩しシンシアは可愛い声を出して地面に倒れる。


さて、これで第二ラウンドも俺の勝利だな。


「スキルを使っても勝てないの……」

「【悪魔種】なら【魔力操作】は持ってるだろうしそれを利用すればこれくらい出来るようになる」

「確かに出来るけど……まだ慣れてなくて」

「そこら辺は努力しろ」


やれやれ……俺は教える事は出来ないぞ?


【魔力糸】を解除してシンシアを解放すると室内に戻る。


中々に強かったな。自力もあるし戦いのセンスもある。【悪魔種】としてはまだまだだがそれなりに強くなるだろう。


だが、まだ人間としての常識が残ってしまっている。それがシンシアのセンスを妨害している。もしそれが取り除かれれば面白い事になりそうだ。



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